第12話 趣味よ

 ゴーレムからなんとか逃げ延び王都へついた魅夜達。

 そこで待ち受けていたのは戦争の準備を始めていたグラムナレム兵士達でざわめきたっていた。


 「やはりこうなりましたか。すぐにお父様に会わないと!」


 シルフィーナはそのまま城に戻って行った。





 「でかい戦争になりそうだな。でもそんなことしてたら魔王に好機を与えちゃうんじゃないのか??」

 「潰しあってたら恰好の餌食だもんね」


 そんな話をしていると、そばを通りかかった兵士達の話し声が聞こえてきた。


 「明日朝には出発だとよ。無理もない、大事な第3王女が殺されたんだからな」


 魅夜はピタッと足を止めた。


 (第3王女が、殺された?シルフィーナが?いつ?どこで?さっき別れたばっかだぞ)


 「魅夜これってどういうことなの?シルフィーナ様さっき別れたばっかだよ?」

 「しーっこのまま話を聞くんだ」


 魅夜はヒソヒソ声でミオに言い、兵士達の話に聞き耳をたてる。


 「大会の打ち合わせに行った帰りを狙われたんだろ?」

 「あぁ。犯人は勇者と知り合いの魅夜ってやつらしいぞ」

 「あぁ聞いた聞いた。なんでもジルファード国と手を組んでグラムナレムを滅ぼそうとしてるって言うじゃないか」

 「なんだってそんな事を……」

 「巨額の報酬を貰ってるってウワサだ」

 「とんでもないやつだな」

 「勇者達が逆賊討伐に乗り出したらしいぞ」

 「そして俺たちは裏切り国のジルファード国を成敗すると」


 近くで聞いていたミオは反論する為に兵士達へ向かっていこうとしていたが、魅夜はそれを腕を掴んで止めていた。


 「なんで止めるの!?あんな事言われてるんだよ!!」

 「今飛び出していったら大事になる、ここで揉め事を起こすのは得策じゃない」

 「でも!!」

 「今はそれよりもシルフィーナのほうが心配」


 テオがボソッと言った。


 「そうだ。まずはシルフィーナの安否を確認する」

 「でも!殺されたって!!」

 「いや、おそらく死んではいない。シルフィーナの侍女がいただろう?あいつは結構できる。そいつがどうにかしているか、仮に城にいるとしたらどこかに幽閉されている可能性もある」

 「でも……」

 「とにかく、どっちにしても確認は必要だ」


 魅夜達は兵士達から隠れるように離れ、一旦ガルドの店に行くことにした。




 「兄ちゃん、大変なことになってるぜ」

 「あぁ、知ってる」

 「安心しな、俺はお前がそんな事をやるような奴とは思ってねぇ」

 「ありがとう。そこでおっさんに頼みがあるんだ」

 「頼み?」

 「城の中に潜り込みたい」

 「兄ちゃん本気か?今やあんたは天下のお尋ね者だ。みつかったら串刺しだぜ?」

 「シルフィーナを助ける」

 「生きてるのか?」

 「わからない。だがどこかに生きていると思う」

 「で城の中ってことか」


 ガルドは人差し指と親指で顎を撫でた。


 「……出来ないこともない」

 「ほんとか!?」


 ガタガタッ


 ガルドの店の扉が鳴った。


 「ガルド!いるか?ここを開けてくれ」

 「兵士達だ、扉を閉めてて良かったな。さ、お前たちは奥に隠れてろ」


 魅夜達はそそくさと奥へ隠れた。

 隠れたの見計らってガルドがドアを開ける。


 「すまんな、ちょっと邪魔するぞ」

 「おやおや、第3部隊の副隊長様が直々に何の御用で??」

 「先のウワサは知っていよう。勇者の知り合いとされる魅夜と言うお尋ね者を」

 「あぁ耳に入ってる」

 「何処にいるか知らないか?見たり聞いたり、少しの情報だけでも良い」

 「知らねぇなぁ。最近忙しくて外にもあまり出れてねぇから見たって話も聞かないな」

 「……そうか。邪魔してすまなかった」

 「良いってことよ」


 そう言うと副隊長は出ていった。

 奥から魅夜達がそろそろと出てくる。


 「手配が早いようだ。王女様を助けた所で逃げ切れるかどうか……」

 「逃げ切ってやるさ。あーもう、なんでこんな事になるかねー!!」


 と魅夜は心の底から嘆いた。




 「ガルドさんお疲れ様です」

 「お疲れ!頼まれてたブロンズソード100本納品にきたぜ」

 「おぉありがとうございます!さぁお通りください」



 ――良いか、作戦はこうだ。俺は少し前から騎士団の頼みでブロンズソード100本を注文されてる。その荷物にお前らを紛れ込ませる――

 ――なるほど、顔の効くおっさんと納品依頼の条件があっての作戦だな――

 


 門番はガルドと荷物を中に通し、再び門を閉めた。

 そのまま数人の兵士達を通り過ぎ、納品の手続きを済ますと、ガルドは荷物を持って武器庫へと足を運んだ。

 周りの様子を伺い、大丈夫だと確信すると荷物の木箱に囁きかけた。


 「兄ちゃん、大丈夫だ誰もいねぇ」


 すると木箱はパカっと開き、魅夜達3人が出できた。


 「もう!魅夜ったら胸ばっかり触って!!」

 「仕方ないだろ!3人なんて入らないんだよッ」

 「そうじゃなくてッもっと他にも触ってよ!」

 「お前何言ってんだよ」

 「テオもさわ――」

 「お前もそれ以上いうな」

 「どうでもいいがそんな事してていいのか?」

 「おっとそうだ!早く探しに行かないと!」


 ガルドの言葉で我に返った3人はすぐに行動を開始した。




 「でも何処にいるのかな?」

 

 テオの疑問も当然だ。このバカでかい城を片っ端から探すのはどう考えても効率が悪い。かと言って当てずっぽうで探すのもまた無理な話。


 「こういうのはな、地下牢って決まってんだよ」

 「地下牢?そんな所にいるかな??」

 「RPGなんかじゃお約束だ!」

 「あーるぴ??」

 「とにかく地下牢への階段探すぞ!」



 城の中は驚くほど手薄だった。やはり魅夜討伐の為に、軍を割いてのことだろう。さらにはジルファード国征伐にも乗り出しているため、城内は必要最低限の警備しかいないようだった。


 (好都合だ。すぐに見つけて逃げ出す!)


 地下への階段はたくさんありいくつもハズレを引いたが、地下牢までなんとかたどり着いた。


 「ほんとにいるの??」

 「んー……自信なくなってきた」


 地下牢もなかなか広く、シルフィーナがそこにいるのか気配を感じるのも難しかったが、


 「魅夜、ここにいたの」


 とテオがいる方に向かうと、そこにシルフィーナがうずくまって座っていた。


 「シルフィーナ!」

 「魅夜さん!どうしてここに!?」

 「街でウワサを聞いたんだ。シルフィーナが殺されたって」

 「そうでしたか……」

 「なんだってこんな事に??」

 「わかりません。城へ着き、王に謁見した途端兵士にかこまれここに連れてこられたんです」


 (だとしたらこの件に王が深く関わっていることになるな。確実に陰謀じゃねーか)


 「どうしたの??」


 ミオが問いかけるが魅夜は答えなかった。


 「とにかくここから出よう!話はそれからだ!」

 「でもこの牢はとても硬く、魔法を封じる結界も張られています。脱出はムリ――」

 「ぬおーっ!!」


 魅夜は気を左腕の筋肉に集中させ練り上げると、鉄格子をぐにゃっと曲げ人が通り抜ける隙間を作った。

 右腕は応急処置はしていたものの、傷が治った訳ではないので左手だけでガムシャラに力を込めたのだった。


 「凄いの」


 流石のテオもこれには驚くばかりだった。


 「さぁ早く!」

 「…え、えぇ」


 シルフィーナも呆気にとられていたが、すぐに我に返り牢を出た。




 ――もし運良く王女様を連れ出せたら、地下牢へ続く階段の向いにある扉を入って通路を右に行き研究室へ向かえ。そこにいる学者に話は通しておく。少し変わったやつだが良い奴だ。きっと力になってくれる――



 「ここか」


 ガルドに言われた通りに道を進むと研究室と書かれた札のある扉に行き着いた。

 扉を開けるとその中は沢山の書物や実験器具等が置いてあった。


 「あら、結構早かったのね」


 現れたのは白衣に身を包んだ豊満ボディのセクシーな女性だった。


 「ガルドから話は聞いてるわ。ガルドが人の世話を焼くなんてどんな人かと思ったら、ふぅん」

 「ガルドがここに来いって。助けてくれるのか?」

 「いけすかない子ならお断りよ」

 「…ッ」

 「そんな……」

 「……分かった。行こう、別の道を探そう」

 

 魅夜達は踵を返し立ち去ろうとする。


 「私は『いけすかない子なら』と言ったはずだけど?」

 「え?」

 「こんな美味しそうな男捨て置く訳ないでしょ?」


 セクシーな女性は魅夜の目の前に来て顔を近づけた。もう少しでキスでもしてしまいそうな距離だ。

 それを見たミオは驚き戸惑い、口をパクパクしていた。


 「…そ、それじゃ助けてくれるのか?」

 「そうね、助けてあげましょう。ガルドが気に入るほどの男だもの。興味があるわ」

 「ありがとう!」

 「じゃ、こっちに来なさい。隠し通路があるわ」


 そう言うと沢山の書物が置いてある本棚を操作した女性。本棚はガガガッと小さな音を立てて右に動くと、通路が現れた。


 「…な、なんだってそんなもの……」

 「趣味よ」

 「しゅ…趣味……」


 ミオは呆気にとられていたがすぐに我に返り、テオとともに通路に入る。

 魅夜もそれに続こうとするが1度振り返った。


 「名前は?」

 「あたし??レオーネ。レオーネ・クラシオン」

 「ありがとう!レオーネ!」


 そう言うと魅夜は通路を走って行った。


 「可愛い子ね。食べてしまおうかしら」


 レオーネは久々の胸の高鳴りにワクワクしていた。


 

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