第3話

 その後、僕らは映画を観に、学校近くの名画座へ。僕は映画に詳しくないどころか、映画を最後にみたのがいつかさえ思い出せないレベルだった。名画座へ向かう道中、僕は「これってもしかしてデートのお誘いなの?」と純粋な疑問をぶつけた。

「デートじゃないと映画に誘ってはダメだってことないでしょ」

「そうかもしれない、でも、それじゃ、どうして僕を誘ったんだ?転校してきたばかりのやつより、仲良い子いるんじゃ」

「いない」友は食い気味に答えた。まるで、誘う理由を知ることに意味があるのかと言っているみたいだ。

「強いて言うなら、君が私に全く興味関心がないと知っていたから」

 事実、僕は彼女に興味関心がないから名前すら覚えていなかった。「つまり」と友は続ける。

「君は私への印象がゼロに限りなく近い。だって、初日から君はタカくんと仲良くなりたくて仕方ないって感じでいたし、それ以外のクラスメイトも軽く品定めはしてたみたいだけど、私のことは隣の人以外の情報を得ようとしなかった。何が言いたいかというと、私は好きなことを好きなだけ語れるサンドバッグのような話し相手が欲しいの。そのために君みたいな私に余計な先入観を抱いていない相手を探してた」

「なるほど」と言いつつも、ひとつも腑に落ちていなかった。むしろ、「つまり、どういこうこと?」と訊き返したいくらいだ。

「逆に言うと」とまた友が訊いてないのに、語り出す。

「私は君に興味津々で、先入観持ちまくりなわけ。だって、凡そ趣味らしい趣味もなさそうだし、男子特有のブスでも一応落とせるかどうかシミュレーションするようなこともしない。ほら、自分は絶対に好きにならない女なのに、そいつに好かれた時のこと考えだすあれね。君はそういうことをするタイプではなさそうだ」

 またも「なるほど」と返してみたが、やはり何を言ってるのかよく分からなかった。

「確かに僕は無趣味だし、恋愛にも疎い方だと思う。………理解した」

「つまり、どういうこと?」という質問を飲み込み、説明がめんどくさいから説明させてくれるなと丸メガネの奥のつぶらな瞳が語っていると僕は、理解した。

 程なくして名画座に着いた。名画座という名前の響きから、さぞ豪華な建物なのだろうと想像していた。だが、見事に裏切られた。寂れたゲームセンターみたいだった。

『アメリカン・ニューシネマ特集!』と手書きで書かれた看板に古そうな映画のチラシが貼り付けてあった。

 他にも『スーパーバイオンレス祭』など、手書きながら工夫の感じられる看板が並んでいた。映画に無知無関心な僕にとっては、最新作も古い映画も変わらなかった。名画座の見た目にはがっかりしたが、僕の知るショッピングモールの映画館とは違う雰囲気に、これはこれでありだなと謎の上から目線で思った。

「さて、何を観るんだ?」

「君が決めなよ」

「え?」

「……」

「どれでもいいから……これで!」

 目を閉じて適当に指さした先には『スーパーバイオレンス祭』。作品は『スカーフェイス』。

「うん、なかなか」と友は呟いた。何やらお気に召したようで嬉しい。

 全く知らない映画を全く親しくない同級生の、それも女子と観る。僕も「うん、なかなか」と呟いた。友がこちらを見て不敵な笑みをみせた。うん、なかなかに愉快じゃないか。

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