心霊見症

@note8

第1話 兆候

 昼間のあれは何だったんだ…。やけに目が冴えている深夜2時半、僕はそればっかりを考えていた。今までの人生で1回くらいは生死の危機に立たされたが、それとはまた違った恐怖を感じた。ただ開いていただけの本を閉じて、もう一度鮮明にあのことを思い返してみようと試みる。

 あれは昼間の3時ごろだったと思う。妹と駅でのお使いを済ませた帰り道で起こったことだ。前から歩いてきたサラリーマンが酷くどんよりとした様子だったのだ。そのどんより具合が相当で、前から来る人の中であの人にだけ目を引かれたほどだ。あそこまで暗い印象の人を僕は見かけたことが無かったので、妹に話しかけてみた。

「前の人、大丈夫かな?すっごく体調悪そうに見えるけど」

 僕は妹からの返事にはおおよその予想はついていた。何を隠そう僕の得意教科は国語。こんな問題は余裕で解けるはずだったのだ。

「え?誰のこと?人が沢山いてわかんないよ。」

 そんなはずは無い。僕は耳を疑った。あんなにも目を引くおっさんが分からないはずがないのだから。

 そこでふと、違和感に気付いた。駅前にはそこそこ人がいたはずだ。だけど、僕以外に誰もおっさんのことを見ていないのだ。そう誰もだ。おっさんの隣を歩いている人までもだ。僕はそのことに驚いてしばらく考えこんでしまったんだ。

 すると、体がブルっと震えていた。反射的に周りを見ると、すぐ近くにあのおっさんがいた。いや、正確にはいたのはおっさんだけじゃ無かったんだ。その後ろにどす暗い何かが見えた。それは黒い靄の様なものだった。いや靄と言うにはどうにも濃く見えた。あれは確実にこの世に存在するものだったんだ。僕は目を逸らそうとしたが、体がそう上手くは動かない。僕はただ眺めることしか出来なかった。

 その後には特に何も起こらなかった。妹に聞いても僕を気味悪がるだけの結果になった。ネットの記事やTwitterを使っても特に有益な情報は得られず、どうにも眠れていないのが現状だ。

 あの黒い靄のことは気になるが、今は睡眠をとるのが先決である。ランニングでもしてこようと僕は着替えて外に出ることにした。

 

 


 

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