廃墟編04

 神楽坂は、大変な難産の末に産まれた。元々、身体の弱かった母親は、神楽坂を産んだ時に亡くなってしまったらしく「本当のお母さん」とは、この母親の事を言っている。つまり、神楽坂は母親の事を写真でしか見た事がないのだと言う。

 そして、これが神楽坂の呪いの始まり。本当のお母さんを、産まれると同時に死なせてしまった事実を、神楽坂は呪いと思うようになった。


 実は、神楽坂には本当のお母さんを含め、三人の母親がいる。二人目の母親は、小学生の時。とても優しく明るい母親で、神楽坂も仲良くしていたらしい。父親が仕事で忙しかった事もあり、寂しい思いをしていた神楽坂には、そんな母親との生活は楽しい思い出だと言う。しかし、そんな生活も長くは続かず、母親は大病を患い亡くなってしまった。それは突然の別れで、二人目の母親とも死別する形となった。

 そして、三人目となる母親。これが、一番の問題のようで、結果的に母親の浮気が問題で離婚するのだが、その浮気を目撃し父親に話したのが神楽坂だった。父親の財産目当てで結婚した母親は、散財した挙げ句、若い男と関係を持っていた。それを知った神楽坂は、探偵を雇い母親の浮気の証拠を父親に突きつけた。当然、離婚となったのだが、別れる時に神楽坂にこう言った。


 「あなたは疫病神なのよ。あなたのお父さんだってそう思っている。あなたさえいなければ、母親だって死ぬ事はなかったってね。あなたは、産まれた時から呪われているのよ」


 本当に父親が言った言葉なのか信憑せいは薄かったが、それでも神楽坂にとって、これまでの事を考えれば、父親が口にしていてもおかしくないと、信じてしまった。

 その後、三人目の母親は交通事故をお越し、今は車椅子で生活しているらしい。


 度重なる周囲の不幸が、自分が呪われている――と、神楽坂を意識づける。だから、神楽坂は僕に謝ったのだった。


 「正直、何て言えばいいのか僕にはわからない。それでも、呪いなんてないと僕は思う」

 「それなら、私の過去はどう説明するの? 私の周りの人は、なぜこんなに不幸になるの? 教えてよ。私が、呪われていない証拠を」

 「……」 


 確かに証拠なんてない。それに、証明する術もない。幽霊がいる事を、透明人間がいる事を証明出来ない様に、呪いがないなんて事を証明する事は出来ない。

 しかし、それはあまりにも不敏で、神楽坂がそんな呪いで苦しんでいるなら、せめて証明出来なくても、違うかもしれない――。そんな風に思えたら、きっとそれは生きる希望になると思った。

 透明人間の証明――。


 僕は、ある事を思いついた。それは、あまりにも打算的で、本当の意味での解決ではないが、それでも今出来るベストな考えなのかもしれない。

 要は、問題でなくなれば良いのだ。

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