第19話 「YOU are ロック」

昨日、何度聴いても懐かしく思える最近発売された曲を娘から教えてもらった。切なくて甘くて酸っぱい中学生の頃ぼくが始めて買ったレコードを聴いているような感覚に陥った。

 

 うっかり曲名を聞くのを忘れた。

 

 

 それから、娘は思春期になり、ぼくとは一言も会話してくれなくなった。成長の過程で当然なことだ。



 ぼくは、休日、ふらりとひとり喫茶店に入る。孤独な時間をコーヒーと共に楽しむためだ。

 

 えっ!あの曲が流れている。歌詞やメロディを聴いても曲名が一切出てこない。なんという曲名か知りたくて、スマホの音声認識機能を使うが反応しない。

 

 喫茶店のマスターである外国人が話しかけてくる。

 

「ARE YOU! そこの YOU! ROCKじゃないよバラードだよ」

 

 

 ぼくは会計を済ませ、家に帰る。もう結婚して世帯を構えている娘に思い切って電話して聞いてみる。

 

「あっ その曲なら、『ロックじゃないよバラードだよ』ていう曲だよ」

 

 驚いた。それからぼくは朝と寝る前にそのバラードを聴き、娘との思い出に浸っている。


 ぼくはバラードしか聴かない。


 騒がしく眠れない夜がつづく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る