第20話「カルマ」

「ねえ ねえ お父さん カルマってどんなクルマ?」

 

 小学1年生の息子は聞く。

 

「ちょっと説明が難しいが、お前が52歳くらいになったら理解できるかな」

 

「どうして、今おしえてくれないの?」

 

「お前にはまだ早い」

 

「お父さんのケチ」

 

「いいから…お眠り。クルマの絵本を読んであげる」

 

 

 

 父親は子供が寝静まった後、ひとりドライブに出かける。

 

 湾岸通りから高速11号線に入り、レインボーブリッジを通過する。

 

 愛車の名前は「カルマ」。

 

 カルマでレインボーブリッジの両端を通過し切る地点でUターンを繰り返し、行き来すると、到達すところは、そこは「カルマの地」。

 

 

 車を「ヴィーナスフォー」の横につけ、シートをゆっくりと倒し、ひとり思い出す。

 

「妻が生きてた頃のこと」

 

 

 2回目で初めて妊娠した時の妻の笑顔。

 

 一人目が流産した時の涙。

 

 必死に肩を抱き寄せる自分。

 

 ひとりっ子の息子が生まれた時の歓声。

 

 妻が同時に命を引き換えた時の涙。

 

 必死に息子の肩を抱く自分。

 

 再婚者からまた男の子が生まれる歓声。

 

 再婚者も命を落とす宿命。

  

 ふたりの息子がいがみ合う運命。


 

 父親はゆっくりとカルマのシートを起こす…。

 

 

 父の死後、財産相続を巡って、後後妻と子たちがいがみ合う。骨肉の争いだ。

 

「カルマは俺のモノ」

 

「いや、カルマだけはおれにくれ」


「私は現金だけで結構よ」

 

 遺産分割協議がいつになっても整わない。堂々巡りだ。

 

「クソ こうしてやる」

 

 三人は同時に刺し違える。

 

 三人の命は尽きる。これもカルマだと死ぬ瞬間それぞれが悟り合う。

 

 

 

 家や預金や土地は全て父の兄弟に相続されたが、愛車の「カルマ」だけは気味悪がれ誰も相続してくれなかった。

 

 夜な夜な、「カルマ」は勝手に無人でドライブに出かける。

 

 湾岸通りから高速11号線に入り、レインボーブリッジを通過する間際、ドリフトでUターンし、車が止まる。

 

 無人なのにゆっくりとシートが倒れる。

 

「カルマ」自身が思い出す。

 

 自分が犯したなる罪をどう後の世代間せだんかーに償わせるかを……。 

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