乳幼児期

第3話 異世界1日目

「…~~~~---…」

「~~~……---!~~!」

「……~~---~~!」


女性の甲高い声が聞こえる。声の抑揚からして喜んでいるような感じだが…なんだろうか?

そして、俺は息苦しいためにギャーギャー泣いている…なぜだ?


いや、待てよ…俺はたしか、異世界に飛ばされたんだったっけな?

だが…視界が悪い。俺の視力は1.0とかなり良かったはずなのだが?

体も動かしづらいな…


ということは…まさか?


あお向けに転がっている俺の首は動きづらく、体は白い布で包まれている…。

これは確定的だ…首が座っていない、いわば乳児になった、というわけだ。

より正確には、出産された直後ということとなるのだろうか…。


ということはだ、約1年間は動けない、ということになるな。では、その間に神と戦うまでの大まかな指針を考えなきゃならない。

あの自称神との対話は嘘だと思っていたのだが…事実だったようだ。


乳児の間、こちらの世界のことを知ることはできないだろう。親が訊かれもしないのに乳児の前でこの世界のことを教えてくれるはずもない。

まあ、両親での会話の中に手掛かりとなる要素はあるかもしれないが、大きな期待を持つことはやめよう。往々にして情報収集においての過度な期待は失敗する可能性を高めるだけだしな。慎重にいくとしよう。


では、大まかな指針だ。


まず、神と戦うのであれば、とてつもなく強くなければならないだろう。であるならば、最低限の前提として、格闘術も魔術も使えなければならない。それもこの世界の人間の誰よりも高位にだ。これらはおいおい考えるとしよう。

そういえば、異世界転生ラノベの中には、魔力操作…とかいう技術を赤ちゃんの時からやっていて結果強くなる、とか魔力を放出して底をついて意識失ってまた魔力放出して…を繰り返したら魔力量が膨大になる…的な流れがあった覚えもある。まさか、社会勉強の一環、より正確には企画開発のために色んなものに触れていたこと…この異世界での己の鍛え方に関しては後輩との話のネタのために触れていたが正確だが、これが役に立つとは…人生分からないものだな…

リゲルとかいう神曰く、ラノベの内容はこの宇宙中のどこかの世界で起きた内容、ということらしいからおそらく強くなる方法として、間違ってはいないのだろう。よし、合理的に強くなるためにも試してみる価値はあるな。

しかし、個人的にはあんなうまくいくはずがないと思ってはいるが、日本人に足りない、と言われているトライ&エラーでやっていくことは重要であることは間違いないはずだ。


次に、神とどうやったら会うことができるのか、ということだ。

リゲルとかいう神曰く、神界に入ることはできるが力関係上無理、ということであった。このことから神界に入る手段は存在している、ということが分かる。だが、何らかの理由があり、入ることができないということなのだろう。これは情報が少なすぎてなんとも言えない。この世界に教会勢力などというのがあれば、情報源として活用できるだろう。何せ神を信奉する組織なのだから、神についての情報も多いはずだ。

こっちは自由に、より正確には色んな街に行くことができるようになってから、だな。


最後に、重要な点…神に勝てるか、ということだ。

直観としてだが…ほぼ不可能だろう。ミスによって殺された俺だが、ミスさえなければ、俺を殺した男が死ぬはずだった、とのたまっていたな…あの神は。ここで重要なのは、ミスしなければあの男を殺す算段が付いていた、ということだ。これは人の命運をある程度左右することができる、と同義であると考えていいはずだ。

この推測通りならば、純粋に考えてそんな強大な力を持つ相手に勝てる、とは思えない。まず、俺が神殺しをしようと目立った動きを見せ始めた、または動き出した瞬間に命運に干渉し、俺を殺すことも可能、というわけだ。次にそんな大きな力を持つ奴の力がそれだけであると考えるのは、ナンセンスだろう。強く見積もっておく必要性がある。かなり低い可能性ではあるが、場合によっては一瞬で命を消し飛ばす、ということができる可能性も視野に入れる必要があるか…。いや、それを前提に考えよう。今考えうる最悪なパターンだからな。


加えてだが、現状について分かったことが一つ…

考え事をしている俺は泣いているわけで、先ほどから産婆?と思われる女性に抱かれているのだが…


「~~~……―――~~~」


全く言葉が分からない…。

いや、雰囲気的にあやしているっぽいのだが…

おいこら、ラノベ…言葉分かんねぇぞ?

いや、あの神曰く、あったこと、らしいから言葉を理解できる能力があったんだろうな、あの主人公たちは…

なんかフツーに言葉を理解している転生モノの主人公よ…

あんたらどんだけ恵まれているんだ?

てか…言語習得ぐらい楽させろよ、あのクソ神が!

うん、今まで計画していたことが、わずか数分で変更することになるとは…


そう、修正点は一番最初にやること…

一番最初にやるのは、戦闘力を上げることではなく、言葉と常識を学習すること、だな。


ここまで考えた俺の結論。前途多難である、だ。


ちなみに、新たに得た知識として、

…赤ちゃんの泣き声って、うるせぇな、と前世では思っていたけど、生まれたばかりだとこんな息苦しかったんだな。

そりゃぁ…泣くわ…

地球の赤ちゃんの皆さん、ひどいことを思っていてすみませんでした。

みんな、許してあげて。生きるために必死なんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る