逃したその結果


 ーークソっ!なんでドラゴンが守ってるんだ!!



 仕えている“ベルナード”様からの命を受け、俺が団長を務める公爵家の私兵騎士団の中でも精鋭を率いて捜索にでた。

 ベルナード様が探しているかはわからないが、“計画”?とやらのためだろう。その詳細は聞かされていないが。

 ひとまず自前に依頼をした冒険者から聞いていた捜索ルート、帰還ルートを辿ることにした。

 2日ほど経ったところで冒険者たちの遺体を見つけた。

 

 ……周りや遺体の傷を見たところ人間にやられたものじゃなかった。

 おそらく魔物に襲われたのだろう。

 しかし、たしかこいつらはCランク冒険者だったはずだ。すくなくとも5人がかりでやられたのならば最悪A以上の魔物のはずだ。

 まだ周りにいる可能性もあったのでより警戒をするように団員へ伝え、通りの街で聞き込み調査をしながら進んだ。


 

 5日目になり、探索ルートでは最終目的地の「カーナの街」にきた。

 この街より先には「カーナの森」と呼ばれる広大な森が広がっているためひとまずここを最終と冒険者達と話し合った結果だ。

 ここに来るまでにとうりかかった街で聞き込みで調査を行ったが目立った情報は手に入れられなかった。

 このままではまずい。手ぶらで帰ることになればベルナード様になんと言われるか……。


「すまない、この街で金色の髪を肩まで伸ばし、金眼の16ほどの女を見なかっただろうか?」


 金髪だけならごまんといるが、金髪、さらに金眼の両方となると例がすくなく、この国では“ある家”の血縁者を指す特徴に等しい。


「……あ!たしかだいぶ前に見たぞ?」

「っ!ど、どこへ!?」

「たしかカーナの森にいってなかったかなぁ。顔を隠すようにフードをしていたがたまたまチラッと見えたんだ。……それにしてもあの……お方?はいったいーー」

「ーー協力、感謝する。それとできればこの件には詮索しないでもらいたい。必要とあれば口止め料も払おう」

「……わかった。詮索はしないと約束する」

「感謝する」


 翌日から団員を率いて森を調査することにしよう。



 森を探索し始めて2日が経った。

 ここはランクは低いが魔物が“多く”いる。そこまで深くには行っていないだろうと踏んで浅いところを重点的に捜索していた。


「やっと見つけたぞ……!」


 そしてついに見つけた。

 となりに「白」?…色のドラゴンがいるが遠くてそう見えるだけで所詮幼竜だろう。「白」色のドラゴンなんて聞いたことがないしな。

 幼竜ならこの人員でも十分に討伐できる。ここにいるやつらは全員最低でも冒険者で言うBランクほどの猛者たちだ。


「さぁ…!これ以上は逃がさん!大人しく捕まれ!!」

「い、いやよ!」

「はっ!なら無理やり連れて行くだけのこと!!」


 ベルナード様が「命に変えても」とまで言ったのだ。なにかあるのだろう。無理やりにでも連れていかせてもらう……!


『させると思うか?』


 な!?あのドラゴンが喋ったのか!?

 それになぜーー


「あの跡からもしかして……とは思っていたが……。なぜドラゴンが人間の女を庇う」

『お前らには関係ないことだ』


 なぜかはわからないが確かに関係ない


「ならば力ずくで奪い取るだけだ!!」


 だが所詮は幼竜。俺たちはあの方を連れ去ることを第一に突撃した。


 

 そこからは一方的だった。


 ドラゴンが見たことのない魔法を使うとそれが驚くような速さでこちらに飛来する。

 一瞬で反応できなかった7人がやられた。

 すこし呆然としてしまったがすぐに気を引き締める。

 ……だが、こいつは「属性竜」らしい…

 しかし、「白」色のドラゴンなんて聞いたことがないぞ!!


 その後も1人が一瞬にしてドラゴンの爪によってやられた。

 

「だ、団長!あなただけでも逃げてください!!」


 連れてきたやつのなかでは俺を除き1番腕の立つ団員がそう言う。だが、そんなことできるわけがないだろう……!

 

「属性幼竜は予想外です…!早く計画のためにも伝える必要がありまふ…!足の速さなら俺よりも団長の方が速いでしょう!行ってください!」

「だ、だが……!

「はやく!!」

「すまないっ…!」


 こいつの言うとうりだ。この予想外の情報は持ち帰らなくてはならない。

 そして、逃げて帰れる可能性の高いのは俺のほうだ。


「ここは通さん!!」


 後ろでそんな声が聞こえる……。


 すまない……!!


 しばらく無我夢中で走っていたがドラゴンは追ってきていないようだ。


 早く……!この情報を伝えなければ……!!





++++++++++++++++




「なに?逃げて帰ってきただと?」


 あの女を連れてこいと言って1週間ほど前に出て行った我が私兵騎士団の団長が跪き、そうのたまっている。

 

「お前の命に変えてでも……と、言ったはずだがよくのこのこと帰ってこれたな」

「ち、違うのです!!かの方はドラゴンに守られておりました!」

「ドラゴンだと?」

「それも、見たことのない魔法を使う『属性幼竜』でした!!」


 見たこともない魔法を使う『属性幼竜』……?

 そんなやつに守られていただと?


「嘘を言っているわけではないだろうな?」

「だ、断じて!私たちでは全く歯が立たず……せめて情報だけでも……と帰ってきた次第です。私以外は全員……」

「……わかった退席してよいぞ」

 

 ふむ…こいつが連れていったのは最低でもBランクほどのやつらだったな……。それで歯が立たないのであれば真実か?

 あいつは長年勤めているが、私に向かってこんな嘘をつくような男ではない。

 まぁ、それでも連れてこれなかった無能であることには変わりはないのだがな。


「難航しているようですねぇ」

「……まだいたのか」

「『連れてくる』と出ていった団長さんが帰ってきてたのでねぇ。なにか進展があったのかと来てみた次第でしてぇ」

 

 この“計画”を持ち込んできた男がそこにいた。

 ただ、こいつは胡散臭く信用はしていない。こいつの言う計画が私の目的と一致していたので手を組んでいるだけだ。

 とことん利用してやろうと思ってな。


「それにしても『属性幼竜』とわぁ……厄介ですねぇ」

「ああ。だが、この“計画”にはあの女が必要なのだろう?」

「私の目的はそもそもあの女ですからねぇ」

「それで?どうするつもりだ?その様子だとなにか案あるんだろう?」

「おぉ?わかっちゃいますぅ?」


 本当に胡散臭い男だ。

 さっさと話せばいいものを。


「いいからさっさと話せ」

「つれないですねぇ」

「………」

「いえですねぇ?どうせならもともとやるつもりだった“あれ”をしてしまおうと思ってですねぇ」

「“あれ”…とは『カーナの森』のやつか?」

「えぇ。もともと“計画”のために準備していたものですが……ドラゴン。それも属性幼竜がいるのならばここで使ってしまおうと思いましてぇ」

「いいのか?」

「大丈夫ですよぉ。所詮ただの保険でしたからねぇ」

「……なるほど。そういうつもりか」

「えぇ。『カーナの森』で起こす“あれ”の規模ならさすがに属性幼竜とあれど手を焼くでしょうからねぇ。それに計画前に高位の冒険者たちをできるだけ一か所に集めることもできますしぃ」


 なるほど。“あれ”はたしか計画のダメ押しで王都の“あれ”と並行して行うことでさらなる混乱を起こすためのものだったはずだが、…そもそもあの女を手元に連れてこないことには始まらないからな。

 それでいいだろう。


「わかったそれでいこう」

「決まりですねぇ」

「いつ頃にするつもりだ?」

「てきるだけ早いほうがいいですよぉ。それに女のほうはあなたに任せますから頼みましたよぉ?」

「わかっている」

「それでは、準備が整い次第またきますぅ」

 

 そう言って男は消えた。

 「できるだけ早く」……か。


「クク……クハハハハハッ!!!」


 もうすぐだ……!もう目の前に……!!!


 ならばこちらも全力でやるとしようーー





 ーーあの男……“悪魔”が引き起こす“魔物の侵攻スタンピード”を!!

 

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