先輩

 ──私はいま、先輩に抱きつかれている。

 一体何があったって?

 それは昼休みが始まる少し前のこと。


 ❀❀❀


「なあ梨帆りほ、この英語の問題なに?」

「えっとね、これは教科書に書いてある構文を真似して形を同じにできるように分解してみるとわかりやすくなると思うんだけど……」

「あ、この単語を原形に直したらいいってことか?」

「そうそう」

 私のクラスでは4時間目が英語だったため、隣の席にいる奏太かなたにチャイムがなるまでの間教えていた。

 この後はいつも通り由多ゆた先輩のところに行く。予定だった。

 それが出来なかったのは奏太のせいである。

 キーンコーンカーンコーン

 チャイムがなると同時に教室を出ようとする。

 なのに奏太に腕を掴まれて前に進めない。

「奏太、どうしたの? 由多先輩のところ行きたいんだけど」

「お前、なんで先輩のところ行っちゃったんだよ。……俺じゃダメだったのか?」

「え? ちょ、何言ってんの」

 これくらい、私にだって意味が分かる。

 それが本音かどうかだって、目を見れば嫌でもわかってしまった。

「ごめん、でも──」

「梨帆! 来ないから迎えに来た……って、そこの男子なにやってんの?」

 急に先輩が乗り込んできたと思ったら奏太に睨みをきかせて体を抱き寄せる。

「俺の彼女にてぇ出すなよ」

 そう言って、そのまま手を引かれるがままに教室をあとにした。

 そして冒頭のシーンへとたどり着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る