豚野郎との衝突


 おいおいおい……

 あの豚野郎突然ぶつぶつ言い始めてアホみたいな魔力出しやがったと思ったらドス黒くなるわ、あいつに収束されていくわで……終わったらあいつめちゃくちゃ強化されてね?

 しかも無くなっていたはずの四肢も俺のやっている“擬似物質”のような容量で義手、義足のような形をした魔力の塊がくっついてるし。


「ガァァァァア!!」


 現実逃避気味にあれこれ考えていると目の前にオークキング……いや、もうあれはオークキングじゃなさそうだから豚野郎で。

 その豚野郎が俺の目の前にいた。

 圧縮した魔力での身体強化で動体視力も強化されているはずなんだがなぁ!


「「ガァァァァァァアアッ!!」」


 お互いに咆哮しながら鉄棒と拳がぶつかり合う。

 

「グラァ!?」


 そして次は俺が吹き飛んだ。

 さっきまでは俺が押していたんだけどなぁ……。

 それに対峙して改めて思ったが、これどんな強化だ?強化の幅が洒落になってねぇぞ!?


 いくつもの木をなぎ倒しながら吹き飛ばされた。


 いってぇな……とりあえず体勢を立て直して追撃の警戒っ……を!?

 起き上がって前を見るとこちらに飛んできている木が。


 え?あいつ木を引っこ抜いて投擲したのか!?

 は、速え……。今のあいつの力で投げられた木に当たったらどうなるかわかったもんじゃない!

 できる限りの身体強化を使って全力でその場から飛びのく。


「ガァァ!」


 ですよねー!あれを投げた後に超近距離特化のお前が近づいてきてないわけないよな!

 またしても振り下ろされる鉄棒。

 正面からの力比べじゃどうやっても負ける。さっきは吹っ飛ばしてくれたからいいが、叩きつけられてそのままタコ殴りにされちゃ俺の負けだ。

 距離をとって戦おうにも“圧縮”による俺の今の戦闘スタイルも近距離戦が最も強い。って言うか今のあいつならいくら遠距離から魔法を飛ばしても、消し飛ばされるのがオチだ。

 せいぜい牽制ぐらいにしかならない。


 だったら近距離で戦うしかないわけなんだが……!


 上段から振り下ろされた鉄棒。

 さっきから何回も見せられたんだ。速度じゃ負けるが予測してギリギリ避けることはできる!


 バゴォォォォオッ!


 振り下ろされた鉄棒は止まることなく、空を切り、そのまま地面にぶつかって、巨大なクレーターを作り出した。

 あれ防御もせずにまともに当たったら……俺、間違いなくスクランブルエッグだろ!?

 

「ガアァ?」


 避けられたのが不思議なのか振り下ろした状態で首を傾げ、間抜けな声を出す豚野郎。

 残念だったな!さすがに何回も見りゃ避けれる!そして今のお前は隙だらけだァ!!


 全力の身体強化。それも今まで全身に回していた魔力を右腕に集中させる。強化に耐えきれず間違いなく腕は壊れるだろうが、あいつに届かせるにはこうするしかない。

 腕を纏うガントレットにも魔力を一点集中で限界まで注ぎ込む。先程の圧縮電撃玉を遥かに上回る威力と耐久性のガントレットの完成だ。

 今できる最大の威力でこいつをぶん殴る!


 〈【身体強化】圧縮一点集中〉

 〈【電装】圧縮一点集中ver.ガントレット〉


「グラァァァァァァァァッ!!!」


 大きく踏み込み、持てる全力で繰り出された俺の拳は隙だらけの豚野郎の顔面あっけなく突き刺さり、あいつは吹き飛んだ。

 さっきから俺かあいつのどちらかが吹き飛んでばっかだな……って痛ァァッ!

 圧縮した魔力を更に一点に集中させて施した右腕の強化。その強化に耐えきれず右腕は血を流しながらまるで破裂したようにボロボロになっていた。

 

 だが、こうなるだけの攻撃は叩き込んだ。

 繰り出した拳の拳圧だけで前方の木はなぎ倒されるほどの威力だし、纏っていたガントレットもただ頑丈なだけじゃない。

 圧縮、一点集中させたおかげで電力?電圧?……まぁ、とにかく火力が格段に上がってる。Sランクの魔物なら触れるだけで黒炭だ。


 さすがにこれで終わってくれよ……。

 これで無理なら右腕もダメになった状態で。今以上の攻撃ができない中勝てる見込みはゼロだ。





「ガァァァァァァァァッァァアアアア!!!」




 うっは……うそーん……。
















 

「ガァァァァァァッ!!」


 どうも。こちら現場のカルディアです。

 ただいま悪意や狂気を感じさせるドス黒い魔力を垂れ流しながら不細工な顔で鉄棒を振り回す豚野郎に一方的にフルボッコにされているカルディアです。


 どこまでも轟くような咆哮が聞こえ、そちらを見ると。

 あの一撃をまともにくらってさすがに無傷とはいかず左腕にあった魔力の義手は消え失せ、顔がより不細工になった豚野郎がいた。

 なぜ腕が消えて顔が不細工になるだけで済んでいるのか不思議だったが、見た目よりダメージは大きいのか。豚野郎はふらついた。

 もちろんその隙をついて身体強化を使って電装で纏ったガントレット付きの左腕でぶん殴ったが……。


 右腕で受け止められ、またしても吹き飛ばされたあと完全にバーサーク状態の豚野郎の猛攻身体強化と電装を使ってできる限りの防御をしながら耐えている状態です。

 しかしそれも長く続かず。


 バチィ……


 今まで体を纏っていた電装が蓄積されたダメージで維持できずに解除された。

 身体強化と電装。この二つでやっと凌いでいた攻撃をもはや凌げるわけもなく。


 言うならば防具を失った俺の体は、豚野郎からしたらどのように映ったのだろうか。

 しめたとばかりに顔を歪め下段から振り上げられる鉄棒。電装のないありのままの衝撃を伝えるその一撃に踏ん張ることのできず、軽々と木を追い越して俺は宙へと浮かんだ。

 

 俺を追いかけるようにして豚野郎が跳躍。そして叩きつけるようにして鉄棒を振り下ろす。


「ガァァァァア!!」


 あ、これっ……やば……!


 防御もできずに受けた豚野郎の鉄棒。

 地面に叩きつけられ、そのまま沈んでいくような感覚とともに、俺の意識も黒く染まった。



 

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