第四幕 杜若の用心棒
「このうまさ、言葉にならぬ。」
言葉にならぬは、団子のことである。
団子とはつまり、串に五つの餅が刺さっていて、大変あまく、柔らかく、それらが総じて、げんみょうなる美味さを体現する食べ物のことである。
そして用心棒とは、この饅頭にくっついた串棒のようなものである。つまりは蛙の親分からぴたりと付いて離れなければ、それは用心棒として、たいへん良いことらしい。中々に面倒ではあるが、こうして時々団子を食わせてもらえるから、俺にでも何とかつとまっている。実に甘露なる仕事である。
因みに、俺が頭に着けたるかきつばたのお花飾り。これこそ、用心棒のあかしである。この仕事をひきうけたおり、親分に頂いたのだ。大変に、ありがたい。
「かようにたやすき仕事があったとはなぁ。」
もっと早く始めるべきであった。と、そう思わざるをえぬ次第。何せ蛙の親分は、銭と団子の事だけでなく、母のめんどうを見てくれる女中と医者を、その日の内に村へ送ってくださったのだ。これにはこの椿、まこと頭の上がらぬしょぞんである。
「親分、もう一個団子を頼んでも良いでしょうか。」
「たわけがっ!何個目だと思うとる!」
そう答えたのは、ガマの親分ではない。その子分が一人、先日往来にて刀を抜き、俺とぶつかった、粗忽者の次郎さんである。次郎さんはまるで山犬のような人であり、大変に喧しい。特に俺に対し、良く吠える。今のような、見当違いの返答が正にそうである。だって、俺は次郎さんには何も聞いていないのだから。
「団子の一つや二つ、好きに食わせい。」
と、言ってくれるのは蛙親分である。
「それにしても、もう九皿ですぜ……。」
そう言って何だか苦虫をかみ潰したようなつらをするのは、次郎さんだ。
「親分は、いっぱいの銭をお持ちなんです。だから俺が団子をいくら食っても、いいんです。」
そう言って団子屋に次の団子を頼んだのは、俺である。
「三本目だ〜!親分〜っ!三本目が!届きやしたあ〜っ!」
そしてそう言いながら、辻の方から慌ただしく駆け現れて来たのは、団子屋のわらべではない。次郎さんとそっくりの、兄の一郎さんである。
「「あんだって!?」」
そしてそれに驚き立ち上がったのは、親分と次郎さんである。
「……あんだって!?」
一応、二人の真似をして俺も立ち上がりそう言ってみたが、少しばかり間の悪さを感じた。まるで間抜けを見るように、三人がこちらを見ているのだ。団子を皿に乗せてきた団子屋のわらべが、おかしそうに口元を抑えてクスクスと笑った。
「何がおかしんじゃこのガキ!」
このように、次郎さんは本当に、誰にでも吠え掛かるのだ。
「……して、三本目とはなんのことでしょう?」
「三本目は三本目じゃ、馬鹿椿!ええから親分について来いちゃ!」
そう吐き捨てに言ってから、慌ただしく屋敷の方へと向かい始めた親分たちに、俺は用心棒らしく着いて行く事とした。何やらただならぬ気配である。
頭に付けた、この杜若のお花飾りに恥じぬよう、立派に用心棒をせねばならぬ。
そう思い、わらべの持ってきた団子を急ぎ食べ終わると、俺はもう遠くなりかけた三人のかげぼうしを、いそぎ追い掛けた。
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