第10話 ころっせおって、何?
夜――。
魅夜は先程の侍女と宿屋の一室で対峙していた。
と言っても魅夜が一方的に、ではあるが。
「そんなに睨まないでください。ご迷惑は重々承知しております」
「なんで俺なんだ??昼間も言ったが重要事なら勇者の一条先輩が適任だろ?」
「これは私個人の考えですが……あの方はあまり好きではありません」
「でも勇者だろ??実力はあるんじゃないのか?」
「あまりシルフィーナ様に近づけたくありません」
「でしょうね。で?国の重要事って??」
魅夜は飲み物を一口で飲み干してから言った。
「多分、いいえきっと明日にはシルフィーナ様はまた、狙われるでしょう」
「え??どうしてなんですか??シルフィーナ様はもう城の中で安全なのでは??」
ミオが横から口を挟んだ。
「シルフィーナ様は命を狙われています。勢力は不明。すでに3回事件が起きています」
「なんだってそんな?自国にいれば、しかも城にいれば警備は堅固じゃないのか?」
「シルフィーナ様は外交等を任されています。それに1度目の事件は近隣の村に赴き祭事を、行った帰りでした」
「私の村で行った時ですね!精霊様にご挨拶したんですよねー」
ミオが前のめりになり侍女に向かって言った。
「ご挨拶??」
「グラムナレム国の王族は18になると精霊様に加護を頂くために儀式を行う事が決まりなの。最近ではもう行わなくなったけど、王様がやはりやるべきだって言ったんだって」
「へー」
侍女は黙って聞いていたが、また口を開いた。
「2度目はソマレスタ国との同盟の決議の時」
「そんなに同盟をふやしているのか??ジルファード国と言い…」
魅夜は首を傾げた。
「それは、魔王復活があったからです」
「魔王??」
「そうです。勇者様の召喚と関係あるかと」
「なるほどなー、魔王が復活して対抗する為の兵力増強と近隣の結束が必要な訳か」
「その通りです。いかに勇者といえど全てを守る事はできない。近隣の国で互いに結び付きが必要なのです」
「そして、三度目が…」
「ご存知の通りです」
「偶然とは思えないですね」
ミオも事の重大さを噛み締めているようだ。
「そして明日、大会の段取りなどの確認の為またお出掛けになられる」
「そこを狙われる、と」
「はい」
「じゃあ助けてあげないと!」
ミオが立ち上がって拳を握った。
「それともう1つ、ジルファード国から贈り物を持ち帰ろうとしていた兵士たちがいまだ戻りません。ジルファード国は出たということらしいのですが……」
「シルフィーナを狙った連中の仲間だろう」
「おそらくは」
「……はぁ。面倒ごとはごめんなんだけどなー……」
「もちろんタダで、とは申しません」
「報酬でもくれるのか??」
「報酬よりいいものかも知れませんよ」
「????」
そう言って侍女はニコリと笑った。
翌朝――。
シルフィーナは馬車に乗り大会の場であるバトルコロシアムに向かっていた。魅夜達は護衛の兵達と一緒に来ていたが、特例と言うことでシルフィーナの場所の近くにいることを許された。
シルフィーナの計らいと言うことで、兵士たちは文句を言いながらもそれを表立って言うものはいなかった。
「ありがとうございます」
馬車の中からシルフィーナの声が聞こえた。
「別に良いよ、どーせやることなんてないし」
「もう、そんな風に言ったらダメじゃん」
「……お前かりんみたいな事言うなよ…」
「かりんさんって城の近くであった子でしょ??」
「そうだよ、何かにつけて小言ゆってくるんだから……」
「仲良しなんだね!」
「やめてくれよ、あんな姑みたいなやつ」
「どっちかってゆーとお嫁さんじゃない?」
「それこそやめてくれー俺はもっと清楚で上品なのが好きなんだ」
「私、とかですか?」
再度馬車から声が聞こえてきた。確かにシルフィーナは清楚で上品。それでいて王族だって言うんだから文句のつけ所はないだろう。
「そうだな、どっかにいないかなー」
「ここにいるじゃーん!」
「誰が清楚で上品だッ」
「ひどッ」
ミオにツッコミを入れるとお決まりのリアクションで帰ってきた
「テオは??」
「テオは……もう少し大きくならないと分からないなー」
「…ひどッ」
テオもこのリアクションがお気に入りになったらしく、ミオの後には必ずと言っていいほどやってきた。
それから数時間すると、大きな建物が見えてきた。グラムナレムとジルファードそしてソマレスタの真ん中辺りに位置するそれは、魅夜達の世界で言うコロッセオのような作りで円柱型の建物であり、膨大な量の観客が観戦できるほどでかかった。
「こりゃすげーなー」
これほど大きな建物を城以外で見るのは初めてだった魅夜は驚かずにはいられなかった。
「コロッセオじゃないか!!海外旅行してる気分だぜ!」
「ころっせおって何??」
「そういや知らないか、俺たちの世界にも同じような建物があって、コロッセオって言うんだ。昔の人達がそこで武芸を競い合った場所だ」
「へー、魅夜の世界もそういうのがあるんだ!魅夜ってば強いもんね」
「でも別に戦争なんかがある訳じゃないよ。俺のいた国は他の国よりも平和なんだ」
「…でも魅夜強い」
テオも魅夜の袖を掴んで話してきた。
「確かに争いや戦争はあるけど、俺の世界では武術の強さを競うスポーツってのがあって、戦いの中にもしっかりルールがあるんだ」
「どんな??」
「3回地面に倒れたら負けとか、相手に一発しっかり入ったら1本でそれを三本取れば勝ち、とかな」
「それは平和なルールですね、ここでは降参するか気を失うかで終わりますから」
シルフィーナが後ろから歩いてきた。
「こういう世界だからな、そうなんじゃないかとは思ってたよ」
「もしよかったら参加しませんか?大会に」
「俺が??」
「いいじゃん出てみたら!!」
「魅夜なら優勝できるかも」
「おもしろそうじゃん!」
魅夜は大会参加を決め、拳を天に突き上げた。
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