第12話 午後は午後で地獄です。

昼ご飯は、昨夜オラクル先生が倒したブラックベアのハーブ焼きである。

これは、稽古中にスージーさんが持ってきたハーブを使って作ってくれたものである。


「……うまそうに食べるのぉ。」


いや、だって疲れたんだ……そりゃぁ食べるでしょう。

おいしく食べている俺に、食べ終わったスージーさんが話しかけてくる。


「そういえば、ロバート坊。午後からは狩りをする。」

「……⁉」


いや、いきなりすぎないか?


「何を驚いているんだい。あんたは魔道具使いだ。その魔道具に使う魔石くらいは自分で賄えないとねぇ。そのための狩りだよ。」

「な、なるほど。」

「あんたの魔道具だと……そうさねぇ、ブラックベアレベルの魔石じゃ足りないねぇ……。となればだ。素材買取となるけどねぇ……ま、がんばりな。まだ予備の魔石は有るんだろ?」

「一応、あと25個くらいは。」

「そうかい。なら、しばらくは大丈夫かねぇ。」


スージーさんはそう言うと紅茶を口に含む。

そして、飲み込むとホゥとひと息ついた。


「午後からは私が相手だ。4時くらいまで魔術による狩り、そこからは、座学だよ。

狩りには私も付き添うし、転移魔石を渡してやる。自作の小さい安物だから、転移距離は短いが、この森から拠点この場所にまでは戻れるだろうさ。あとは座学だが……まぁ座学は必要ないかもしれないが、あんたら姉弟きょうだいは若干知識に偏りがあるからねぇ。一応教えようと思ってるんだ。それでいいかい?」

「わかりました。」


俺が返事したところで、オラクル先生が口を開く。


「ホッホッホ、お主の夕飯はお主が狩ったものを主体にするのでの。狩れなければ……お主の夕飯は少ないぞ。頑張るんじゃのぅ。」

「……え?」

「あんたの夕飯にはご飯、汁物、山菜は保証してやるよ。肉とかが食えるかはあんた次第ってことさ。」

「……」


スージーさんの補足でどうやら飢え死にはしなさそうだ、ということはわかった。

だが、5歳児に対してスパルタすぎないか?

そう感じるのは前世が日本人だからか?

いや、周りの同年代の子供はそういうわけではない。

ということは俺だけか。

別に魔物と戦うことが嫌、というわけではない。

一応、転移魔石は有るので森の中ではぐれても大丈夫だろう、とは思う。

だが、これからもそのスケジュールで行くとなると、一つやっておきたいことがあるのも確かである。


「……ところで、この森には蜘蛛の魔物はいるの?」


そう、蜘蛛系統の魔物がいるかが重要である。


「なんだいあんた、蜘蛛を食いたいのかい?やめときな、不味いから。」


スージーさんが顔をしかめる。


「いや、食べないけど?欲しいのは糸だよ。特に魔力の伝導に優れた糸が欲しいんですよね……。」

「……何を考えているんだい?」


スージーさんがジトっとした目で見てくる。


「魔術陣を服に織り込もうかと。」

「……普通そんな発想は、もっと先になってから出てくるもんだよ、ロバート坊。

冒険者たちが初級から中級になる頃に考えることさ。」

「だって、そうじゃないですか。身体強化魔術とかのいわゆる付与系の魔術をいちいち魔術杖に魔力紙で装填するのは面倒くさいじゃないですか。それに僕が今持っている魔術杖は3つ。そのうち一つを付与系の魔術で独占されるのは少しつらいかなぁと。

それだったら、魔石による永続的な効果付与にした方が、まぁ、魔力を感知するのが得意な魔物に発見される可能性は若干ありますけど、メリットの方が大きくないですか?

なので、その魔術陣を縫い込むのに必要な糸が欲しいんです。」

「……あんた、よくもまぁそんなことに知恵が回るねぇ。普通の五歳児はそんなとこまで知恵が回んないよ。ま、あんたら三兄弟は神童と言えば神童だからねぇ……そこまで驚きはしないけどねぇ。

……もしかしたら、並ぶかもねぇ、あの子たちに。」


最後の声は聞こえなかったが、この世界にも神童という言葉は有るらしい。


「で、蜘蛛みたいな魔物はいんでしょうか?」

「……あんたがやりたいことに使うのに最適な蜘蛛は今のあんたじゃ手も足も出ないだろうね。」

「へぇ……なんていう奴なんですか?」

「神獣の一種に数えられている。」

「……ハ?」


いや、待て待て、蜘蛛が神獣かよ!


天ノ紫蜘蛛アマノムラクモと呼ばれるこの世界に一体しかおらん種類じゃよ。こやつは神への冒涜を行っていた領主を町ともども破壊しつくしたんじゃ。」

「……」

「討伐隊も組まれたんじゃがな。蹴散らされた。その蜘蛛はある山の頂上に籠ったそうじゃがな……その山は禁域にされておる。」

「残念ながら、劣化版になるんだけどねぇ。あんたの力量で倒せるのは、大魔糸蜘蛛だねぇ。一応、売り物にも使われているよ。素材は……糸のみか。」


なるほど、それはいいかもしれない。

糸のついでに魔石も確保できれば良いだろう。一石二鳥になるといいけれど。


「ウム、行きたいようさね。案内するよ。」

「やった!」

「倒し方はどうするんだい?」

「大魔糸蜘蛛相手は……」


あれ、どうするんだったっけな。魔術耐性が少し高いから……強制睡眠魔術は効果がない。

となると……蜘蛛系の魔物は、火が弱点なんだが、糸も燃えてしまう。

ならば……頭と体を切り離すか頭を潰すべきだろう。

ほとんどの生物(魔物も含む)は、頭を潰すか頭と胴体を切り離せば死ぬと言われている。

まぁ、不死鳥や神の眷属(?)などの不死系の生物は無理らしいが。


「……土隆棘を使おうかと。それで頭か首を串刺しにします。」

「……よさそうさね。」


ということで、午後もハードモードが決まりました。



……え?俺のせいだって?


……まぁ、それは否定できない。

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