第5話 3歳の誕生日に知識無双の夢が潰えました

さて、今日は俺のこちらでの3歳の誕生日のようだ。


3歳、10歳、18歳の誕生日は盛大にやるようで、集まれる親戚が集まり豪勢な食卓となるようだ。夕飯が待ち遠しいかというと微妙なところではある。

理由としては、食事はいつも粗食というべきだろうか。野菜と堅い肉(おそらくジビエと思われる。村の狩人または冒険者らしき人が狩ってくるらしい)を煮込んだものに塩を入れて何とか味を調えたものなどである。

この現状を自分なりに解釈をすると、なぜか過去の転生者は料理の改革を行わなかった、となる。日本人なら味噌汁とご飯が懐かしいと思って試している人間もいそうなものだし、他の国々からの転生者だったとしても、インドならナンとカレーやイタリアならリゾットやパスタを欲する人間だっていてもおかしくないはずである。過去に多くの転生者による無双が行われていたはずにも関わらずこの水準とは、なんとも解せないものである。

このような観点から、料理人として知識チートで無双などというのも一つの手ではないだろうか、と最近本気で考え始めているところである。神との戦いに向けて、資金は多ければ多いほどいいだろうと思っているわけなので。


そんなわけで、食文化についてはもう少ししてから学んでみようと思い、誕生日の今日も今日とて本を読んでいるわけである。今日はこの王国のシステムについてだ。

王国の正式名称はラウール王国。この世界でも屈指の大国の一つと言われている。

今まで読んでみた感じによると、民主主義を持ち込んだ転生者がいたようではある。

特権階級、いわば貴族を廃止し、国王を象徴として実権を奪い取る。その代わりに選挙を用いて代表を選び、その代表が議会運営をし国の運営を行う。

そして、現に成功を収めた……表面上は。

選挙をルールをきちんと決めずに行わなかったため、脅迫・賄賂・票の操作が横行し、ルールを策定した。

もし破れば、に向かうという制約付きで。


これにより、民主主義的なシステムが作り上げられた。


が、その転生者が死んだのち、混乱が生じた。

もともと表面上の成功は転生者の圧倒的なチートによっての処罰の存在が前提となっているのだ。この転生者がいなくなれば処罰が不可能となる。

さらには、地位を奪われた貴族もまた、暴動を開始し、元平民VS元貴族という戦いが勃発した。

そして、極めつけは国家運営の破綻にある。もともと何もしてこなかった貴族以外が国の運営などまともにできるわけがなく、ことあるごとに転生者にすがっていたわけである。しかし、転生者が死ねばその相談も不可能……結果議会は破綻したわけである。


現在も一応議会はあるものの、諮問機関という形になっており、政治の実務を行う王や貴族に民衆の声を届け、政治を円滑に行う形となっている。これは転生者ではなくこの世界の学者が提唱したものらしく、議会の議員構成は、選挙で半分選び、政府関係者以外の学者などの実績ある者を半分選ぶことになっている。ちなみに学者の方はかなり厳格に選ばれており、様々な分野で三指に入ると言われる人々が選ばれている。

正直、かなり進んでいる気がする。合理性という観点からは微妙だが、暴走をさせないという点ではいいのかもしれない。


さて、さらにこの世界でも複数の国家があるわけなのだが、世界に影響を与えるのはやはり国家だけではないようだ。

国家・ギルド・教会、この3つの組織の牽制で成り立っているようである。この三大勢力の均衡により平和が保たれていると言っても過言ではない。

例えば、教会は他の二つの組織に重傷者が出た場合、治癒の儀式を施す。

ギルドはその見返りとして、協会の各種儀式に必要な素材などの提供に協力する。

国はその見返りとして信奉金という名目で多少の金銭を払う。

ギルドと国であれば、国からそのギルド所属の組合員へのギルド経由での収入に対する個別課税、並びに土地に縛り付けることは行わない。その代わり、ギルドは組合員の税を一括して国へ払う。

(ギルドでは、組合員の資格規定などが厳格に定められており、税金逃れが出ないように工夫がなされている。)


このような形で相互依存しているわけであるが、お互いに内政干渉は行わないようにしているのである。もしも、国家が不当に他国へ侵攻した場合、教会とギルドはその国家に対し協力を取りやめることができる。いわば制裁を行うことができるわけである。

ちなみに教会には神前兵などと呼ばれる兵団がおり、軍事力は一国家に匹敵すると言われているため、国家であろうともそう簡単には手出しできるものではないらしい。

ギルドはギルドで、ファンタジー定番の冒険者ギルドや魔術師ギルド、傭兵ギルドに加えて、独自の自警団(荒くれ者が多かったころの名残らしいが、これまた練度が高い)もあり、さらに武器は商業ギルドが斡旋するため、教会、国家の戦力とも十分に張り合えるだけの力を持つと言われている。


なかなかに社会システムとしてはうまくまとめられているように感じる。

いわば、経済的な観点からの拮抗状態と軍事的な側面からの拮抗状態を上手く作り上げることによってバランスを保っているようである。



そんな風に感心をしつつ本を読んでいたところ、夕飯ができたと、食卓に呼ばれた。

確かにおなかが減ってきた頃合いであるため、2階の書庫から1階のダイニングルームに向かい階段を下りていると、なぜか懐かしいにおいが漂っている。いつもと違う料理っぽいな、どんな料理だろうか、そう思いダイニングルームに一歩入ると驚きのあまり体が固まった。


なぜならば、そこにはハンバーグや唐揚げ、ポテトフライ、ピザ、パスタなどが日本のバイキングと見間違えてしまうくらい豪勢に並んでいたのだった。


「どうした。主役が座らないと始められないだろ。」


父さんが声をかけてきたことでようやく俺は我に返った。


「……え~と、この料理は…?」


恐る恐る俺は聞いてみる。すると、


「あ~、お前は初めてだったな。“ニホン食”という。過去に神の使い(転生者のこと)が広めた料理の一部だ。まあ、訳有ってたまにしか食べれないんだけどな。」


という答えが返ってくる。うん、しってた。食に関しての進歩もやっぱりあったんだなぁ…

ん?訳有って…?


「え…どうしてです?」

「うますぎるからだ。」

「……はい?」

「いや、だからうますぎるから、たまにしか食べられない。」


どういうことだ…?値打ちが高いとか高級料理だからか?


「…やはりロバートも好奇心旺盛で頭が良くてもまだ3歳児だな。おいしいためにいくらでも食べたんだよ、その当時の人々は。その結果、太る人が増えるやらなんやらで不調を訴える人が多くなってね。結果として、“ニホン食”は申請しないといけなくなったんだ。年に1~2回までしか食べられないようになっているわけさ。まぁ、罰則は軽いものなんだけど、どんな状態になるか言い伝えがあって、みんな恐怖が勝って法令を遵守しているというわけ。」

「……な、なるほど。」


日本人が食の欧米化によって肥満が増えた的な奴ね。悲しいものだな…本当の日本食は健康な物もあるのにな……

唐揚げとかハンバーグばっかり食べれば、そりゃそうなる。

昔の転生者がどれだけ食欲に忠実なのかがよくわかるな。

まぁ、おいしいものは脂肪と糖でできている、なんていうしね……


あ~あ、知識無双して合理的に資金稼ぎをしてみたかったんだが……


ちなみにニホン食は、日本の食事にかなり近く、とてもおいしかった。

マヨネーズもあったよ……マイオネーズというらしいけどね。

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