武の戦いと“悪魔”


 は?


 もう

 一度言おう。


 は?

 なんだ?“武”ってやつ貰ってスキルをゲットしたと?おーらい、かるでぃあちゃん、わかった。


 ……まぁ、冗談は置いといて……。あの話は全部本当だと思った方がいいのか。やばい、話半分に聞いてた。

 確か“武”とは今の俺に足りないもの……だっけか。

 確かに夢と余っていた暗闇の中で足りないものを自覚した。おそらくあの喋りかけてきたやつがカミイルなんだろう。

 じゃあこのスキルが今足りない“武器”と“武術”か?

 

「ガァァァァァアッ!!!」


 ……豚野郎か。さしずめ勝利の雄叫びってやつか? 今はまだ俺が生きていることに気づいてないようだがあんまりもたもたしてられないな。

 魔物達とテイン達がいるところへ合流されたらまずい。ただ、勝てる見込みもなく姿を現すのも危ない。

 まずはみんな大好き検証からか……って痛ァっ!


 とりあえず体を起こそうと右腕を動かすととてつもない痛みが。

 あー、あいつを殴った時の強化の反動でダメになってるんだった。まずはこれをどうにかするところからか。

 んー……身体能力を強化する要領で体の治癒能力も強化できるか?今できる限りではこれしか思いつかん。


 体が治っていくように想像して。具体的に言うと生物で習ったような人間の傷が治るメカニズムを想像して……真面目に授業聞いてなかったからうる覚えだが。

 その過程に必要な様々なものを強化する……!念のため圧縮した魔力で。

 ……よし、どうだ?


《【超再生】を習得しました》


 おおー。右腕が逆再生するように治っていく。うむ、気持ち悪い。

 新しいスキルもゲットしたし万々歳だ。

 そして引っ掛かったのが【超再生】の“超の部分。【再生】を吹っ飛ばして【超再生】かよさすドラ!と思ったが、この感じ……。

 体の中に感じる魔力をできる限界まで圧縮してみる。

 !? やっぱりか。さっきまでとは全く違う。カミイルの言葉で表すなら“質”ってやつか。

 これがあのスキルのどちらか……あるいは両方の効果か。これなら……!


《【武式強化】を習得しました》


 おおー!この圧縮した魔力で【身体強化】をやってみたが新しいスキルが手に入った。

 この“武”を貰った後で“圧縮”した魔力は別物だな。“武”にあやかって〈武力〉って名付けるか。

 あ、そもそもステータス開いて確認したら早いんじゃね。




【武ノ宝物庫】 武神から授かった“武”をスキルとして表

        記したもの

        使用者の魔力によってありとあらゆる

        武器や防具を形作る

        また操ることが可能

        ※魔力の質に依存


【武ノ神】 武神から授かった“武”をスキルとして表記し

      たもの

      魔力の質を高め、使用者が“武”と定めた行為

      またはそれに準ずる全てに補正がかかる

      

      これが“武”だ。まぁ励めよ。

                    by カミイル


 相変わらず雑で大雑把だなぁ……。しかもカミイルまで出てくるのかよ……。

 だが、ないよりかはいい。おそらく“武力”は【武ノ神】の補正でできたものだろう。元々の俺の魔力の質の向上と圧縮が“武”に準ずると判断されたとか。

 カミイルが“圧縮”はうんちゃらとか言ってたしな。

 次は【武ノ宝物庫】だが……

 

 ッチィ!


《【武装】を習得しました》

《【武ノ宝物庫】が【武ノ神物庫】に進化しました》


 目の前に一本の電気でできた“剣”が現れた。


 これは……“擬似物質”じゃなくて“物質”だな。

 武力のあまりにもの質の高さに“形創る”じゃなく“創る”になった……と?

 スキルもちゃっかり進化しちゃってるし。

 カミイルの言ってた“圧縮”は武を昇華させることができるってこういうことか。

 あとは操るって部分だが。目の前の剣に回転しろと回転する様を想像しながら念じると……。


 そりゃあもうくるっくる回転する剣の姿があった。

 

 ……上段からの振り下ろし、下段からの振り上げ、横への薙ぎ、正面への突き……。

 剣は俺の想像通りに動いた。これは腕がもう一本増えて剣を振り回している感じだな。それに維持したり操ったりするのには魔力を消費しない。うん何それどんなチート?

 もう一つ剣を創って動かしてみる。

 ……うん、いけるな。何本までいけるかな?


 検証してみた結果。動いてない状態なら10本、体を動かすと4本だった。おそらく戦闘しながらだとさらに減るとは思うが。

 これ以上脳のキャパオーバーだ。

 

 よし。これらを踏まえてあいつに勝つため俺の戦闘スタイルを確立しよう。


 まず“武”ってあるだけあってこの魔法やスキルは近距離特化型だ。【武式強化】と【武ノ神物庫】で作り出したガントレットで肉弾戦をおこないながら、浮かせた剣で追撃って感じか。接近するまでの隙も剣で稼げそうだしな。

 それに【武ノ神】によって元々の魔力の質も上がってるから魔法の威力も上がってるだろうし、武器の形を持った魔法は【武ノ神物庫】で創った判定になって操れた。魔力の消費量の問題で全部武力で創るわけにはいかないし、操るのにも戦闘で“剣”を使っていた場合はホーミングがせいぜいだけどな。


 よし……これで、いけるか。


 【武式強化】で全身を強化。さっきの一点集中とは比較にならない幅で体が強化される。

 そして強化に体が耐えきれず壊れるなら片っ端から治せばいいってことで【超再生】も同時に使う。

 両腕にガントレットを“創って”そばに4本の剣を浮かせる。

 最後に【纏い・電気】だな。さっきまでは豚野郎に通用しなかったがこれ、実は纏ってるだけで防御になるんだ。

 そりゃ帯電してるわけだからそれに触れたら感電するし。その状態で体を使っての攻撃なら全てが“電撃”だ。

 武力を使っての纏いならあいつにも。


《【電衣】を習得しました》


 体の周りで帯電している電気の量と電力が増しているな。これなら役に立つだろう。


 これが今俺にできる全力だな。

 問題は魔力の消費量が多すぎる。魔力を圧縮して武力として使うだけで普段より消費するのに、それに加えて重ね掛けしまくりだ。

 

 狙うは超短期決戦。


 さて、行きますか!


 上に空いた穴目掛けて一気に跳躍。一瞬にして景色は変わり、地上へと躍り出る。

 あたりを見渡すとテイル達が戦っている場所へ向かおうとしている豚野郎が。

 ん?こっちに気づいたか?


「ガァァァァァァア!!!!」


 なぜ生きている?って感じか。


 まぁ、あいつの考えてることなんざ知ったことではない。

 俺に向かって突っ込んできてる豚野郎に向かって浮かせた剣2本を射出する。

 はっ!嘗めてそのまま突っ込んできてるが……。


 バッチィィィッ!


『おろろ?どうしたよ豚野郎。想定外って顔してるぜ?』


 ギリギリのところで回避か弾く予定だったのだろう。だがそれはさっきまでとは威力も速度も違う。

 豚野郎の胸には一つの大きな太刀傷が。

 一本は避けて、もう一本も太刀傷で済ませたあいつはやっぱ強いなァ。だが!


「ガァァァァァァァァァァアアッ!!!」

『俺の方が強くなったみたいだぜ?豚野郎ォ!』


 一瞬にして豚野郎へと接近。

 豚野郎はさっきまでとは違う速さに反応しきれていない。

 右腕で腹を殴って吹き飛ばす。

 それを追うように剣を二本飛ばし、あいつの体と地面を縫い付けるようにして突き刺す。

 まあ接近し動けなくなった豚野郎に覆いかぶさるようにして飛びかかり、ひたすら殴り続ける。


「ガ、ア……ァァ……!」


 連打連打連打連打ァ!!


 しばらくそうして殴り続けてそろそろかと思い地面を蹴って距離をとった。

 あいつは俺の拳で地面という鈍器にひたすら打ち付けられていた状態で……。


 えぇ?あいつまだ息あんのかよ。

 死んだと思ったが、一応の警戒で距離をとってよかった。ただもう虫の息だ。ここから剣で止めを刺すか。

 さっきひたすら殴っているときに気づいたんだがあいつ、体が徐々に回復していた。おそらく【再生】でも持ってるんだろう。

 このまま放っておいたら時間をかけて回復しかねないからな。


『じゃあな、豚野郎』


 呆気なかったなと思いつつも油断せず、豚野郎を縫い付けたあと回収してそばに浮かせておいた剣を一本射出する。

 その剣は狂いなく豚野郎に向かって飛んでいき——


 ——突然現れた黒い盾によって塞がれた。


「グガァ?」

「うわぁ……五重に張ってやっとですかぁ」


 豚野郎の横にはシルクハットを被り黒のタキシードに身を包んで杖を携えた男が立っていた。

 

『誰だ?お前』

「これはこれはぁ自己紹介をしていませんでしたぁ。……私はアインモトスと申しますぅ」


 この男が邪魔をしたのか。


『ムカつく喋り方だな』

「よく言われますぅ!」


 けらけらと笑う男。

 ほんっとうにムカつく野郎だな。


『なぜ邪魔をした?』

「殺されると困りますからぁ。多少“弄った”とは言え“堕天”したにとどまらず進化までぇ……。こいつは是非とも手に入れておきたいと思いましてぇ」

『手に入れる?』

「えぇ。魔法で操って支配下にでも……とぉ」


 ニヤァと笑って挑発するように男は言う。


『操って支配下に……だと?』

「えぇ。私はそこまで強くないのでぇ守ってもらわないといけないんですよぉ……人間を殺すのにも必要ですしぃ?」

『お前まさか——』

「いかにもぉ!私が侵攻の張本人の“悪魔”でぇすぅ!」

『最後まで言わせろよ!』

「えぇ?そこですかぁ?」


 しかし、こいつがあの“悪魔”か。

 あまり強そうには見えないが……。まぁ、せっかくのこのこと出てきてくれたんだ。


『じゃあ豚野郎と一緒に仲良く死んどけ』

「いえいえぇ……私は死にませんよぉ?」


 さらに剣を三本創り、二本ずつ男と豚野郎に射出する。しかし、その剣は男に届くすんでのところで消え去った。


『は?っ……!』


 なんだこれ?急に体から力が……強化も全て解除されていく。まさか……!

 男はまたしても挑発的にニヤァと笑って面白そうだった。


「そりゃぁ、あんだけ魔力使っていたら“魔力ぎれ”も起こしますよぉ〜(笑)」


 これが“魔力ぎれ”か。やばいな魔法が全く使えない上に全身が脱力して体が動かない。


「それじゃぁ私はここで失礼しますぅ」


 男が豚野郎に手を向けると豚野郎のそばに黒い渦が現れ、それに飲み込まれて消えていった。


「それでわぁ。それにあなたのその“眼”ぇ。“鍵の所有者”ですよねぇ?ならばまた会うでしょぉ」

『“眼”?“鍵の所有者”だと?』

「えっとぉ……。“授かりし者って言ったほうがわかりやすいですかぁ?」

『……お前、何を知っている』

「いえいえぇ。ただの人間に仇をなす悪魔ですよぉ」

 

 そう言うと男は黒い渦に足を向けた。

 そしてそのまま吸い込まれて消えてゆく。


「ではではぁ。私以外に殺されないでくださいよぉ?」

『どういう意味……っ』


 魔力ぎれのせいか……意識を保つのもきつい。

 

 言葉を続けることができず、倒れ伏すと男はそれを満足そうに眺めて完全に渦に飲み込まれて消えていった。


 それと同時に俺も意識を失った。

 




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