第13話 死んだらどうすんだコンチクショー!

 隠し通路を出るとそこは城から少し離れた山の中の森だった。


 「こんな通路つくって何するつもりだよあの女」


 魅夜はレオーネを思い出していた。いくらガルドからの紹介とはいえ、ほんとに信用してよかったのだろうか、と。


 「今レオーネさんの事考えてたでしょ」


 ミオがすわった目をして睨んできた。


 「あぁ。よく分かったな」

 「レオーネさんセクシーだったもんねー」

 「何怒ってんだよ」

 「怒ってない!」


 ミオはぷいっと顔を背けて先にいるシルフィーナの元へ歩き出した。

 魅夜とテオもそれに続こうと歩き出す。

 だがすぐに魅夜は足を止めた。


 「どうしたの??」

 「別れるぞ」

 「えぇ!?結婚もまだしてないのに!?」

 「何言ってんだよ」

 「じゃあ別れるって??」

 「二手に別れるって話だ」

 「どうして??」

 

 魅夜はミオの問いに答えることなく、少し脇道へ歩いた。

 ミオ達もそれに続くと、


 「あれは……」


 とミオが声を上げた。

 魅夜達のいる所から遥か下に見えたのは、どうやら城の捜索隊の一部のようだった。つまり、魅夜達をさがしているという事。


 「多分他にも編隊がいるはずだ」

 「どどどどうするの!?」

 「そこで、さっき言った二手に別れる、だ。ミオ達は見つからないように下山してジルファード国へ向かえ」

 「魅夜は?」

 「俺はやつらを引き付ける」

 「簡単に逃げられる相手ではないですよ」


 シルフィーナも心配の声を上げる。


 「大丈夫。そう簡単に殺られたりはしない」

 「でも……」

 「すぐに後から行く。だから任せとけ!」

 「魅夜ぁ……」


 ミオは目から涙を零した。


 「ばッなんで泣くんだよ。別にちょっと離れるだけだろ」

 「……うん」


 なおもミオはぐすぐす泣いている。


 「テオ、ミオじゃ頼りないかもしれないけどよろしくな」

 「テオは大丈夫。ちゃんと魅夜のいう事聞いてミオ達とジルファードにいる」

 「よしよし、良い子だ」


 魅夜はテオの頭をなでなでしてやった。


 「くれぐれも無茶はしないでください。きっと、戻って来て」

 「おう!」


 シルフィーナとテオは泣きじゃくるミオを連れ、その場から離れていった。


 「…うしッ!!」


 魅夜は気合いを入れ、捜索隊がいる方へ進んで行った。




 「いたか!?」

 「いや、こっちにはいない!」

 「何処に隠れてやがる」

 

 兵士達は少数ではあったものの小隊はいくつもあるようで、規模としてはそれなりに多いようだった。

 ミオ達が向かった方角とは反対の場所に向かった魅夜は囮として兵士達を誘導するべく派手にやらかそうと考えた。

 それがシルフィーナを無事にジルファードへ逃がす唯一の手段だと思ったからだ。


 「そいつを捕獲すれば褒美が貰えるらしいぞ」

 「抵抗するなら殺してもいいそうだからな。日頃のストレスをたっぷり発散させてからなぶり殺しにしてやる」

 「そんな死に方はイヤだなぁ」

 「誰だ!!」


 兵士たちは声のした方に目をやった。


 「いたぞ!!こいつだ!!」

 「捕らえろ!!」


 兵士たちは魅夜を取り囲みにじり寄る。


 「ヤル気ならこっちも全力でやらせてもらうけど、いいよな?」


 魅夜は左拳にグッと力を込め前に突き出し、兵士たちを威嚇する。

 兵士たちは一瞬ひるんだものの、すぐにまた体勢を整えた。


 「やれ!相手は子供1人だ!」

 

 その合図を皮切りに兵士たちは一斉に襲いかかった。

 しかし魅夜はそれを難なく捌き、次々となぎ倒していく。


 「何やってる!!小僧1匹に手こずりおって!」

 「で、ですが思いのほかちょこまかと……」

 「もういい!法術部隊で殺る!」


 魅夜がある方に気づくと、そこにはローブを着た一団が現れた。それと同時に一団は魔法の詠唱を始める。


 「魔法か!!まずいな…」


 そう魅夜が言っている間に魅夜の足元に魔法陣が現れる。


 「しまッ――」


 魅夜は一瞬激しい光に包み込まれ、体が縛られたかのように動けなくなった。


 「なるほど、捕縛魔法かッ」

 「ふふん動けまい。よし連行するぞ」


 だがそんな魅夜の周りにバチバチとスパークが走り出した。


 「うおおおおおおぉぉぉッ!!」

 「あいつ!捕縛魔法を破る気か!?」

 「そんな!複数人で重ねがけした魔法を破る術などッ……」


 バシュンッ!!


 魅夜を縛っていた魔法が弾け、その効果は消え去った。


 「そんな……貴様ッどんな術を使った!?」

 「なんだ、魔法って案外大したことないんだな」

 「化け物かッ!?殺せ!!最大魔力でこいつを消せ!!」


 



 「はッ!?あの爆発は!?」


 ミオ達は遠くの場所で爆発音を聞いていた。


 「まさか魅夜に何かあったんじゃ!!」


 ミオは音のした方へ駆け出そうとするが、テオにスソを掴まれてしまった。


 「離してテオ!魅夜が殺されちゃう!」

 「魅夜は大丈夫だと言った。私たちはシルフィーナを安全な場所に送り届けるのが使命」


 テオが静かにミオを諭す。

 ミオも頭では分かっていても感情がついていがず、涙が溢れ出している。


 「ミオさんごめんなさい。私のせいで……」

 「いえ……シルフィーナ様のせいじゃ……」

 「ミオさんはとても魅夜さんの事とてもお好きなのですね」

 「ふぇ!?そんなんじゃ……ただ以前私を守ってくれた事があって……その恩返しがしたいんです。体を張ってでも……」


 ミオは2度守ってくれたことを思い出した。1度は大男から、2度目は一条ケイスケから。

 魅夜にとってはただ流れや勢いだったとしても、ミオにとっては大きなことだった。


 「でも今は魅夜を信じるしかない。シルフィーナを連れて逃げるのが先。でないと魅夜の頑張りが無駄になる」

 「……そうね、わかった。魅夜を信じる!!」

 「えぇ、ジルファードで盛大に迎えてあげましょう!」


 ミオ達は爆発音を背にして歩き始めた。


 (絶対追いかけてきてね!魅夜!)





 「マジで死ぬって!!今更ながらほんとに異世界にいるんだな!!!」


 魅夜は法術部隊の発する炎の魔法攻撃を走りながら避け続けていた。


 「やっとのファンタジー体験でお陀仏なんてシャレにならないって!」


 あたりは炎の爆発でほぼ焼け野原になっていた。


 「法術やめ!!ふん、これでやつも死んだだろう。砂煙が収まり次第死体を探す!最も、消し炭になってるだろうがな」


 瞬間、煙の中から魅夜が飛び出し横一列で並んでいた法術部隊の1人を蹴り飛ばした。


 「まだ生きてたか!!しぶといやつめ!!」

 「あの爆発の中を逃げ切るなんて……」


 法術部隊に動揺が走った。魅夜はその隙を見逃さず、次々と蹴散らした。


 「死んだらどーすんだコンチクショー!!」

 「ぐッ…化け物め……」

 「それじゃあ俺がやりましょう」


 魅夜に恐れをなしている一団の後ろから数人の人間が現れた。それは今までとは段違いの強敵の相手のようだった。

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