第9話 5歳になりました。
さて、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
あれから2年が経ち、5歳となった俺は現在、森の中で合宿しています。
「……なぜこうなった…?」
話は1年半前に遡る。
魔道具による魔術発動、という方法を知った俺は、それを利用した戦闘方法を使えるように半年間、リン姉の戦い方や母さんから学んだ。その結果、リン姉と共に部屋の清掃などの業務(魔術陣の作成を学ぶため)や母さんとともにE級の魔物の討伐などに行く様になっていた。
そんな中、わかったことがあった。母さん曰く、戦うという勘に関してはリン姉よりもあるらしい。リン姉はどちらかというと研究者タイプであり、色々新しい魔術を作る方面に強いが、おそらく戦闘には向かないだろうとのこと。俺は研究もある程度はできるだろうが、戦闘の勘は良いそうで位置取りなどは、習っていないのにこの歳で、ここまでできるなら優秀らしい。
この時点で俺は4歳であったが、それを聞いた父さんはニヤリと笑っていた。
因みにルカ兄はというと、9歳で初等教育を終わらせ、母さんに魔術の手ほどきを受けていたため、母さんからはお手本通りの魔術師、と言われる様な魔術の運用をしていた。
(4人で魔獣狩りをする際などに特に如実に現れていた。)
そして、魔術の研究や母さん達家族総出での魔獣狩りを更に一年ほど続けたルカリオ10歳の誕生日の次の日の夜、お世話係であるミリアが、家族5人でいる時に告げた。
「……メイリン様、本日をもって契約終了ですが、よろしいでしょうか?」
「……あら、もうそんな時期ね。この先どうするの?」
「身寄りもないですし……また、どこかで同じ様なことをしようかと。」
「そう……なら、うちで家庭教師してくださらない?ルカは、王都の魔術学院に行きたいらしいのよ。だから、私とルカ、そしてお父さんは王都の騎士団庁舎に住むことになったの。」
「……」
「あなたなら、リンとロバートを守ることなんて容易いでしょ?そう思わない、あなた?」
「ああ、そうだな。どうだミリア。受けてくれるか?」
「……家庭教師とは?」
「まあ、保護者の方がしっくりくるかしら?」
「わかりました。ならば、1つだけ。本来ならば、墓場まで持って行こうと思ったのですが、これからもお世話になるのであればいいたいことが。」
俺が知る限り、ミリアという人間はあまり喋らず黒子に徹する人間のはずだが、どうしたのだろうか。
「どうしたの、ミリア?」
「リンさんですが……若干7歳にしておそらく自力で魔術が使えるかと思われます。」
「…あら、1年早いのね?」
「魔石に依存するやり方とはいえ、魔力や魔素に近くで多くの時間触れていたからかと。となれば、今までのリンさんの行動を考えるに、魔術の講師が必要となるでしょう。」
「ええ、それをあなたがやれば良いのでは?」
「もちろん、メイリン様。そのつもりです。しかし……知識という面においては、この家で教えられる範疇を超えています。そうなると実技を教えることとなるのですが……」
ここでちらりと俺を見る。
「ロバート君にまで手が回らなくなる可能性が……」
「……」
母さんは微笑んでいるままだ。父さんは黙っている。
そのまま沈黙の時間が過ぎていく。
「それで?」
口火を切ったのは母さんだった。
「あなたは相変わらず遠慮深いですね、ミリア。いくら雇用契約を結んでいるとはいえ、あなたと私の仲ではありませんか。言ってごらんなさい。」
「……ロバート君も5歳になりました。魔術の知識もリンさんほど、とまでは行きませんがかなりの水準です。であるならば、戦闘術を教えるべきでしょう。なので、初等教育を受けさせるのと同時に、冒険者の方にお世話していただくのはどうか、と思いました。」
「……なるほど。一理ありますね。それに、リンにはお勉強も教えないといけないでしょうし、ね。」
リン姉に目を向ける母さん。顔は微笑んではいるものの、目は笑っていない。リン姉は、ビクっとすると、顔を明後日の方へ向ける。
「わかりました。ミリア、少し待っていてください。ロバートについては話をつけてみます。」
そして、その2日後、来客があった。来客とは、“暴嵐の魔女”ことスージーさん、そして杖をついた白いひげがご立派な、白髪を後ろで束ねた老人である。
「ホッホッホ。ジェイソン、久しいのぉ。」
「…オラクルさん。お久しぶりです。」
「うむ。で……面倒を見なければならんガキはどれじゃ?」
「僕です。ロバートと申します。」
俺は自分で名乗った。一応、年齢相応一人称を僕にしている。
「ほぉ、ジェイソンに比べて聡明そうじゃな。これなら、世話なんぞいらんのではないか?」
「いえ、まぁ。一応ですよ。私も対魔獣騎士団へ異動になりましたし……これを機にメイリンも復職するので、どうしても今までよりも一緒に過ごす時間が少なくなってしまう。それは、一見いいことなのですが……リンとロバートには悪い影響も与えそうでして…」
「そうかの。……わかった。そこまでいうなら受けてみようかの。」
こうして、その日から俺の世話はオラクルさんとスージーさんに引き取られることとなった。
とはいえ、まぁ家はそのままだ、と思ったのだが……
「ロバートよ。この家に週何回帰ってきたい?」
いきなりオラクルさんが聞いてくる。俺はこの時、甘ったれているんじゃねぇ、と言われるのかと思い、こう答えてしまった。
「そ、そうですね。週に一度は絶対に帰ってきたいです。魔術の研究もありますし。」
「そうか。ならのぉ……今すぐローブと杖を持って来るんじゃな。あと…初等学問所は…いつからじゃ、ジェイソン?」
「一月後からの予定です。」
「……そうか。ならまだ教本は配られておらんのだな?」
「ええ。まだのようです。」
「ふむ……よろしい。ミリア、主がここに住むのじゃから、教本が届いたら届けてくれんか?」
「わかりました。」
「よし、これでいいのぉ。準備は整ったか?」
「あ、まだです。すぐに整えます。」
「あと10分ほどで頼む。それまで儂は寝る。」
そう言って、立ったまま睡眠しだすオラクルさん。俺はその間にローブや魔物を買った時に得た魔石などをカバンにしまう。勿論、着替えもだ。
そして、きっかり10分後、オラクルさんの元に戻ると、
「ふぁぁぁ…きっかりじゃのぉ。ばあさん、行くかの。」
「そうですねぇ、じいさん。坊や、ついて来なよ。」
と家を出発するのだった。
……そして今に至る。
「一月、野営じゃ。風呂は……週一回家に戻る時に済ませば良いじゃろ。」
火を囲んでいるのは、俺とオラクルさん。スージーさんは魔術師ギルドへ戻ったようである。
「さて、ロバートよ。主は何を望んでおる?」
パチパチと焚き木の音が響く、深夜の森の中で目の前のオラクルさんは俺に尋ねる。その眼は鋭く、嘘をつく事を許さないであろうことは、容易に想像がついた。
俺はいわば、蛇に睨まれたカエルのようになってしまったのだった。
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