“魔物の侵攻”、終結


 ——テイル——


 作戦どうりにカルディアくんとSランク魔物の一騎討ちへと持ち込むことができた。

 分断するという作戦どうりに、距離をとるようにして奥へ奥へと戦いながら進んでくれたので見える範囲にはいないけど今まで聞こえていた咆哮や戦闘音がなくなった。


 カルディアくんは大丈夫だろうか?

 どこまで遠くに行ったかはわからないけれど、あのオークキングがなかなか現れないってことは勝てたのかな?でもカルディアくんもまだ森からでてこないし。

 無事を祈るばかりだ。


「テイルさん、ボーッとしてないでください!」

「……ああ。すまないメルテーナさん。カルディアくんはうまくいったのかな……って考えてしまっていたよ」

「そうですね……。聞こえていた戦闘音が聞こえなくなりましたから、どちらにせよ決着はついたのでしょう。しかし、オークキングを倒したとしてもまだ二体もSランクがいるのでこっちも油断はできません。それに……そろそろかと」


 こちらもまだ戦闘が続いている。

 最初はオークキングと他の魔物たちを分断する目的で足止めをしていた。けも分断に成功したあたりから他の魔物が次々と雪崩込んできて戦闘が激化した。

 魔物の数がとにかく多くてすごく苦戦したんだけど。

 

 しかし、それも時間が経ってきて僕たち人間の方が優勢になっている。

 いくら数が多いとはいえ、低ランク……言うならば雑魚の魔物たち。しっかりと連携をとって地道に数を減らしていると、終わりの無いように思えた魔物の増援が少なくなってきてこのままならいずれ殲滅し終えるだろう。


 気がかりなのは他二体のSランク……。

 メルテーナさんもそろそろと言っていたけど僕も同感だ。自分たちの配下が負ける様をわざわざ傍観しているわけがないしね。Sランクの魔物が参戦するとなると雲行きが怪しくなるけど……。

 

 


「ギャギャガァァァァァァァッ!!」



「!……ついに現れましたね」

「ゴブリンキングなのが唯一の救いだね……」


 やっぱり出てきたか。

 現れたのがゴブリンキングでまだよかった。

 今いるSランクの中ではオークキング>ウルフキング>ゴブリンキングの順で強いから。

 まぁ、くるならばゴブリンキングだろうとは思っていたけどね。


「ギャァァァァァァァァァァア!!!」


 戦場に響き渡るゴブリンキングの咆哮。

 それを聞いた途端にゴブリンたちが人間にも劣らぬ連携をとって戦いだした。さっきまでとは雲泥の差だ。


 ゴブリンキングは戦闘面では他のSランクには劣るものの、配下の統率力が優れている。本来それぞれが好き勝手に動くゴブリンたちが訓練された軍のような動きを見せるんだ。

 本当にSランク以上の魔物っておかしいよね。


「みんな!相手も連携をとってきている!けど、あいつらには遠距離攻撃の手段がない!一箇所に集まりつつ、遠距離を主体に互いを守るように戦うんだ!」


 ゴブリンは魔物が使えない。この混戦なら石などによる投擲もしずらいからまず遠距離攻撃はないと思っていい。

 冒険者たちもこれがわかっているから一箇所に集まって魔法の得意な者は遠距離攻撃を。近距離が得意な者は接近したゴブリンの討伐と魔法を使う者の護衛と言った感じて戦い始めた。

 これならゴブリンキングさえ倒してしまえば勝てる!


「メルテーナさん!僕たちはゴブリンキングの討伐だ!」

「わかりました!」

 

 この中では1番実力のある僕たちがゴブリンキングを討伐する。ここ以外でも戦闘は起こっているから他のSランク以上の冒険者の増援も望まないだろうし……。


「ゴブリンキングの周りにいる取り巻きたちは僕が魔法で殲滅する。生き残るやつもいるだろうけど僕がサポートするからメルテーナさんはゴブリンキングに接近してほしい」

「了解です。頼りにしていますよ」


 これが1番確実だろう。

 ゴブリンキングなら周りの配下を殲滅して王を叩けばいい。二人なら可能だ!


「我が魔力を喰らい、炎の雨よ降り注げ!〈ファイヤーレイン〉!」


 無数の炎の塊が雨のようにゴブリンたちへ降り注ぐ。


「いまだ!」


 炎の雨が終わったと同時にメルテーナさんが駆け出す。邪魔する生き残ったゴブリンを排除しつつどんどん距離を詰めていく。


「ギャギャア!?」

「邪魔です!」


 メルテーナさんの持つ片手剣が流れるような線を描きゴブリンの首を跳ね飛ばす。

 やっぱり強いな、メルテーナさんは。もうSSランクに上がってもおかしくないんじゃないかな。

 

 そうして進んでいるとついにたどり着いた。


「ギャガァァァァァア!!」


「我が魔力を喰らい、炎をもって拘束せよ〈ファイヤーバインド〉!」


 この程度なら少ししか動きを封じられないけどそれで十分だよね?


「はぁぁ!」


 風を纏った剣を持ったメルテーナさんがゴブリンキングへと斬りかかる。


「ギャ!?」


 拘束を振り解いてゴブリンキングが飛び退いて避けようとするけど……。


 ザシュッ


 剣がゴブリンキングの胸の切り裂いた。

 致命傷ではないだろうけど、浅くはない傷だ。


「テイルさん!私がしばらく相手をします!その隙に先程の魔法の準備をお願いできますか!」

「〈ギガファイヤーウェイブ〉のことかい?わかった!任せてくれ!!」


 彼女がうなずくのを確認して詠唱を始める。

 周りにいたゴブリンたちは殲滅されていて僕たちの目の前にはゴブリンキングだけだ。

 しかしもたもたしていたらまたゴブリンたちが集まってくる。その前にゴブリンキングを倒す!


「メルテーナさん!準備ができたよ!!」


 剣劇を繰り広げているメルテーナさんがゴブリンキングの武器を弾いて体勢を崩させる。

 その隙に魔法の範囲外へと走りだしていた。

 

「テイルさん!お願いします!」

「〈ギガファイヤーウェイブ〉!!」


 高密度の炎の波がゴブリンキングに襲いかかる。


 火が消えると真っ黒に焼き焦げたゴブリンキングの焼死体があった。


「ふぅ……テイルさん、お疲れ様です」

「メルテーナさんも。あなたがいて本当によかったですよ」


 なんとか切り抜けた……。

 これでここは残る魔物を殲滅するだけだ。


「魔力の方は大丈夫ですか?」

「ははは。情けないことにほとんど残ってないですね」

「いえ。テイルさんがいなければここはとっくに全滅していたかもしれません。後はゆっくり休んでください」


 メルテーナさんがそう言ってくれるけど、みんなが戦っている中僕だけずっと休んでるわけにはいかない。

 魔力の回復を待って、回復しだい僕も殲滅——



「ウォォォォォォォォオン!!!」



 ——を?


「ウルフキング!?」


 なぜここに!?てっきり他の場所で戦っていると思ってたけどよりにもよってここに……。


「メルテーナさん、まだ動けますか?」

「……ウルフキングが相手では厳しいかもしれません」


 今まで連戦続きな上に僕が詠唱してる間ずっとゴブリンキングを一人で抑えてたんだ……。メルテーナさんも限界のはず。

 この状態でウルフキングの相手は正直無理だ。


 しかし、無情にもウルフキングの血走った狂気に満ちた目は僕たちを見ていた。


「弱音を吐いている場合じゃなさそうですね……」

「そうですね……せめて時間稼ぎを」


 満足に戦えない今、できることはウルフキングを倒せる者が到着するまでの時間稼ぎだ。


「ウォォォォォォン!!」


 くるっ!!


 覚悟を決め、身構えた瞬間——


「斬月」


 ——ウルフキングが血飛沫を上げて倒れた。



「「は?」」


 な、なにが?


 困惑していると、こちらに近づいてくる男が見えた。

 あ、あれは……!?


「お前たち、白いドラゴンが何処にいるか知らないか?」

「し、知っていますがどうしてあなたがここに……?」


 動揺を隠せず言葉に詰まってしまった。

 だけどなんで……。


「なぜXランクのあなたがここに!?」

「ちょっとな。人……いや、ドラゴン探し?」

 

「ウ……ガァ………!」


 話しているとウルフキングが立ち上がり、手負いとは思えない速度で逃げるようにして森へと入っていった。


「まぁ、さすがに実力差ぐらいはわかるか。……で、そのドラゴンは何処に?」

「あ、ああ。オークキングとの戦いで森の中に。森のどこかまではわかりませんが……」

「森の中な。了解、助かった。ならあの狼でも追いながら探すかぁ」

「こちらこそ助けてくれてありがとうございました」

「いいってことよ」


 そう言って彼は森の中へ行ってしまった。


「なぜあの方がここへ?今は“殿下”の護衛中と聞きましたが……」

「わからない……」


 本当にわからない。それに白いドラゴンって言ったらカルディアだろう。

 でも………


「なぜ、“殿下の護衛であるあの人がカルディアくんを探しているのかな……?」




 王族が自分の護衛であるXランクを動かしている……なると並のことではない。


 それに今回の“魔物の侵攻”といい……。


 

 一体なにが起こっているんだ?

 そして、その並のことではない探し人は……。




 カルディアくん、君は一体……。






 その後、冒険者たちによって残りの魔物が殲滅され、“魔物の侵攻スタンピード”は終結した。


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