再会

「あ、きみは……」

「へっ……て、ああ。お久しぶりですね。無事合格してよかったです」

 今日、僕たちは初めて入った教室で再会した。


 ***


 それはさかのぼること約一か月半前のこと。

 その日はここにいる人全員が必死になって勉強してきたであろう、受験。僕もそのうちのひとりだ。それなのに、この日に限って体調が悪かった。

 ……今にも吐きそう。でもこんなところでダメにしたら、勉強した意味がなくなる。

 そう思って二教科のテストを終えた。テスト中は集中してなんとか吐き気を抑えていた。休憩時間に入ると、さっきまでやっていたテストの緊張が解けて一気に吐き気が襲ってきて急いで口元に手を当てる。今の僕はきっと真っ青な顔をしているだろう。

「あの、大丈夫ですか?」

 そんな僕に、自分の勉強を放って声をかけてくれたある女の子がいた。それがきみだ。

 口を開くと本当に危なくなりそうでなにも話せずにいると、「うなずくか、そのままかで答えてくださいね」と言って簡単な質問をしてくれる。あえて首を振るという選択肢を入れないでくれて助かった。

「頭は痛いですか?」

 この場合は「いいえ」の意味で動かずにいる。

「お腹は痛いですか?」

 これも同じく「いいえ」だ。

「吐き気がありますか?」

 これが「はい」の内容。首をゆっくり縦に下ろす。その反応に、持っていたポーチを探って、ある薬を取り出した。

「これ、吐き気止めです。念のために持ってきておいてよかった……」

 僕にそれを差し出してくれる。

「気休めにしかならないかもしれませんが、即効性はあるはずなので飲んでくださいね」

 そう言って自分の席に戻っていった。

 結局顔をちゃんと見れていないし、名前も知らない。彼女のことをなにも知らずに終わってしまった。唯一わかるのはその雰囲気。

 でもそれだけで十分だったようだ。それで僕はきみに話しかけることができたから。

 最悪な出会いだったかもしれない。格好悪いと思われたかもしれない。

 だけど僕は、話しかけてくれたきみに、その優しさに恋をしていた。

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