邪魔なる竜


 レオルガ達の魔力が感じる方向へ、襲ってくる魔物達を蹴散らしながら進む。


 まだ戦闘は起きてないみたいだがレオルガは豚野郎とデビ野郎がいるせいで動けず王都内に現れた魔物は野放しになっている。

 さっきハルティスが向かった方向的におそらく外で魔物に対応している冒険者達に現状を知らせて応援に来てもらえるようにするんだろう。

 民衆の避難はある程度完了しているし、冒険者達の応援がくるまでに被害が出ることもないだろう。


 俺が優先するべきはデビ野郎の討伐とリスアの救出だ。それと、あの豚野郎もムカつくからぶっ飛ばす。


 魔物を蹴散らしながら進むことしばらく。


 やっとあいつらが目視できた。リスアを抱えたデビ野郎が宙に浮いていて、その下に豚野郎、向かい合うようにしてレオルガが立っている。


 豚野郎一体だったらレオルガの敵じゃないが、上に待機しているデビ野郎がどう動くかわからないからレオルガも手を出さずに向かい合っている状態なんだろう。

 デビ野郎は魔力も気配も抑えている。だから戦闘力が判断できない。それに、まだ魔物を出してこないとも限らないからな。二対一じゃレオルガも場が悪い。


 体の大きさを元に戻し、武式強化を全身へ回さず集中してかけることで普通よりもさらに強化された脚で地面を踏みしめ、跳躍。一瞬にしてデビ野郎の背後へと回り込み、脚に集中してた分の武式強化を回し、電衣を纏わせた右腕で殴る!


 ギィィィィンッ!


 俺とデビ野郎の間に黒い盾が現れるが……。


『しゃらくせぇ!』

「なっ!?」


 前は塞がれたが、俺だって前より強くなってるし、何より右腕に強化を集中させてるからな。こんなもの余裕で打ち抜く!

 俺のパンチをくらったデビ野郎は十メートルほど飛ばされて静止した。

 

 チッ、あの盾のせいでだいぶ威力が削られたか。


「まぁた貴方ですかぁ……」

『よう、デビ野郎。リスアを返して貰うぞ』

「……本当に計画にとって邪魔なドラゴンですねぇ」

『それに……』

「それにぃ?」


 なんであいつが空飛べてんだよ!

 俺だって飛べねぇのに! あの翼のせいか!? あのザ・悪魔みたいな翼のせいか!?


『ムカつくから殺す』

「奇遇ですねぇ……。私も貴方を殺したいと思ったところですよぉ」


 ほんっとにムカつく喋り方をする野郎だな。


『レオルガ!その豚野郎の相手を頼む! そのあとはハルティスの手助けをしてやってくれ!』

「まぁ、その悪魔ともいろいろ因縁があるみたいだし。わかった、こっちは任せろ!」


 レオルガが豚野郎に斬りかかる。仕留めるというよりも、距離を離すようにして戦ってくれるおかげでしばらくすると見えなくなった。これで分断できたな。


『さて、こっちも始めようか』

「はぁ……本当憂鬱です」

『あん?』

「本当は出す気は無かったのですがねぇ……。貴方相手では他の魔物じゃ歯が立ちませんし、“他の竜王”も敵に回しかねない……そのことを考えると本当に憂鬱ですぅ」

『なに言ってんだ?』

「ですがまだまだ“闇”の昂りが足りないぃッ!」


 デビ野郎の前に十メートル程の巨大な渦が現れる。


『させるか!』

「ですがこいつならば貴方を確実に葬れる上に“闇”も術の行使には問題ないほどに貯まるでしょう」


 ゴウッ!


 渦の中なからまさに災害とも呼べる嵐が吹き荒れる。


 吹き飛ばされないようになんとその場に踏みとどまるが、これじゃ呼び出されてしまう。それに、この魔力。豚野郎が覚醒したときにも感じた身がよだつほどに禍々しい魔力……。


 やがて渦から現れたのは禍々しい魔力をこれでもかと溢れ出し、全長十メートル以上もある緑の鱗をした巨大なドラゴン。


「グォォォォォォォォォ!!!」


 完璧な敵意に染まった眼で俺を見下ろしながら威圧するようにして吠える。


「紹介しましょう。私が誇る最強戦力、“暴風竜王”です」

『暴風、竜王? ……だと?』

「そしてそしてぇ! 感動の再会ですよ、ドラゴン親子ぉ?」


 これが竜王?

 

 それにこいつ今なんて言った?


『親子?』

「えぇ。不思議に思いませんでしたかぁ?なぜ自分があのような森で生まれたのかぁ。なぜドラゴンにもいるはずの親がそばにいないのかぁ」


 おいおい、まさか。


「属性竜だろがぁ、だだの成竜だろうが親元で育つことには変わりありません。じゃあなぜ貴方にはいないのかぁ」

『………』

「正解わぁ!私がこうやって操っているからですよぉ!よかったですねぇ? 再会できましたよぉ? お父さんですよぉ? お父さん!」


 こいつ、本当に悪魔だな。……胸糞悪いことしやがる。それにこのドラゴンが父親か。

 そう言われてみると……なんとなく、このドラゴンには親しみを感じる。


「まぁ、現在は私に操られる邪悪な竜ですがねぇ?」

『……簡単だ。リスアも、父親も。全てお前から取り返す』

「できたらいいですねぇ?」


 そう言ってデビ野郎はさらに上空へ浮かび上がり、こちらを見下ろす。

 自分は安全な場所で静観するつもりか。とことんクソな野郎だな。


「グォォォォォォォ!!」


 ……まずは目の前の父親だっていうドラゴンの目を覚まさせるのが先か。そうしないと邪魔されてリスアを助けることができない。


 それに……俺には転生してから親と過ごしたことがない。だから、この親だというドラゴンに心当たりはない。だが、この体から感じる相手に向けての無条件での親しみの感情はこのドラゴンが俺の親だということを信じさせるには十分だった。

 ドラゴンになって、本能や野性的なものが強化されてるのかね?


 俺の親が、こんなクソ野郎に操られているんだ。


 ぶん殴って目を覚まさせる!


 全身に全力で武式強化をかけ、電衣を纏わせる。両腕にガントレットを創り、俺に侍るようにして四本の剣が現れた。


「グラァァァァァァァァ!!」

「グォォォォォォォォォ!!」


 威圧を乗せた咆哮。それと同時に二本の剣をドラゴンに向かって射出する。

 それに隠れるようにして俺も距離を詰める。


「ガァァ!」


 ドラゴンが背中にある巨大な翼で剣を払う。

 そのドラゴンの視界を遮る瞬間を見逃さず、さらに加速してドラゴンの顔へと姿を表す。


 ドゴォ!


 俺の拳がドラゴンの顔に直撃。

 ドラゴンの顔が少しのけぞるが、あまりダメージを負っているようには見えないな。

 俺の攻撃が効いてない以上、相手の反撃に備えて距離をとる。


「ガァァァァァァァァッ!!」


 するとドラゴンの周りに無数の魔力の塊が魔力探知で感じ取れた。


 これが暴風竜王の、いわば暴風玉か!

 

 暴風を操るこの竜王の魔法は風であるが故に透明だった。だが、空間が歪んでいると錯覚するほどにとてつもない暴風が魔法によって玉をなしている。

 それに、その塊から感じられる魔力は俺の電撃玉よりもさらに多い魔力が込められている。


 〈武式・電玉連弾〉!


 圧縮された魔力、武力によって作られた無数の電撃玉が俺目掛け襲いかかってくる暴風玉に向かって射出される。


 しかし、俺の電撃玉は一個ではまるで歯が立たず、三個ほどでやっと一個の暴風玉をかき消せるようだった。


 わかってはいたが、やっぱ俺より圧倒的に格上だな。

 だが、俺はここで引くわけにはいかない!


 電撃玉で暴風玉を迎え撃ちつつ、並行してさらに魔法を行使する。


 〈武式・電檻〉


 対ドラゴン用に巨大化された電檻がドラゴンを囲む。そして、ドラゴンが逃げる前に電撃を発生させる!


 暴風玉が新たに作り出されることはなく、それぞれの魔法玉による応酬はなくなったが……。


 あれは風のドームのようなもので身を守っているのか?

 電檻による電撃が全く効いていない……というよりかはドラゴンを覆う魔力による壁で届いていなかった。

 

「ガァァァァァァァァ!!!!」


 さらにはあのドラゴンを中心に、まるで爆発するようにして暴風が吹き荒れる。


 その暴風は電檻を吹き飛ばし、周囲の建物を次々と無残な姿へと変えていく。

 俺はなんとか踏ん張っているがそれでも耐えることはできず少しずつだが後退している。


 この吹き荒れる風だけでも厄介だが、さらにこの風は鎌鼬のように周囲を切り裂いていく。

 それから身を守るために電衣をさらに厚くして防御するが、完全には防ぎきれず俺の体には少しずつ傷ができていった。


 クッソ、これじゃ動けねぇ……。

 あのドラゴンは……いない!?

 ……って上!?


 次の攻撃を警戒してドラゴンに目をやるが、さっきまでいたはずの場所にドラゴンおらず、魔力探知をさらに研ぎ澄ませて場所を探すと俺の上空に反応があった。


 飛んでる! って、竜王だから流石に飛べるか。


 しかし、この暴風のせいで身動きが取れずドラゴンの動きを警戒するだけにとどまっていると、ドラゴンの口へと魔力が集中しだした。


 いやいやいや! あの魔力量はやばいだろ! 全力で防御しないとやられる!


 回避しようとするとそのまま風によって飛ばされて足場を失い、最悪の状態であの攻撃を受けることにかりかねないので防御に全力を回す。


 鎌鼬による斬撃を防ぐことをやめ、少しでも魔力を確保するために展開していた電衣を解除する。

 そして、俺とドラゴンとの直線状ににできる限りの巨大でどの魔法よりも強度を上げた盾を何重にも張る。


 〈武式・電盾〉といったところか。


「ガァァァァァァァァァァァッ!!!」


 ついに口へ集中された魔力が解放され、俺へと放たれる。やっぱりブレスってやつか!


 電盾によって防がれるが、それをものともせずにまた一つ。また一つと壊しながらブレスは進む。


「グ、グラァァァァァァァァッ!!!」


 俺のできる限りの魔力を電盾に込め、ひたすら耐える。しかし、それでも破壊しながら進むブレスは止まる気配はしない。

 それでも、威力を多少は削ることに成功しているのか。破壊までの時間が徐々に長くなっているように見えた。しかし、それでも止まることはなく俺とブレスとの間にはもう残す盾は五つとなった。


 もう盾で防ぐことは諦め、体を武式強化によって全力で強化し、体を守るようにして翼で覆う。

 すこしでもこのブレスに耐えれるように。


 そしてついにブレスは俺の元へ到達した。


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