第3話 エリザベスと新弟子試験 1

 武蔵始発の中央リニアに家族に見送られながら乗車し、信濃、飛騨、美濃を経て近江に入る。

 そこから在来線に乗り換え、安土京のちょっとはずれの駅で下車する。

 駅には既にあたしと同じ世代の子を中心に、沢山の女の子の姿を見かける。

 恐らく今年も100名を超える入門希望者がいて、この子たちはその一部なのだろう。

 あたしは両手で頬を張り気合を入れると、荷物を手に安土女子プレスの本拠たるマンションに向かうのだった。


 安土女子の本拠があるマンションへは迷わずにつくことができた。

 入門試験を受けに来た女の子たちの流れがあったのと道案内に立ってくれてる若手の人達が迷わないよう立ってくれていたからだ。

 そしてマンションの一階に部屋をぶち抜き2階部分をぶち抜いた広々とした道場に簡易的なテーブルを置きそこでエントリーシートとゼッケンを交換する。

 私のゼッケンは108だった。

 それでもまだ後ろに並んでいる女の子はたくさんいるので今年の入門試験希望者は150人以上…もしかしたら200人くらいいるかもしれない。

 みんなあのリングに憧れてやってきた競争相手ライバルなのだ!


 ゼッケンを受け取った者は道場の奥に行き、そこで動きやすい服に着替えるよう指示される。

 更衣室もあるようだがこの人数では入りきらない。

 道場内にいるのは女の子ばかりだ、職員の男性も少しいるが着替えの様子を盗み見する様子もなく、そもそもそんな余裕などないくらい忙しく立ち働いている。


 まぁ、ここに元おっさんがいるんだけどね。


 しかし、今のあたしは女の子もいけるけど男の子もいける。

 けどこのすし詰め状態の女の裸には美を感じないので、淡々と自分の着替えを終え長い金髪を後ろでまとめる。


 着替えが終わったら道場の中央部に二つ置かれているリングと、その向こうにレスリングマットがあるので、それを囲むように座る。


 しばらく待つと入門希望者の手続きが全て済み、全員が着替え終わりリングを中心として並んで座る。

 リングに数人の男女が昇る。

 社長の元レスラーのジョニー・キッドと試験官を務める先輩レスラー達だ。

 中には中堅どころの人もいる。

 社長が前に出て、


「皆さん、ようこそ安土女子の試験に来てくれたわね。試験内容は一次試験としてまず柔軟、その後腹筋100回から順に、足上げ腹筋50回を2セット、クランチ40回を2セット、背筋40回を2セット、プッシュアップ20回を5セット、前方ブリッジを30回、背ブリッジ前後を30回、スクワットを200回、ジャンピングスクワットを50回これは達成できなくともできるところまでやれば相応の評価をしますし、それをやっているときの動き方などを含めて審査します、その後は反復横跳びと50m走、いずれも成績上位者が優位になります。メニューをこなすうち無理だと思ったらそこに座って待って頂戴ね、怪我が一番怖いから。今日は184人の希望者が来たので一次試験の上位30名が二次試験に進むことになります。二次試験はうちの若手と打撃なしで5分間のスパーリング、そこで私たちを納得させられたら面接ね。面接を受けた人には一ヶ月以内に合否通知を送るから、春から入寮してもらいます。以上質問は?」

 社長が問いかけるが誰も返事をしなかった。


 試験官を務める中堅レスラーから指示が飛ばされ番号ごとにいくつかのグループに分けられたあたしたちは試験官の指示で並びなおしつつまず柔軟を始める。筋や腱、筋肉を傷めないよう、軽めの運動で体を温めてから反動をつけず、息を吐きながら、じっくりと筋肉を継続して伸ばす。

 バレエと体操を幼い頃から習っていたあたしの柔軟性はかなりのものだ。

 その後腹筋、足上げ腹筋と試験メニューを余裕でこなしていくが、驚いたことに

 腹筋100回すらまともにこなせない入門希望者が少なくないことに気が付いた。


 一次試験はきちんと準備をしてきたかの確認なのかな?

 と思いながら、しっかりとメニューをこなす。

 試験のメニューをこなしていくうち、途中で座らず残っている子は大体同じメンツで、しかもかなり鍛えられてそうな体つきの子ばかりである。

 ジャンピングスクワットを規定回数終え、息を整えていると入門希望者を詰めさせ床に線を引いた場所を開け反復横跳びをグループごとに行う。

 15人ほどのグループに一人の試験官がついていたが、反復横跳びは入門希望者が二人一組になりお互いの結果を数え合うようだ。

 余った子は試験官と組む。

 この試験もかなり上位の成績でこなせたと思う、少なくともペアになった子よりはかなり数をこなせた。

 反復横跳びを終えたグループは試験官に連れられマンションの前にある公園で50m走の試験を受ける。

 全員が試験を終え道場に戻って息を整えていると、道場の一角で入門希望者の成績結果をもとに一次試験の合格者の検討をしているのだろう、社長や試験官たちが喧々囂々のやり取りをしている。

 メニューは問題なくこなしたけど、動きもみるって言ってたのが気になる。

 そして入門希望者は休憩と食事をとるよう若手の選手が指示を出すと、それぞれが緊張しながらも軽く食事をとり体を休める。

 その間の試験官たちは話し合っていた。

 そして一時間近く話し合いをした結果、30名の一次試験合格者が発表されたのだった。


 あたし以外で一次試験を合格したのは

 ・女子大生くらいのしっかりした体つきのきれいなお姉さん

 ・高校生くらいの黒ギャル

 ・髪を赤く染めたヤンキーっぽい子

 ・ぽっちゃりさん

 ・優しげな雰囲気の背の高い子

 ・ショートカットの期のきつそうな子

 ・角刈りで背が高い子

 ・ロングを髪を茶髪に染めた背が小さいのに性格のきつそうな子

 ・空手着を着た子

 ・これでもか!と色気を放つお姉さん

 ・背の低いぽっちゃりさん

 の11人が目を引く、あたし以外の18人は垢抜けた感じのスポーツ少女という感じの子が多かった。


 番号順を呼ばれレスリングマットの方でスパーリングを行うようだ。

 神聖なるリングに素人を上げるわけがないか…


 一人目の垢抜けたスポーツ少女が良いところなく固められ、関節を極められ次々タップする。

 ほぼ5分間タップしただけという感じだ。

 スパーリングパートナーの先輩レスラーも一人一人交代しながら試験を行うが、二人目も三人目の入門希望者も同じような感じでひねられて試験を終える。

 違ったのは四人目の女子大生っぽいしっかりした体つきのきれいなお姉さんだ。

 手四つを誘いながら低くて速いタックルで試験官の両足を刈ると、そのまま上に乗り良いポジションを維持したまま首を極めに行くとすぐにタップを奪う。

 その後もきれいなお姉さんは終始試験官を圧倒し続けた。

 それに発奮させられたのか、黒ギャルの子は開始を告げられるといきなり試験官に張り手を見舞った。

 打撃はなしなんじゃ?

 とあたしが混乱している間に、黒ギャルさんは先輩の腕を取りつつ背中に回り関節を極めて振り回す。

 そして先輩の足を刈り転がして腕を完全に極める。

 たまらず試験官はタップする。

 これ合気道だっけ?

 そんなことを思っていると怒りに燃えた試験官が屈辱を晴らすべく黒ギャルさんの関節を極めまくる。

 その後の時間黒ギャルさんは良いところなしだったが、彼女は悪びれることなく試験を終えて戻ってくる。

 だがこの後の彼女行動すら些末なことに思えることが起きるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る