第14話 にィーぬっけたーっと♪

 「なるほど、最強の相手って訳か……」


 魅夜の前に現れたのは勇者一行。つまり一条ケイスケ達だった。


 「魅夜!!これはどういう事なの!?ほんとにシルフィーナ様を!?」

 「そんな訳ないだろ!俺は嵌められてるんだよ」

 「どうかな。お前は前から危険だったんだよ、暴力を振りかざして弱いものを痛ぶり悦楽に浸る」

 「誰がいつそんなことしました??」

 「みんな噂してたんだ。あいつは危険だって」

 「そんなウワサ聞いたことない!魅夜はいつだって弱いものの味方だった!」


 かりんがケイスケに反論しているものの、ケイスケは聞く耳を持っていなかった。


 「この件に関しては証拠もあるらしいじゃないか。それにもしシルフィーナ様を殺していないとなったらシルフィーナ様は何処にいる?」

 「それは……」


 かりんは痛いところをつかれ言葉が出なくなった。


 「ふぅん、じゃあ先輩はシルフィーナの死体を見たのか?」

 「死体?そんな物は見ていない」

 「生死すら確かめずに俺が殺したと?」

 「何度も言わせるな。死んでいないなら何処にいる?それこそが何よりの証拠だろ?」

 「……ふぅ。どうやら問答は――」

 「無用らしいな」


 ケイスケは腰に携えていた武器を取って構えた。魅夜も迎え撃つ体勢をとる。


 「武器は使わないのか?」

 「俺の武器はこの体なんでね」

 「ふん、吠えずらかかせてやる」


 ケイスケがそう言うと魅夜に向って走り出し斬りかかった。

 頭上から振り下ろされた剣を魅夜は左へ躱し、そのまま左手だけのバク転で距離をとる。

 ケイスケは振り下ろしたままの体勢で魅夜を追う。

 その時魅夜の後ろで炎の爆発が起こり、止まろうとしたが体勢を崩してしまった。

 そこにケイスケの剣が迫ってくる。

 魅夜はわざとそのまま体勢を崩して体を反り、剣を避けた。

 そしてそのまま左手を地につけ右足をケイスケのアゴ目がけて蹴りあげる。


 「拾漆式空閃脚!」

 「ッ!?」


 ケイスケは咄嗟に身を引き避けたが、魅夜が万全の状態であればあの一瞬を避けることはムリだっただろう。


 「チィッはずしたかー」


 先程の炎の爆発はケイスケの仲間の1人の魔法使いの仕業だった。


 「ちょっとやめてよ!」


 かりんが魔法を放った仲間の前に出る。


 「邪魔するな!あいつは王女殺しの悪魔だぞ!」

 「魅夜はそんなことしない!」

 「まだ言うか!」


 ケイスケの仲間たちの諍いを眺める余裕は魅夜にはなかったが、自分の事を信じてくれる人が1人でもいたことに嬉しくてたまらなかった。


 「いい加減観念したらどうだ?同郷のよしみだ、痛くないように1発であの世に送ってやるぞ」

 「先輩ずいぶん異世界に染まりましたね。まるで雑魚敵のセリフですよ」

 「なめた口聞くじゃないか。勇者に勝てると思ってるのか?」

 

 勇者の力は凄まじいらしい。それにもともと運動神経も抜群なもんだから鬼に金棒。


 「勇者の力、見せてやろう」


 ケイスケは剣を構えた。どうやら剣技を使うらしい。


 「破魔斬剣ッ!!」


 ケイスケが勢いよく剣を振り下ろすと光の刃が地面をえぐりながら魅夜目がけて襲いかかってきた。

 しかし魅夜は古武術の鍛錬を行ってきたことで、避けることは容易だった。

 だがケイスケはそれも想定内だった。魅夜が避けた瞬間を見切り、魅夜に迫っていった。


 「もらったッ!!」


 ガキィンッ


 刹那、剣のぶつかり合う音があたりに響いた。


 「かりん!」


 かりんはケイスケの剣を双剣で受け止めていた。


 「ふぅ……危ないじゃないか、危うく斬ってしまう所だったよ」

 「もうやめてください一条先輩」

 「やめる?何故だ。そいつは王女殺しだ」

 「何かの間違いに決まってます!」

 「やってないと言う証拠は?」

 「じゃあやったという証拠は!?」


 かりんは1歩も引かなかった。これだけ信じられるのは魅夜の事を昔から知っているかで、それは絆と呼べるものに相応しかった。


 「かりん、こいつには言っても無駄だ。勝負をつけよう」


 かりんは魅夜に向き直り怒鳴った。


 「何言ってんの!右腕もマトモに使えないくらいケガしてるくせに!」

 「なに?」


 かりんには全てお見通しのようだった。伊達に小さい頃からの付き合いではない。


 「ケガしててもあそこまで動けるとはな。ま、王女様を殺す時にでも負った傷だろう」

 「まだ言うの!?」


 最初から話し合いなどする気はお互いに無かったが、やはり平和的な解決は望めないようだ。


 「もういい!魅夜行こう!」

 「は?」

 「一条先輩!私このパーティ抜けます!私は魅夜について行く!」

 「おま何言って――」

 「魅夜は黙ってて!」

 「それがどういうことかわかってるのか?」

 「分かってますよ」

 「逆賊の仲間になると言うことはお前も逆賊になると言うことだ。俺はお前を殺さなければならなくなる」

 「どうぞご勝手に!」


 そう言うと魅夜の方へ歩いていった。


 「良いだろう、逆賊もろとも討ち取ってやる」

 「まぁ待ちなって」


 声をかけてきたのは姫川響だった。


 「姫川」

 「かりんが言うこと、一理あるから。確かにウチらシルフィーナの死体見てないし?誰が犯人なんて話人から聞いただけだし??」

 「こいつらの話を信じるのか!?」

 「信じる??違うかなー」

 「じゃあ一体……」

 「最初から何七瀬君が犯人だなんて思ってないってこと」

 「何ッ!?」

 「話を信じるって事は最初はそう思ってないって事でしょお?ウチ、ハナから他人から聞いた話なんて鵜呑みにしてないしーそれ以前にそんなことする人じゃないって思ってるしぃ?」

 「姫川さん……」

 「て事で、にィーぬっけたーっと♪」


 響は軽やかに魅夜のもとへやってきた。


 「揃いも揃って……後悔しても知らないぞ」

 「それとさぁ……あんたウチを口説こうとしてたけど、ウチ全然興味ないから。今後一切近寄らないで」

 「なななな何を言ってるんだ!?」


 ケイスケは激しく取り乱し始めた。まさに絵に書いたようにあたふたしている。


 「やっぱり姫川さんにも……」

 「ちちち違うんだ!」

 「違わないっての。バレてないと思ってたんでしょーがウチには丸わかりだからね」

 「何を根拠に…」

 「もうそんな事はどうでもいいよ、とにかくウチは七瀬君達と一緒に行くからバイバーイ♪」


 響はニッコリとして手を振り踵を返した。


 「さっ行こ行こ♪」


 響は魅夜とかりんを後ろから押し出す形でその場を離れていった。

 ケイスケはただその場にポカーンとしてたたずんでいた。

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