奪還作戦、開始


 会議があった日から3日後。


 俺はアレストール王国の王都にいた。


『こんな状況なのにえらく簡単に入れたな』

「操られていると言っても上層部だけだからね。騎士たちもなにかおかしい事は察してたのだろうさ。だから前もって奪還作戦の事は話してある」

『だから検問もなしにあっさり通れたのか』

「うん。先に入った防衛部隊も分けてとはいえ、そうでもないとさすがに入れないよ」


 防衛部隊と奪還部隊は敵の懐である王都に直接乗り込む必要がある。敵だと怪しまれないように変装や舞台を分けるなどして侵入すると言っていたが、最大の難関である検問は攻略済みだったのか。さすハル。

 

「さて。さっきも軽く話したけど今回の作戦での僕たち奪還部隊の動きを説明するよ」

『「おう」』

「最優先の目的は王族や貴族、魔物にかかっている洗脳の解除。これさえ達成できれば魔物は統率力を失うだろうし、王国上層部も味方になる」

「それは何回も聞いたが、結局洗脳の解除ってどうやればいいんだ?」

「確信を持って言える方法はない。けれど、洗脳の施しているのは悪魔だということはわかっている。なら悪魔が洗脳を維持できないほどに追い詰めるのがいいと思うんだ」

『洗脳は維持する必要がなく、効果が永続なものだった場合は?』

「術者である悪魔の討伐。それでなんとかなると思うしかないね」

『ずいぶん行き当たりばったりだな』

「ははは……。でも、精神系の魔法は術者が維持しなければいけないものが多いから……そうだと思いたいよ」

「まぁ……時間的にも、状況的にもそれに賭けるしかないか」


 今の王国の状況は全てあのデビ野郎の掌の上だろう。なにより豚野郎を横取りした事といい、あの喋り方に煽り。理由がなくてもぶっ飛ばす。


「僕たちは悪魔が出てくるまで待機。レオルガやカルディアくんのことがバレると警戒して出てこなくなる可能性があるからね」

『魔物とは戦わなくていいのか?』

「それは全て他の二つの部隊に任せるよ。洗脳されていない王都の騎士達にも民衆の避難や魔物の討伐を協力してもらう手筈だしね」


 ちぇ。それは残念だ。


 事あるごとに戦闘狂と指摘され、自分での最近自覚してからはますます戦闘狂に磨きがかかってきている気がする。


 あの豚野郎とデビ野郎をぶっ飛ばすまでの辛抱だな。


「んじゃ、宿の確保に行こう。ここまできたら後は悪魔が出てくるまでやることがないからね」

『「最高級の宿を所望する!」』

「……まぁ、最高級の宿は情報管理についても徹底されているからね。もろもろがバレた場合にも備えてそうするけど」

『「よっしゃ」』

「仲良くなったね。君たち」


 今までは洞穴だったり、隠れ家だからと最低限の寝床だったりしたからな。

 いいベットで寝たいのだ!


 





++++++++++++++++++++++



 宿をとって引き籠ること2日。


『「暇だ」』

「……君たちはこんな状況なのに驚くほど自然体だね」

「焦ったってなにか起こるわけでもないしな」

『リスアはハルティスの情報で聞く限りでは捕らえられてはいるが無事なんだろう?なら救出に向けて英気を養うのが一番だ』

「そうだけど……」


 リスアがまだ無事ってことはあいつらにとってリスアは手を出せないなにかがあるか、利用価値があるんだろう。ならすぐに危険な状態になることはないはずだ。


 それに俺はドラゴンエンジョイ勢。

 人生エンジョイ勢である。

 何事も悲観的にならず適度に楽しむぐらいがちょうどいい。


『「暇だぁー」』

「……そう言っても待つことしかできないけどね」

『「俺、帰ったら結婚するんだ」』

「えっ?そうなの!?」

『「嘘だ」』

「じゃあなんで言ったの!?」

『「なんでってフラg——」』



 カンカンカンカン!!



 外で異常を知らせる警鐘が鳴り、人々の声などで騒がしくなる。


「……始まったみたいだね」

『「あ、やべ。これ死亡フラg」』

「いつでも動けるよう待機して」

『「死亡フr」』

「いいね?」

『「了解」』


 よし、真面目にやろう。

 

 あいつは絶対怒らせるとヤバい系だ。


「ひとまず変装して外に出て避難する民衆になりすまそう。ここじゃ外の様子を細かく把握できない」

『「了解だ」』


 ハルティスとレオルガは旅人風の服とローブを見に纏い、俺はハルティスのローブのフードへと身を隠す。


「よし、行くよ。ここからは王国の今後を左右する戦いだ気を引き締めてかかろう」

『「アイアイサー」』

「…………」

『「了解です!」』


 三人で外に出る。

 

 民衆はすでに移動を始めていて周りには誰もいなかった。


『民衆は避難するんだ?』

「貴族の屋敷から冒険者ギルドだよ。危険から守ってくれる実力者がいるからね。こういう場合民衆はここを目指す。魔物の侵攻ってことはもう知れ渡っていると思うし」

「じゃあ貴族がダメな今回は冒険者ギルドか?」

「そうだね。行こうか」


 ハルティスに揺られながら(?)冒険者ギルドへと向かう。


 魔力察知で感じる限りでは、騎士や防衛部隊がうまくやっているのか王都の中には魔物は入ってきてないな。


 このまま順調に行って、痺れをきらしたデビ野郎が出てきてくれればいいが。


「なんだアレ!?」


 走っていると目の前に黒い渦が現れて中から魔物が出てきた。


「ガァァァァ!!」


 一番先頭を走っていたのはハルティス。

 魔物がハルティス目掛けて襲い掛かる。


「グラァァ!」


 フードから飛び出し、体を一メートルほどに調節して部分的に【武式強化】と【電装】をかけた右腕で殴り飛ばす。


『大丈夫か?』

「う、うん。助かったよ」

「それにしても……こいつはSランクの魔物だな。それが突然王都内に?」


 あの黒い渦……その中から魔物が出てきた。

 デビ野郎が豚野郎を持っていったときのあの渦か?


『!!』

「? カルディアくん、どうかしたかい?」

『王都内にデカイ魔力が五つ現れた」

「また突然!?ー

『それに魔力的にどいつもSランク並みだぞ』

「それはまずい。Sランクが相手できるような実力者は外の魔物の相手をしてるだろうし……」


 流石に王都内に急に魔物が出てくるとは思わないから戦力はみんな外の魔物対策で出張ってるか。 


「俺が片付けてくる」

「でもそれじゃ警戒させてしまう可能性が……」

「けどこのままじゃ被害がでるだろう? なら俺が片付けるのが一番だ。まだカルディアより俺の方が強いからさっさと終わるしな」

「……わかった。片付けてきてくれ。それにまだ王都内に魔物が現れないとは限らない。僕たちとは別れた行動し、その警戒と現れ次第殲滅してくれ」

「了解。んじゃ、行ってくる」


 そう言ってレオルガは魔力の方向に向かって走って行った。


『十中八九あのデビ野郎の仕業だな』

「そうだね。まさか王都内にも魔物を配置してくるとは」

『まぁ、王都内の魔物はレオルガに任せてる限り大丈夫だろ』

「……うん。僕たちは冒険者ギルドに向かおうか」


 冒険者ギルドに向かいながら魔力探知で王都内の魔力を探る。


『次から次に魔物が突然現れるな』

「大丈夫そうかい?」

『ああ。片っ端からレオルガが殲滅してる』


 これなら突然現れた魔物から被害がでることはないだろう。


「冒険者ギルドについたよ」


 ここが王都の冒険者ギルドか。

 やっぱ地方にある支部より断然でかいな。


「避難者か?」

「はい。そうです」

「ふむ……旅人か。こんなタイミングで災難だったな」

「まったくです」

「騒ぎさえ起こさなければ自由にしてもらっていいぞ。お前らを受け入れよう」

「ありがとうございます」


 入ってすぐの場所に立っていたおっさんとハルティスが少し話したあと、空いているスペースに座った。


「ママ、大丈夫かな?」

「大丈夫よ。きっとお父さんや冒険者の人たちが守ってくれる」


 中はかなりの数の避難者がいて、現状にかなり不安を感じてる声が多く聞こえる。


「あなた!どこなの!?」

「ママぁ……どこなのぉ……怖いよぉ…………」


 避難している最中にはぐれたのか、はたまた逃げ遅れたのか。別の場所にいて安否がわからないのか。人を探している声も多く聞こえてきた。


「こういう時、僕は王族として皆を導くのがあるべき姿なのだろうけど……」

『今はこらえるしかないな』

「そうだね……。それに、今更だけも僕はこういう状況は初めてなんだ。僕自身も不安なのかもしれない」

『そうなのか?だから王都に来てから今までやたらと緊張してたのか』

「いや、君たちが緊張しなすぎなだけだよ。でも王族としての責任を感じていたのは事実だね。今まで危険や争いを知らず、安全な王城でぬくぬくと育ってきた坊ちゃんだけど……僕にだってできることはあると……けど」


 今までの明るいハルティスが嘘のように自嘲するように顔を伏せて言う。


「……実際に戦場にきてみると僕は無力だと思ったよ。僕は守るべき立場なのに民と変わらず君たちに守ってもらってばっかりだ。なんの役にも立ちやしない」

『おいおいそれは違うだろ。お前が行動して冒険者や貴族を集めたからこうして無事に避難できているやつらがいる』


 ハルティスは目を丸くしながら顔を上げる。


『俺は見てきたぞ。皆を守ろうとできる限りを尽くしてきた王族を』


 この状況で“お前”がそんなんじゃダメだろ。


『それにお前は王になる男だろ? なら玉座に座ってやれって言ってればいいんだよ。お前には支えてくれるやつらが沢山いる。……もちろん俺もな』

「カルディアくん……」

『あー。だから、こんなところでうじうじしてんじゃねぇよ』

「ははは……。そうだね。うん、頑張るよ!」


 お前は立派な“王”だ。誰が言おうと今までを見てきた俺が認めるさ。


『!? 今までとは比にならない量の魔物が現れた。……これは流石にレオルガだけじゃ対処できないな』


 しかもSランクまではいかないがどれも高ランクの魔物ばったりだぞ。

 ん?この魔力反応は……!


『……豚野郎とデビ野郎の魔力を感知した。そばにはリスアの魔力もある』

「!? じゃあ……」

『ああ。あいつらが本格的に動き出した』


 俺の役目はデビ野郎の討伐とリスアの救出。


『俺も行ってくる』

「僕も僕にできることを精一杯やるよ」

『了解。んじゃ俺も行ってくる』

「うん。リスアを、王国を……頼んだよ」

『おう、任せろ』


 二人で冒険者ギルドを出て、互いに背を向けて走り出す。


 よし、あいつにも任されたしな。

 俺もリスアを救い出して、王国も守るために頑張りますかね!



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