勝つための“武”を


 豚野郎に叩きつけられた後からの記憶が途切れている。死んだのか?それとも意識を失っただけか?

 どちらにせよ、何も見えない暗闇の中。体は動かせずとも何故か意識はあった。

 

 あの豚野郎は……強かった……。

 それはおそらく魔法によって強化された身体能力……。“力”だけで俺の全てを上回った。

 だが、俺もこのまま負けるわけにはいかない。

 ここまで繋げてくれた奴らの期待に応えるため……。この世界で見た、平和に暮らす人々を守るため……。リスアを守るため……。


 負けるわけにはいかない……!


《じゃあ、勝つにはどうしたらいい?》


 勝つ方法?そんなの知ってたらこんな状況にはなっていない。


《あぁ……聞き方が悪かったな。あいつに勝つためには何が足りない?》


 足りないもの………?


《ああ。あの豚野郎はお前より強い。お前はあいつより劣っている。じゃあ、その理由は?劣っている部分は何だ?……それを補うためには、勝るためには何が足りない》


 あいつの俺に勝っている部分は力だけだ。その一つだけで俺の全てを上回った。

 

 ……あいつに勝つためには“力”がいる。

 ……あいつに届くだけの、強さと強度を持った“武器”がいる。

 ……あいつに勝つためには“力”による暴力をいなすだけの武器や体を使いこなす“武術”がいる。


 ……それが、今……俺に足りないものだ。



 瞬間、俺の視界が真っ白に染まり——


 ——目の前に真っ赤な髪を肩まで伸ばし、腕を組んでこちらを見下ろす女が……浮いていた。




 どこだここは?この女は誰だ?……浮いてるし。ん?浮いてる?うん、浮いてるよな……。そうだ浮いてる……。……浮いてる!?


『なんでお前浮いてんの!?』

「初対面のやつに対する第一声がそれか」

『い、いや。だって浮いてるし……」


 誰だって人が浮いてたらびっくりするだろ!


「お前、人前では偉そうに頭よさそうに強そうに見せているが……ただのバカだろ?」


 ま、まぁ、カナヘビちゃん追いかけてその先で溺れて死んだやつですし。そんな死に方したやつ俺ぐらいしかいないだろ。


「……まぁいい。今まで“ずっと見てて”お前があたしの“武”を扱うに足る存在かは見極められた。よろこべ、お前は合格だ」

『“武”?合格?何のことだ?」

「自己紹介しよう。あたしは“武神”カミイルだ」

『言葉のキャッチボールをしようぜ!?』


 なんだこの女?突然現れて今のわからんことを……。

 “武”?合格?なんだそれ。聞いても答えてくんねぇし。お前の自己紹介よりそっちの方が気にな……ん?


『なんて?』

「カミイルだ」

『その前』

「武神だ」

『お前さらっとすごいこと言うな!?』


 突然現れて“武神”!?もうカルディアちゃん意味わかんないっ。


「……お前、面白いやつだな」


 いろんなことが起こりすぎてテンションがおかしくなっているだけだ!


「そうか」

『心の声に返事しないでもらえる!?』

「念話の応用だ。……それにしても少しキャラ変わってないか?」


 ね、念話ってそんなこともできるのか……。


「とりあえず本題に入っていいか」

『あ、いろいろスルーされた』

「それも含めての本題だ」


 もうなんでもいいや……。


「お前を見てきて、そしてさっきの問答でお前には資格があると判断した。よってお前に“武”を授ける」

『あ、はぁい』

「……お前の使っていた“圧縮”。あれは“武”を更に昇華することもできるしな」

『ん?お前“圧縮”知ってるのか?』

「神に向かってお前って……。ブレないな」

『神だって言う実感が持てないんだよ』

「疑いはしないんだな」

『まぁ、状況証拠ってやつだ』


 いきなり目の前に現れて、浮いていて、心まで読むんだ。少なくとも普通の人間じゃない。


「あの“圧縮”は見たところ魔力の質を高める技術のようだな」

『そうなのか』

「は?知らなかったのか?」

『なんか魔法が強くなる……としか思ってなかった』

「バカだな」


 侵攻のせいでそこまで検査するほどの時間がなかったんだよ!!

 しかし質が上がって魔法の威力が上がるんだな。


「魔法の威力や効力はもちろん量もそうだがそれ以上に質に依存する。普通は進化やレベルが上がって良くなるものだが、“圧縮”は意図的に良くするわけだ」

『他に使うやつはいないのか?』

「いや、一人だけいる」

『一人だけ?そりゃまたなんで」

「この方法は魔法の過程を知らないとまずできないからな。それがわかるやつは無詠唱を扱えるやつしかまずおらん。そもそも無詠唱を使えるやつがすくなすぎるんだよ」

『それだけじゃないだろ?』

「ああ。簡単な話、わかったところで『よし!圧縮してみよう!』とはなんねぇんだよ。圧縮って単語もわからないやつが大半だろうしな」


 この世界は電撃魔法の発想がなかったり、圧縮って発想がなかったり……。いろいろ乏しいな。


「まぁ、そうだな。こっちは科学はほぼ発展していない。人間には扱えない電気は自然災害だし、圧縮なんていう考えもない」

『ん?そのいいようじゃ地球とか科学とか知ってるのか?』

「お前を転生させたのはあたしだしな」


 こんなところでドラゴン生最大の謎が解けたよ!


「言語がわかるのは転生する際に不便だろうからわかるようにした」


 あ、ついでわからなかった謎も解けた。


『それで結局“武”って?』

「わかりやすく言うと、お前の足りないものだ」

『足りないもの?』

「お前、言ってただろ?“武器”や“武術”だ」

『は?あれ夢じゃなかったの』

「バカか」


 あれは誰だって夢だと思うだろうが!!


「とにかく授けた。これで勝てるだろ?」

『や、授けたとか言われても』

「頑張れよ」

『キャッチボールぅ!』


 マイペースすぎんだろこの神さん。


『それ以外に何かないのか!?』

「そうだな……あ」

『「あ」ってなんだ!』

「その“鍵”は誰にも渡すな。あの女を助け出せ。悪魔と“その上”には気をつけろ」

『ああ……もう………はい』

「理解ができてなりよりだ」

『呆れてたんだよ!何一つ理解してないわ!』

「やっぱりバカか」


 本当にこの神はもう……。

 ん?なんだこの光。発生源は……俺!?


「時間切れみたいだな」

『何一つわからなかったんだけど!?』

「授けた“武”についてはすぐにわかる。その他も近いうちにな」

『そうかい!』


 本当になんだったんだ。夢オチなんかじゃないよな?


「授けた“武”それはまだお前にとって授かった“別のモノ”だ“自分のモノ”にできるよう励めよ」


 『だから意味がわからないんだが!?』そう言おうとして言葉にできずに意識を失い、その真っ白い世界から姿を消した。


「モノにしてここまで至れ。お前にはそうなれる全てがそろっている。期待してるぞ」


 


 

 また意識が戻ると薄暗い地面のゴツゴツとしたところにいた。ここは……?

 上を見上げると大きな穴が空いていて光が差し込んでいる。

 豚野郎に飛ばされて……その勢いで地面が耐えきれず、元々下にあった空洞に落ちたってところか?



《【武ノ宝物庫】を習得しました》

《【武ノ神】を習得しました》

《“鍵と“適性”を確認……スキルの習得に失敗しました》


 は?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る