第7話 魔術師ギルドⅠ
魔術を俺はまだ基本すらわかっていなかったらしい。
ギルドへの道中、魔術の発動について教わった。
曰く、基本は初級の教科書に載っていることが絶対らしい。
魔術は詠唱をすることによって発動するわけだ。
だが、魔道具というものがある。
最もわかりやすいのは杖だろうか。照準を合わせやすいようにするのが主な使い方である。まあ、カスタムするとそれ以上のことができるようだが。
例えば、威力増幅が有名だ。他にも水属性強化などもある。
これではいわば補助具、という位置づけでリン姉では魔術を使うことはできない。
では、リン姉は何をしているのか。リン姉は杖に魔水晶(属性魔水晶)を埋め込んだ魔道具を持っている。この魔道具は、魔術を全部魔水晶に依存させているので、魔力が使えない人間でも魔力を行使できるのだ。
この魔道具を所持している……というより、作ったことがあるらしい……。
リン姉の言い分は、『本に書いてあったから、材料探して作った。』だそうだ。偶然か必然か、魔水晶は俺の母親であるメイリンが大量に持っているわけで、それを分けてもらったリン姉は1週間で劣化版ではあったもののその魔道具を作り上げた。
だが、それを一目見た母さんはというと
『劣化版すぎて安全性に欠けるから、それ捨てなさい。新しいの買うから。』
ということになり、現在は一応、魔術師ローブを着れるだけの魔術を、魔道具を使えば使えるようである。
因みに使う魔術は『魔力紙』という紙に特殊なインクで魔術陣を書き、杖の所定の位置に巻くことで様々な魔術を発動させることが可能である。
この魔道具の欠点は魔水晶が高いということ、そしてすぐにガス欠になる、威力が一定、魔力の消費量が多いと使えない魔術があるという点である。
そして、最大の欠点はかさばる、ことである。
費用対効果、利便性などを考えるとこの魔道具は苦手な属性用、または緊急離脱用に使うという形が魔術師たち以外で取られている。
とはいえ、この魔道具をメインに使う黒色のローブを着た魔術師もいるにはいるらしいのだが。
ここまで聞いた俺の感想は、微妙、の一言であった。
早めにこの技術を身につけていれば、実践経験を積むことはできただろうし、対人、対魔物戦闘であれば、熟達できただろう。
だが……威力が固定化されていた場合、なんとも言えない。最大の目標たる神を倒す、ということはできないだろう。
まあ、でも初心者の時ならば必要かと考える。死ぬ原因となった不意打ち…あれをこの技術で防ぐことはできる可能性がある。さらに、強くなるまでは俺は死ねない。であるならば、今聞けたことは重要なのかもしれない。
「リン姉、どの本に書いてあったか家に帰ったら教えて。」
「……ん。わかった。」
これでよし。さて、魔術師ギルドはどんな場所だろうか。
の前に1つ愚痴ろう……転生モノの主人公って、なんであんなに読書早いの?
俺も前世じゃそれなりに早い部類だったんですが……?
魔術師ギルドはギルド街という町の一部の、一角にあった。たいていの町は領主街、ギルド街、商業街、住宅街、郊外に分かれている。ロバート達が住んでいるのは郊外であるがこの理由は簡単で、鍛錬するスペースが必要であるためである。
魔術師ギルドの近くには冒険者ギルドがあるが、そちらに比べるとひっそりとしている。冒険者ギルドは酒場が併設しているためとても大きく、24時間開いているらしく、出入り口もただ開いているだけ、という感じである。それに対して魔術師ギルドは、趣のある扉が出入り口にあり、併設されているのは薬草や魔道具の販売所で酔っ払いが少ないのでひっそりとしているわけである。
母が出入り口の扉を押すと、ギィーと音がしてゆっくりと開く。木材を基調とした、趣のある薄暗い室内には様々な色のローブを着た人たちが10数人いた。ちなみに灯りとして、火のついた燭台がふわふわと浮いている。魔石が燭台の底に付いているところを見ると、おそらく魔道具の一種なのだろうか。その浮いている燭台の一つが、俺の近くによって来る。家族を見ると、1人1つずつ燭台が近くに寄ってきているようだ。どうやら、室内に入って来た者に一つずつ近寄ってきて貸し出されるようだ。
扉の音で俺たちの方を見た受付のローブ(黒基調に銀装飾)を着た老婆が、おや、と言うように目を見開く。
「……今日はせがれも連れてんのかい、メイリン。」
「スーさん、こんにちは。この子たちはお邪魔かしら?」
「いんや、別に構わんよ。危険なもんは……蝋燭の火くらいなもんだからね……もし火傷してもすぐ治せばいい。」
「そう。ルカ、ロバート、この火には触れないでね。」
「「はーい」」
俺は精一杯、子供らしく返事をしておいた。それを見た老婆は一瞬にやりと笑うと、リン姉の方を向く。
「リン……あんたにいい依頼があるんだけど、やるかい?まぁ、メイリンのお付き、て感じになるけどどうだい?」
「……依頼による…かな。」
前から思っていたのだが、本当に5~6歳なのだろうか、うちの姉は……?
まさか転生者なのか?
と思っていたのだが、髪飾りが目に入る。
その髪飾りは魔水晶で、何やら魔術陣が書かれている。
「……リン姉、その髪飾りってなんの魔術?」
「「!」」
受付の老婆とリンがびっくりしたようにこっちを見る。
母さんは、苦笑しながら説明する。
「さっきまでの感じだと、初級までしか読んでないみたいね?これは中級の中でも難しい魔術書に書いてある魔道具の一種で思考加速具っていうものよ。リンはまだ小さいからこれ使わないとだめなのよね。」
「……ねえ、母さん。もしかして、リン姉の成績が悪いのって、それのせいじゃない?」
「……そうねぇ。まぁ、そうなんだけどねぇ。ま、いいのよ。将来的には何ら問題なくなるから。」
「……そうなんだ。」
よくわからないけれど大丈夫らしい、ということはわかった。
後で調べればよい、と俺は結論付けた。
こちらの様子に若干呆気にとられていた受付の老婆は、本来の調子を取り戻すとすぐに今度はけげんな顔をした。
「……坊主、あんたも着けてるのかと思えば、つけてないのかい?」
「……?ええ、たぶん。」
「そりゃ、すごいね。まあ、いいさ。それで、メイリンこいつが依頼さ。」
そこには、スモールラット討伐と書かれていた。
「なるほど……珍しく討伐系だと思ったら、スモールラットか。リン、どうする?」
「……受ける。」
「わかったわ。手続するから、3人ともあっちで静かに待っていて。」
そう言われた俺は、先頭のリン姉についていき机へ向かい、座って待つ。
すると、リン姉は懐から魔術陣の書かれた魔力紙を数枚出すと吟味し始め、10秒ほどして首を横に振ると、真っ新な魔力紙と特殊インクの入ったツボと羽ペン、定規を取り出して1分ほどで新しく魔術陣を書き終える。
「……終わった。」
そう言って本の世界へ没入するリン姉。その横では、ルカ兄が魔術の練習をしている。
「風の精霊よ 清かなる精よ 大気を靡かせよ……う~んダメだな。」
そんなことを尻目に俺は、椅子から立ち上がると本棚に向かったのだった。
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