第11話 召喚魔法具!!
シルフィーナの大会打ち合わわせは何事もなく終わり、帰路に着くことになった。
帰る準備が整った頃、1人の黒ずくめの人物がシルフィーナの元にやってきた。
「ご報告があります」
「どうしたの?」
「ジルファード国から贈り物を持ち帰るはずだった兵士達が死体で発見されました。生き残ったものはおらず、贈られたはずの荷物も見当たりませんでした」
「ッ!?」
兵士達はジルファード国を出て少ししたの林の奥所で発見された。馬車は壊れ、荷物は散乱していたらしい。
「また賊か??荷物を狙ったということか」
「それが――」
「それじゃぁ……」
死体で見つかったグラムナレム兵士達や壊れた荷馬車の付近から犯人の証拠が見つかった。
それは決定的なもので、疑う余地はないようだった。
「そんな所からジルファード国の紋章が刻まれた剣なんて見つかる訳ないもんね」
「これが知れると、両国の関係が悪化するだろうな」
「すでに王は知った様です。大変ご立腹されていらっしゃいました」
「まずいな」
「…何がまずいの??」
テオが魅夜を見上げながら聞いた。
「戦争が起こる可能性があるんだよ」
「同盟国なのにそんな不義理があっては、同盟を反故にされたのと同じですからね、急ぎ城へ戻り状況を判断しないといけませんね」
シルフィーナ達は急いで戻ろうと移動を開始した。
しかし道中を半分まで来たところで案の定、それは現れた。
それも賊と呼ぶには人数が多く、賊というよりは一小隊という感じだった。
「おいでなすった!ミオ!テオとシルフィーナを!」
「任せて!!」
次々襲いかかってくる賊を相手にグラムナレム兵士達は1人、また1人と倒れていく。
「しゃらああぁぁ!!」
「なんだこいつはッ!?」
魅夜は賊を蹴散らしてはいるものの、その多さに疲れを見せていた。
いくら武術をやっているとは言ってもまだ高校生である魅夜。大人の、しかも相当に訓練されているであろう相手にむしろ良く善戦していた。
「魅夜!!」
「くたばれっ!」
「しまッ――」
疲れの一瞬の隙をつかれ、後ろから襲いかかってくる敵の一撃を受けてしまった。
「魅夜!?」
「大丈夫!ちょっとかすっただけだ!」
そう言う魅夜の右腕からは血がポタポタと流れ落ちていた。
その周りを賊達が取り囲む。
その時――。
「バイオレットエアリアル!!」
ヒュンヒュンッシュゴーッ!!
激しい風が魅夜の周りを吹き荒れ、周りにいた賊達を切り飛ばした。
「シルフィーナ様!!」
ミオが見ている方を見てみると、そこにはシルフィーナが右手を前に向け立っていた。
「私もこれくらいは出来ますよ自分の身は自分で守れます。ミオさん、魅夜さんを」
「はい!」
「テオもいくの」
ミオとテオが魅夜の元へ駆けつける。
「魅夜をこれ以上傷つけさせない!さぁかかってこーい!!」
ミオは背中に持っていた大槌を両手で構え、頭上で振り回して威嚇した。
「ぐっ…こんなの聞いてないぞ!!」
「やれ!相手は女1人と手負いのガキだ!!」
また一斉に襲いかかってくる。魅夜はなんとかかわしつつ蹴りで応戦するがうまく力を込めることが出来ず防戦一方。
ミオは大きなハンマーが災いし隙が多く牽制するのが精一杯だった。
「くっそーやっぱ魔法使えないのは痛いぞ……」
「多人数相手だと、捌ききれない!」
「なにかスキルはないの??」
魅夜のそばにいたテオがそんな事を口にした。
「スキル??」
「そう、例えばテオでいえば【竜変化】みたいな」
「そんなのあるのか!?」
「し、知らなかったの??」
唐突なシステム(?)の登場に魅夜は困惑した。
「それどうやって分かるの?」
「鑑定屋にいけば分かると思うけど」
「あの婆さんか、そう言えばなんか言ってた気が…」
その会話の最中も襲いかかってくる賊をなんとか躱してはいたが、流石の体力ももう限界になってきた。
「ちっしぶといやつらめ!!あれを使うぞ」
そう言って1人が取り出した巻物の様なもの。賊がそれを開くと、頭上に魔法陣が現れ眩い光を放った。
「なん…だ、あれ!?」
その魔法陣から手が突き出してきた。
「召喚魔法具!!」
「召喚魔法具!?」
「通常は契約してしか召喚出来ない精霊やモンスターなんかを、契約なしで強引に召喚する希少な使い捨て魔法具です!」
その召喚魔法具から上半身が現れ、ついに体全体が出現し着地した。
「ゴーレム!!」
「ゴーレム?これが…」
出できたのは全身が石でできたゴーレムだった。その体は巨体で、3mはあろうかというほどだった。
そしてそのゴーレムはけたたましい叫び声をあげながら襲いかかってきた。気がつけば周りにいた賊の姿は消えていた。
「グゴオオオオッ!」
手負いながら躱した魅夜の背後でゴーレムの拳が地面を割る。
「おっかねー!!どんなパワーだよ!」
「ゴーレムのパワーはとてつもなく大きいですが、動きはそんなに早くないです!」
シルフィーナの言った通り、動きは早くないので手負いの魅夜でもなんなくかわすことは容易かったのだが、
「うぉーりゃッ!」
右腕の怪我で力が込めにくいという不利はあるものの、それを差し引いてもとてもダメージを与えているという感じは見られなかった。
「くっそー薬草くらい買っとくんだったーッ一体どうすれば――」
「私に任せて!」
ミオはゴーレムの頭に向かって飛び上がり、その大槌を振り下ろす。
ガキーンッ
しかしすこしも砕けることなくゴーレムは頭をぽりぽりとかいているだけだった。
「困りましたね、私の風魔法もゴーレムには……」
「どうすれば……。ん?確かにオヤジが…」
――魅夜、七瀬流の型を知っているか?――
――型?――
――武術とは流派ごとにその真髄がある。相手の力を受け流すことに重きを置いた合気道、足技を巧みに繰り出すテコンドー。さらには剣術のみを追求する剣道に琉球で発祥した空手など様々だ――
――ふあぁ……、なにが言いたいんだよ?――
――七瀬流はどこからどう発祥したかは今では分からなくなってしまったが、その真髄は明確だ。敵を【破壊】すること、文字通りな。気を極め、あらゆる物質を内外から破壊する、それが七瀬流だ。どんなに硬い石ですら破壊することは可能だ。おい、聞いてるのか??寝るんじゃない!!――
「なんとかって言ってたっけ。あーちゃんと聞いとくんだったー!!」
そうしているとゴーレムはまたも拳を振り上げ、パンチを繰り出してきた。魅夜はそれをかわしながら懸命に父の言葉を思い出そうとしていた。
「確か、練り上げた気を掌に込め打撃で身体にダメージを与えながら気を送り込み内部破裂を起こさせる浸透勁の一種があるって…」
「しんと……??なにそれ??」
「とにかく、倒すにはこの技しか今のところ思いつかないってことだ!」
魅夜は残った左手に気を集中させる。
「技の型が分かんないけど、多分こんな感じか!!?」
ゴーレムの懐に潜り込み、右足で踏み込む。気を練った左手を掌底の形にし、一気にゴーレムの右足目掛けて技を繰り出す。
「肆拾参オレ式!双掌撃片手ver.!!」
凄まじい音が
ズゴオオオォォォォンッ
と、辺りに鳴り響いて――という事にはならず、ゴーレムは微動だにすること無くその場に佇んでいた。
「……やっぱムリィィィーーーッ!!こんな何もかも未完成のままの技じゃ倒せない!」
「どどどどうするの!?」
「こうなりゃ決まってる!!ミオ!正面から思いっきり顔面ぶち当てろ!」
「え!?わ分かった!!」
ミオがまたゴーレムの顔までジャンプしハンマーをフルスイングする。
「そこだぁ!!」
ミオがゴーレムの顔にぶち当てるのとほぼ同時に魅夜が反対方向から足払いをかける。
ゴーレムはバランスを崩し倒れかける。
「いまだぁ!!逃げるぞ!!」
「えぇ!?逃げるのぉ!?」
「そうだよ!今のままの俺達には倒せない!!」
ゴーレムが倒れている隙にちちゃっと逃げる準備を済ませ、一斉に走り出す。
編隊や隊列のかけらもなく無様に走り出したその姿は王族兵の威厳もなにもなかったが、魅夜達はそんな事に気にかける暇もなくただただ王都へ向かって走るのみたった。
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