第11話 格闘術の鍛錬
さて、俺は目の前の格闘術の鍛錬に照準を合わせたわけなのだが……
「さて……走ろうかの。」
現在、夜明け前……オラクル先生のしごきが始まりそうです……
「走りながら、説明しようかの。ペースを合わせろよ。」
1秒間に2歩のペースで走るように指導される。前世の感覚だと野球部のグラウンド練習でのランニングのペースみたいなものだと思う。
とはいえ、齢5歳にはつらいのだが……
「ふむ、森を駆け回っているだけあって、その歳にしては動けるのぉ。」
そんなことを、ホッホッホと笑いながら走るオラクル先生。
いや、この爺さん、笑いながら走るとか器用だな……
因みに、先生呼びは朝に決めたことである。
「さて、儂が教えるのは、剣術はレルト流刺突剣術とバルサル帝国宮廷護剣術じゃな。攻性的な剣術は儂は使えんくてのう。傭兵ギルドに転職する際に刺突剣術をかじったのだがな。」
「……え?あの帝国の?」
「ホッホッホ……滅びた国のしがない護衛じゃよ。命拾いしてしまったがのぅ。それはさておき、教えられる体術と言えば……バルサル帝国軍軍隊格闘術くらいか……レルト流徒手格闘術も使えるんじゃが……そこまでの技量ではないからの。」
「……そ、そうなんですか。」
「うむ、すまんの期待させて。」
「……」
俺はその言葉に無言となってしまう。
俺は実は夜見てしまったのだ……
ふと、なんとなしに目覚めた俺は、焚火のある方を薄目で見た。そこには、焚火前に座り、鋭い目付きで森の方を睨むオラクル先生がいた。
『……危険度C級のブラックベアか。肩慣らしに久々にレルト流を使うかのぅ』
そういって、一瞬で間合いを詰めて数発の打撃を与えたのち、投げ飛ばしていた。最後は背後に回り頸椎を折っていた。
今の話を聞いて俺は思う。あれで技量がないということなのだろうか、と。
「あの……オラクル先生。」
「ん?なんじゃね?」
「昨日の獲物……そのレルト流で倒してたんだよね?」
「!なんと、気付かれておったか。これは困ったのぅ。未熟で済まぬな。」
「いやいや……あれで未熟なの?」
「当たり前じゃ。付け焼刃じゃしな。達人なら三回の攻撃で片が付くんじゃがな……儂は突き4発に蹴り2発、そして投げ技で頸椎破壊。時間がかかりすぎじゃよ。」
「……」
「ということで、レルト流は教えられんな。」
俺はあまりの言い分に唖然としてしまう。あれで時間がかかりすぎ、というのは謎だ。
「まあ、儂は傭兵ギルドで護衛任務を多くこなしたわけじゃが、その一つとして魔獣との戦闘も行える、というだけ。本来の儂はお偉いさまの護衛が仕事じゃった。じゃからのう、儂の技術は対人戦闘に役立てればよい。」
ホッホッホとまた笑う。そんなこんなで、ランニングを終えた俺たちは、次の課題に移る。
「さて、先ほどまで走っておったのは、リズムを刻むためじゃ。持久力は……ついでじゃの。次にやるのは……剣術じゃが、バルサル帝国宮廷護剣術から教えるかのぉ。」
そういって、短めの剣を渡される。前世で言う西洋剣のようなものだろうか。
「バルサル帝国宮廷護剣術はその名の通り、護る剣じゃ。総じて受けが主体で攻撃はカウンターとなる。とはいえ、基本動作を覚えたのちに、型を教えていく。基本動作は斬り下ろし、肩掛け斬り、突き、横薙ぎ、斬り上げ、払いの6つ。これは、若干の差異は有れど、他の剣術でも同じじゃ。ここまでよいか?」
「はい。大丈夫です、先生。」
「うむ。では、構えからいくぞ。護剣術は、居合にも重きを置く。それ故に片手で持ち半身になるのだ。剣を持つ手の方の足を前にして、半身の状態で剣を順手のまま相手に向ける。その切っ先が相手の眉間に向くようにするのじゃ。」
俺は言われたとおりにやってみる。前世のイメージで補正をしてみる。肘をまげて、右ひざも曲げてみる。
「……初回にしてはまぁまぁじゃな。まず、後ろ脚の場所が悪い。剣先から、後ろ脚までがほぼ一直線になるように。そして、力みすぎじゃ。もっと、各関節の力を抜きなさい。……まだまだ力みがあるな。形はよい。よし、このままの姿勢を保持するのじゃ。なるべく長い時間を目指すのじゃぞ。」
「……はい。」
まあまあキツいのですが……。これは稽古というより虐待と言うのでは?
「疲れぬように工夫するのじゃな。さすれば自然と無駄な力が抜ける。ちなみにじゃが、レルト流刺突剣術もほぼ同じ構えでよい。レルト流はもう少し剣を寝かせて、相手の首の根元に切っ先が向くように構える。そして、攻撃主体は刺突。相手からの攻撃は避ける。じゃからこそ身のこなしも重視され、身体の運用法のために徒手格闘術が生まれた背景があるのじゃ。」
ありがたい薀蓄ではあるのだが、俺の腕がプルプルしだしてしまった。
「……まだまだ甘いのぉ。朝食までは構えじゃな。ホッホッホ。」
そんな高笑いをオラクル先生は響かせ、言う通り朝食までこの状態の保持に費やされたのだった。
朝食は、スージーさんが持ってきた木の実などと一緒にジャムを食べる。
食べ終わると今度は体術の訓練となった。
「さてと、バルサル帝国軍軍隊格闘術を教える前に、簡単にどういう戦術タイプがあるのかを教えておくとじゃな……
まず、魔術師タイプ、銃士タイプ、剣士タイプ、拳闘士タイプが基本じゃ。王国の騎士、いわばお主の父などは剣士タイプじゃろ。そして、大半がこの3タイプに分かれる。魔術に秀でたものは魔術師タイプ、剣術に優れたものは剣士タイプに、無手の格闘術に優れていれば拳闘士タイプ、そして銃の扱いの訓練を受けたものが銃士タイプとなるわけなんじゃが……」
ここでオラクルはいったん言葉を切り、俺を見る。俺が理解しているのを確認した、というところだろうか。
「魔術師タイプの戦い方は婆さんに習えばよい。ここで、儂が一番教えておきたいことは……一流の戦闘を行う者はどのタイプの相手とも戦闘できるということじゃ。儂は近接格闘術を用いた剣士、拳闘士タイプじゃが、魔術師や銃士相手にもある程度は戦える。苦手なタイプが相手だったから、ド素人相手に負けました、では済まぬのじゃよ。苦手なものが相手であっても、殺されなければよい。何度負けても、最後に立っていれば、勝ちじゃ。
ということでロバート、お主の目標は、魔術、剣術、無手の格闘術の全てをある水準まで使えるようになることじゃ。よいな?」
「わかりました。よろしくお願いします、オラクル先生。」
俺は全く不満がなかった。なにせ、強くなれるのに越したことがないのだから。神を倒す方法はまだ調べている途中ではあるものの、理不尽なことしかしなかったあの神だけは許せないし、復讐してやりたい。そのためにも、まずは基本から戦う技術を身に着ける必要がある。
型破り、という言葉があるが、その言葉は型を身に着けて初めて成立する言葉だ。
神を倒す、ということは型にはまったままではどうしようもないだろう。だからこそ、さらに型を身につけなければならない。
「よろしい。では、構えから行こうかのぉ」
午前中の鍛錬が始まった。正午までの約3時間である。
詳しくはいずれ話す機会があるかもしれないが、俺はあまり人に話したいとは思えない。
午前中の稽古は瀕死の状況になるほど厳しい鍛錬であった、とだけここに記したいと思う。
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