異変と協力


 リスアを連れ去ろうとした男たちの襲撃から3日後。


 周りに細心の注意を払って過ごした。

 なぜあの男たちがリスアを狙っていたかやからないが、リスアに聞いてもはぐらかすばかりで教えてはくれない。


 今は寝床から出て、朝から狩りにきている。

 Lv.を上げるための狩りはここしばらくしていないが、食料を確保するための最低限の狩りは必要なのだ。

 ちなみにリスアは背中に乗せて連れてきている。

 しかしーー


 ーーなぜこんなに魔物がいないんだ?


 あきらかにおかしい。

 たしかに俺がもともと少ないのと俺が乱獲していた時期もあって少なくなっているかもしれないが、それにしてもだ。

 寝床からかなり離れた場所にきてみてもやはりいない。


『リスア、この森は元々こんなに魔物が少ないのか?』

「いえ?この森はその広大さとそれゆえの魔物の多さが特徴よ」


 ならば尚更おかしい。一体なにが起きている……?


 

 しかしいくら魔物がいなくても食料は確保しなければならない。そのため日が真上に上がったあとも探索を続けていた。


『ん?……これは…』 

「?…どうかしたの?」


 これは……あの冒険者の女の魔力?そしてそ 女を囲うように20匹ばかりの魔物の魔力が。

 ……なぜこんなに探してもいなかった魔物が次は20匹も固まって動いているんだ?

 ……あの女に聞けばわかるかもしれないな。いってみるか。


『20匹の魔物とそれらと交戦している冒険者を見つけた。……手助けに向かう』

「!?早く助けなきゃ!!」

『まぁ……必要はないだろうが』

「早く行きましょ!!」


 【魔力探知】で相手の魔力を探ることによってだいたいの強さを測れるようになったが、あの女……結構強い。

 すくなくとも俺が会ったもののなかで1番だ。

 感じ取れる魔力的にオークだろうがあの女ならば相手にならないだろう。

 そんなことを考えたいはうちに目に見える場所まできた。俺がくるまでにすでに残りのオークの数は7体になっていた。

 残りの7体のオークに向けて〈電撃剣〉を放つ


「…!あ、あなた様は…」

『久しぶりだな。必要はなかっただろうが加勢させてもらった』

「いえ、助かりました」


 どつやっても楽勝だっただろうに……あの赤髪野郎と違ってできた人間だな。

 

『ところでだ。今この森はどういう状況だ?』

「!……どういう状況とは?」

『この魔物のいない状況のことだ。今の反応からして何か知っているのだろう?』

「たしかにあなた様も無関係ではありませんか……」


 やっぱりなにか知っているみたいだな。


「私は今日、冒険者からの報告によって森を調査しに来ました。あなた様もしってのとうり魔物の異常な少なさです」

『やっぱり異常なのか』

「はい。そしてこの報告を受けた冒険者ギルドはある可能性にたどり着きました。それを確かめるための調査です」

『その可能性とは?』

「ーー“魔物の侵攻スタンピード”。何十年単位でまれに起こる大量の魔物による襲撃です」

『そんなことがあるのか』

「はい」


 つまりこの場合に当てはめると、カーナの森にすむ魔物がカーナの街に大軍となって襲いかかるということか。


「ですが、今回はそんな自然とは状況が違います」

『ちがう?』

「はい。何十年単位でおこる魔物の侵攻はこのように森が静まりかえることなく突然魔物が溢れてるようにして押し寄せます」

『……?ではこの状況は?』

「はい。それが冒険者ギルドの行き着いた可能性……。人為的な“魔物の侵攻スタンピード”の発生です」


 人為的に魔物の侵攻なんていうものを起こす……そんなことが可能なのか?


「500年前。今は文献として残っているだけですが、今と全く同じ状況を得て起こったという記録があります。その人為的な魔物の侵攻は自然におこるものとは違い……まるで軍のように、統率をとって魔物が“攻めて”きます」

『軍のように、統率をとって魔物が攻めてくる?それじゃまるで魔物を操っているような……』

「はい。まさにそのとうりです」

『そんなことが人間にできるのか?』

「いえ、人間ではありません。500年前……魔物の侵攻を人為的に起こした存在は“悪魔”…と呼ばれていた存在だそうです』


 悪魔?それは地球でいう悪魔と似たようなものなのか?


「魔物の軍は悪魔だけが操る“暗黒魔法”によるものだとか」

『暗黒魔法?』

「直接精神に影響を及ぼして操ったり、幻覚を見せたりする魔法なのだそうです。もちろん“暗黒”に質量を持たせて攻撃も可能なのだとか」


 “暗黒”に質量とは


『それで?今回はその悪魔とやらが起こす魔物の侵攻で間違いなさそうなのか?』

「はい。調査した限りではその状況と全く一緒です」


 聞くには、魔物の侵攻がおこる前日に今までいた魔物がいなくなり、まるで準備をするかのごとく一箇所に集まるのだとか。

 そして魔物が集まり次第、満を辞して進軍を始めるらしい。

 知性のない魔物からは考えられない、統率の取れたまさしく軍のような進軍を。


「このオークたちはおそらく斥候でしょう」

『ふむ、俺は操つられていないみたいだが』

「暗黒魔法で生物を操るのは高い知能や精神力があると抵抗できるそうなのです。おそらく人間やあなた様が操られていないのと操るのが知性のない魔物ばかりなのはそのせいかと」


 よかった。気づかない間に操られているとか洒落にならん。

 

『じゃあ明日あたりにはこの森から魔物の大軍が出てくるのか』

「だと思います」


 それだとこの森の中にいては危険だな。もちろんこの森の魔物に遅れをとるとは思わないが、大軍となると数がちがう。俺でも危険だろう。


『リスア、このまま森にいては危険そうだ。どうする?』

「どうするって……私に案はなにもないわよ?」


 同じような森に移動してしばらく身を隠すか?


「それならば……お願いがあります」

『お願い?』

「はい。我々人間は魔物の侵攻を迎え撃ちます。それにあなた様も協力してくれないでしょうか」

『……魔物の俺がか?』

「はい。あなた様は操られていませんし、ドラゴン。それも属性竜が味方をしてくれるとなると士気や勝率もグンと上がります。戦力もできるだけ多く欲しいのが現状なので」

『ドラゴンだぞ?帰って逆効果になったりしないのか?』

「おそらく大丈夫だと思います。それにドラゴンには“守護竜”として人間の味方をするドラゴン……“竜王”もいますので」

『“守護竜”なんているのか』


 よかった。ドラゴンも人間に敵対するやつらばかりではないんだな。

 まぁ、俺があった冒険者たちに恐れられたのを見る限り、敵対するドラゴンも一定数いるのだろうが。

 さて……どうするか。


『……わかった。条件付きで引き受けよう』

「条件とは?」

『俺が戦っているあいだ、背中にいる女を守ることだ』

「……それならばおそらく大丈夫かと」

『わかった。それならば協力しよう』


 俺の背中を確認した冒険者の女がそう言う。

 リスアは身につけていた外套のフードを顔を隠すようにして被っていた。


『リスア、それで大丈夫か?』

「私は大丈夫。……カルディアも気をつけてよ」

『ああ、大丈夫だ』


「それではついてきてください案内します。……えーっと」

『カルディアだ』

「カルディア様ですね。私はメルテーナです。よろしくお願いします」


 

 俺は背中にリスアを乗せ、冒険者の女ーーメルテーナのあとについて人間の街に向かうことになった。



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