第9話 私がお招きしたのです

 王都に戻った魅夜達は勇者たち一行の噂を耳にした。

 ギルドの依頼をいくつかこなし、王都は勇者の話でもちきり。すでに中級クエストまでこなせるようになっているという。



 「魅夜さーん!早く早くぅ!!置いてっちゃうよー!!」

 「そんな急がなくたっていいだろ」


 シルフィーナと出会った時の友好関係の話の後にミオはこんな事を言い出した。


 「そろそろ、私達も距離を近づけた方が良いと思うんです!!」

 「何突然??」

 

 ミオは魅夜の前を歩きながら振り返り後ろ向きに歩き出した。


 「友好を深めるんです!私達も!」

 「……なんで??」

 「一緒に冒険する仲間じゃないですか!」

 「勝手についてきただけだろ??」

 「細かいことは気にしないで、これからは敬語は使わないようにしましょう!」

 「俺は使ってないぞ?」

 「はッ!?言われてみればッ!ブベッ!?」


 その時ミオは石につまずき転んでしまった。


 そんなやり取りがあり、ミオは敬語を使うのをやめた。

 それがよほど嬉しいのか、あのはしゃぎようだったのだ。


 「…ミオはまだまだ子供」

 「お前も子供だろ?」

 「……魅夜達よりはお姉さん」


 テオはほっぺをぷくーっと膨らませて言った。



 魅夜達は城に行く途中だった。その時後ろから声を掛けられた。


 「魅夜!!」


 魅夜を呼び止めたのはかりんだった。


 「おーかりんか、どうした??」

 「それはこっちのセリフよ!どうしてここに??」

 「城に行く途中だよ」

 「そうなの??私達もなの」


 かりんの後ろから歩いて来たのは一条先輩達勇者一行。


 「あれー??七瀬君もこっちの世界きたのー??」


 話しかけてきたのは魅夜の同級生でギャル感たっぷりの【姫川響】。全く絡んだことがないが、響は可愛くて明るくヒエラルキーのトップだと思われる。

 嘘か真か、かなり遊んでいるとの噂もあり、魅夜には苦手な印象があった。


 「あははーウケるー☆」

 「てか、なんで俺の名前…?」

 「えー??なにがぁ??」

 「だって話したこともないし、そもそも同じクラスでもないし」

 「何言ってんのー??七瀬君有名人だよ??ケンカばっかしてるって」

 「そうなんだ?」

 「でもそこが良いって人多くてさー、結構人気あるんだよ??」


 響は腰から横に傾き魅夜の顔を覗き込んだ。


 「そう」

 「あれれ?嬉しくない?」

 「興味無い」

 「ふーん……硬派なんだ??」

 「そんなんじゃない」

 「女の子2人も連れてるくせに??」

 「こっこれは――ッ」

 「あはははー動揺してるー☆」

 「ちがッ」


 すると突然響は魅夜に顔を近づけた。


 「ウチも気に入ってんだけどなぁ??」

 「――ッ!?」


 そこから一瞬の間があり、


 「あははーなんつって☆」


 と言って舌をぺろっと出した後城の方に向かっていった。

 その様子を横でかりんがじとーっと見ていた。

 

 それから一条ケイスケが現れた。ケイスケは重厚な鎧を身につけ、立派そうな剣を腰に身につけていた。


 「七瀬か。まだそんな装備してるのか」


 ケイスケは見下した目をして魅夜を見た。


 「化け物は退治できたのかい?」

 「できましたよ」

 「ふぅん。弱かったんだな」

 「そうですね」

 「じゃあ俺は城に招かれているから、お前はせいぜい頑張るんだな」


 そう言ってケイスケは城の方に歩き出した。


 「ウワサは本当だったってことか」

 「なにが??」

 「一条先輩はスポーツ万能成績優秀で顔も良いが、その裏は軽薄でナンパ、性格は最悪ときてる」

 「そんな事言わないの」


 かりんが横から口を挟んでくる。ケイスケまだ本性を現してないらしい。


 「テオ、弱くないもん……あの人キライ」

 「分かってるって。テキトーに相槌しただけだよ」


 テオはまたほっぺをぷくーっと膨らませた。


 「その子は??」

 「あぁ迷子だよ。懐かれちゃってさ」

 「ふぅん。ミオさん…だっけ?あの人とはどーゆー関係なの??」


 かりんはどこか棘のある言い方をわざとした。


 「勝手についてきたんだよ、テオの子守り役さ」

 「ふぅん…まぁ別に良いけど。じゃあ私はいくね!またね!」


 そう言ってかりんは走って行った。




 城につくと城門の前にいた兵士が快く門を開けてくれた。

 しっかりと話が通っているらしい。

 中はかなり豪華な装飾で飾られ、部屋もどれだけあるかわからないほどであった。


 王の間まで通されるとそこにはケイスケ達一行が王に謁見している所だった。


 「七瀬、どうしてここに?ここは許されたものしか立ち入りは許されないんだぞ」


 ケイスケが歩きながら近づいてくる。


 「私がお招きしたのです」


 ケイスケは声のするほうを見た。そこにいたのは先程の王女、シルフィーナだった。


 「シルフィーナ、大丈夫なのか?休んでいなさいと言っただろう」

 「もう大丈夫ですから、お父様」

 「話は聞いているぞ、その者がお前を救ったと言う者か??」

 「そうです、魅夜様とおっしゃいます」


 グラムナレム王はじっと魅夜を見つめる。


 「その方、シルフィーナを助けてくれたらしいな?」

 「一応そういう形になります」

 「襲ってきた賊は、ジルファード国の兵士だと言うが」

 「ただの勘です。状況判断でしかありません」

 「そうであれば許し難いことだ」

 「そうですね。俺はまだ来たのばっかりですからホントかどうかは分かりません」

 「三つ頭の竜を倒したそうだな??」

 「九つ頭の竜でしたよ」


 周りの兵士達がどよめいた。それもそのはず、一部例外はあるものの首が多ければ多いほど強くなるという話があるのだから。


 だが横で聞いていたケイスケ達は来てからまだ日も浅く、その話を知らなかったのでリアクションは薄かった。


 それから王と魅夜のやりとりが淡々と続いた。だがそのやりとりの中に、魅夜は何かしらの違和感を覚えた。それが何なのかは分からなかったが。


 王との謁見を終え、王の間を後にした魅夜。廊下を歩いていると1人の侍女が前から歩いてきた。そしてすれ違いざまに話しかけてきた。


 「七瀬魅夜様とお見受け致します」

 「そうだけど??」

 「あなたに折り入ってお話があります。今日の夜、お時間を頂戴できませんか??」

 「断る。もう面倒ごとはごめんだ」

 「魅夜さん!そんな事言わないで聞いてあげようよ!」


 横からミオが割って入ってくる。テオは魅夜の袖をずっと掴んでいた。


 「この国の大切なお話です」

 「だったら俺より勇者の一条ケイスケのほうが良いんじゃないかな」

 「いえ、魅夜様だからこそです。これはシルフィーナ様からのお願いでもあります」

 「あの王女の??」

 「はい、後ほどお伺いします」


 そう言うとその侍女はゆっくりと去っていった。

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