第10話 ウソをつく
「…何を望む、ですか?」
静かにうなずくオラクルさん。俺はどう言おうか考えをめぐらす。
おそらく、だんまりは得策ではない。明らかなウソもあまりよろしくないだろう。
であるならば、なぜ何かを望んでいると感じたのか、を訊いてみようか。
「……質問しても?」
「儂が質問しているのじゃがな……まぁ、答えるのなら一つ二つなら先に答えてもよいかのぉ。」
「ありがとうございます。何故なにかを望んでいる、と感じたんですか?」
「……そういうことか。フム、儂は傭兵ギルドにおった。その時の経験から匂うんじゃよ、何かをなすために生きている奴の雰囲気は特にの。主からはその雰囲気を感じる。」
「……そうですか。」
転生者は、この世界の現在では微妙な立場である。理由としては、ハーレムを作ることを望むのだが、その際女性をモノとして見る傾向を持つ転生者も0ではなかった。そして、世界的に見て有名な最後の転生者(その後もちょくちょく転生者はいたようだが)は、日本でいう修羅場を起こしてしまい、ハーレム内で殺し合いが起こった。
小競り合い程度ならば、前例があったのだがこの時は違った。山がいくつかと、街が滅んだのだ。それ以降、ハーレムを望む転生者は、国から一定の距離を取られるようになったのだが、ほとんどの転生者はハーレムを望むため、転生者というのは腫れ物扱いされるようになったのだ。
このことから、転生者である、ということは明かさない方がいいと俺は判断しているわけなのだが、何を望むか、という問いに神を倒したい、というのはその経緯まで話した場合、転生者であることの告白は免れない。
どうしたものか……と思考をめぐらす。
子供らしいことを望む、というのが一番だろう。
神を倒すために強くなりたい、という部分の神を倒すをそれらしい理由に言い換えれば問題ないはずである。嘘だらけではいずれバレる。であるならば、理由だけ変えようか。
と、なるのであれば……
「……本で読んだ英雄譚の主人公みたいに、人を救いたいな、て思ったんです。だから、少しでも強くなりたいと思ってたんです。」
「……」
無言で俺を見るオラクルさん。この静寂は心臓に悪い。
ジッと見てきたオラクルさんは、あきらめたのかフッと笑う。
「……そうか。そういうことにしておけばよいかの。嘘をつくのが上手いようじゃな。本来ならうそつきは嫌いじゃが……」
髭を弄びながら何かしらを思案するオラクルさん。
しばしの沈黙の後、俺の方を向く。
「……まぁ、よいか。強くなりたい、という部分は本心のようじゃ。わしが身に着けた技術を教えよう。今日は寝なさい。」
そう言うと、俺に毛布を渡してくる。
「ここの森で儂よりも強いものはおらんじゃろう。安心して寝るがよい。」
その言葉に俺は従い毛布にくるまって、夢の世界へとすぐ旅立った。
……ふりをして、これからに関して考える。
やっと、ではあるものの戦闘術に関して学べるようになったわけである。
これで、近接戦に関しての強化を図ることができるわけだ。
次に、魔術はまだまだ先、早くて2年後である。
そして、遠距離はまだ見通しが立っていない。遠距離同士の戦闘についても考える必要性があるが、これは後々オラクルさんとスージーさんに聞くべきだろう。もし、銃も必要であれば、ある程度強くなった後に冒険者ギルドに聞きに行こう。
ここまでは基本事項に過ぎない。
本題はここから。
神とどうすれば会えるのか、だが……
「天罰」という出来事に俺は目をつけている。
「天罰」とは、「神の眷属」が直々に人に対して攻撃を仕掛けることのようである。文献によれば、神獣や神龍が人里を襲い破壊しつくすようである。もちろん、人々も抗おうとするのだが、太刀打ちできないようで「神の眷属」を倒した、という文章はどこにもない。
ここで思うのだ。「神の眷属」が神の部下であるのならば、上司である神の指示で人間を滅ぼしているのだろう。であれば、「神の眷属」が倒され天罰が執行されなかったらどうなるのだろうか。上司が現れる、可能性もあるんじゃないのか。なら、この「天罰」についてさらに調べる必要性が出てくるわけである。
次に、神の倒し方、であるが。いまだに考え付かない。
まず、運命を意のままに操る特殊性を持つ点。これは、魔術の研究で阻害することも条件付きなら可能性がある……のかもしれないと思い始めている。
そして、目下最大の謎は魔術、物理攻撃が効くのか否か。ここがまずわからないのだ。
もし、効かないのであればもはや諦めるほかないのかもしれない。その場合は、腹いせにこの世にいる眷属を全て倒してやろうか、と思っているのだが。
しかし、目の前のことから一つずつ進めていくしかない。
俺はとりあえず、明日から体術と剣術を身に着けていくのが目下の重要課題である。
なので、今度こそ俺は睡魔に身を委ねるとしよう。
―――スージー視点
「よっこらせ。待たしたね、あんた。」
「フッ、今ようやっと眠りについたところのようじゃ。さっきまで、寝たふりをして思案していたようじゃが。」
「フム、そうかね?……で、坊はどうじゃった?」
「……正直なところはわからん。」
「……フム。わからぬか。」
私は数年前に一度見た時、わずかに持つ魔力の中に淀みを見て取った。この淀みとは、何かしらの強烈な負の感情を抱いている者に見られるものであり、流れに敏感な水属性や風属性を得意とする魔術師でかつ超優秀な魔術師ならば、わかってしまうものである。
とはいえ、この淀みが必ずしも悪いものではなく、例えば負けたくない、あいつに勝ってやる、などの感情も裏を返せば、相手を負かしたい、という感情でありこれも負となってしまう人間がいるのも事実である。なので、そこまで気にすることはなく、王都などの大都市では少しチェックされるが、ただそれだけ、ともいえる(専門の魔術師がいるにはいるが)。
このことから、気にしすぎでは、と言われればその通りなのであるが……
『ミリアが不安に思うところが……またなんとも言えんの。』
ロバートはきちんと認識していなかったようだが、ミリアという人間(ロバート曰く、お手伝い?)は、凄腕の魔術師であった。ある事件を機に魔術師の表舞台から引退したのだが……
『あやつは、元から負の感情に敏感じゃったが、あれを機にさらに強まったからの……ロバートから強い負の感情を感じたのじゃろう。』
なぜ、前世の知識を持つロバートがミリアの立ち位置(家政婦なのかお手伝いなのか、ベビーシッダーなのか)を正確に認識していなかったのか、それは単純にミリアがロバートの負の感情を恐れ、距離を取っていたからである。
決して嫌われていたわけではない。だが、好かれてもいなかった。それを薄々気付いていた周りの大人たち、メイリンやジェイソン、スージー、は配慮してロバートを引き離したのだ。
『濁っているわけではない、しかし淀みがほぼ揺らがない。これは……おそらく何かしらへの強い敵意、かのぉ……』
しばらくは様子見だと自分に言い聞かせる。もし道を誤れば、周りの大人が止めればいいことなのだから。
“暴嵐の魔術師”スージーは思う
周りの年長者の役目は、威張るでもなく、いびるでもない。
見守ることこそが重要である、と。
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