第21話「クレームと苦情」

「皆さん、誤解していると思いますが、クレームは放っておいていいのですよ。その代り苦情は別物です」

 

 各警察署長、部長クラスが集う内部研修で私は居眠りしていた。

 

「そこのあたな、いつもクレーム対応をどうしていますか?」

 

 私は眠っており、話を聞いていなかったが適当に話をあわせた。

 

「えーと まず 相手の話を聞きます」

 

「ブー 違います」

 

「クレームは放っておいていいのです。わかりましたか?」

 

「わかりました」私はうる覚えで自分に言い聞かせる。

 

 

 ある日、有名な常連のクレーマーが来た。

 

 私は研修の手法通り、放っておいた。

 

 その日はおとなしく、お茶だけ飲んで帰ってくれた。

 

「これで良かったんだ」

 

 次の日も、また次の日もクレーマーは幾人も来たが、同じように放っておいた。

 

 皆おとなしく帰った。

 

 

 ある、雨の降る陰鬱な日、遂に「九条」という男が訪れてきた。

 

「放っておくか対応するか」私は悩みに悩む。

 

 

 研修では苦情には対応せよということだった。

 

 結果、どちらにするかの判断を間違い、私は大失態を犯す。

 

 

「放っておけばいい」

 

 九条は我が街の中心部である南9条3丁目付近の一番高い建築物を爆破するといった強行に出た。

 

 理由は自分の名前は「苦情」なのに「九条」と間違われたということだけで。

 

 あまりにも理不尽なことに思えたが、本人にとっては名前を間違われるということほど許される余地のない理不尽さはなかった。

 

 私は理不尽にも警察署長から降格され、今裸一貫の身である。南9条3丁目のモニュメントの崩れた先が私の新築したばかりの住宅だったから。


 災害給付窓口で私は理不尽にも、住宅ローン返済免除請求を却下される…。

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