第8話 グラムナレム国の第3王女

 翌朝――


 「勇者様にはなんとお礼をもうしてよいやら」

 「俺は勇者じゃないよ、お礼するような事も結局してないしな」

 「勇者とは弱き者を助ける者の事。魅夜様は立派な勇者様です」


 と昨日ドラゴン討伐の後からさらに感謝されっぱなしだった。


 「いいじゃないですか、助けてくれたのは事実ですし、素直に喜びましょうよ♪」

 「そうだな、褒められて悪い気はしないな」

 「勇者様、これは心ばかりのお礼です。是非受け取って下さい」


 長様はテニスボールくらいの布袋を差し出した。中にはお金が入っていた。


 「良いんですか??」

 「勿論です。お聞きしたところこちらの世界に来たばかりで先立つものが無いそうで。少なくて申し訳ないのてすが是非使ってください」


 魅夜はありがたく受け取っておくことにした。たとえ少しだとしても今の魅夜はほぼ文無し少しでも潤っておくにこしたことはない。


 「で、お前はなんでこっち側なんだ??」

 「え!?」

 「もう要は済んだんだろ?村の復旧手伝わなくていいのかよ?」


 ミオは長様と向かい合う形、魅夜の横に立っていた。


 「いーじゃないですかぁ私も連れてって下さいよぉ」


 と豊満な胸をぷるんぷるんさせながら言った。


 「だから言ったじゃろう、勇者様は迷惑しておるぞ」

 「そんな事ないもん!ねぇお願いしますよぉ♪私役に立ちますよ??」

 「どんな役にたつんだ??」

 「癒すことができます♪」

 「回復魔法か!ありがたい!!」

 「いえ、魔法は何も使えません」

 「………何を癒すって??」

 「心が癒せます♪」

 「いらん」

 「ひどっ!!」

 「……テオ、火はける」

 「今ははけんだろ」

 「……ひどッ」


 テオもミオのリアクションのマネをした。が、表情も何も変わらないのでただ真似をしたかっただけだろう。


 「はぁ……せっかく異世界来たんだから俺もファンタジーさせてくれ!!」


 魅夜の心からの叫びは虚しくあたりに響き渡るだけだった。





 王都へ戻る道中――


 ガラガラガラガラッ


魅夜達の後ろから馬車の音が聞こえてきた。振り向くと豪華な装飾のついた立派な馬車で(引いてるのはでっかい鳥なので鳥車かな?)、その外観からもかなりの要人である事が伺えた。

 魅夜達は隅に避け、通り過ぎるのを待ったが、


 ガラガラガッ


 「貴様!何のつもりだ!!」


 と突然手網を持った男が怒鳴りつけてきた。


 「はぁ!?こっちのセリフだ!!いきなりなんで怒鳴られなきゃなんないんだよッ」

 「この紋章を見て分からぬか!!」


 その馬車の装飾部分の至る所に【鳳凰】のような鳥の紋章が刻まれている。


 「それがなんなんだよ」

 「王都グラムナレムの第3王女、シルフィーナ様と知っての狼藉か!?」

 「あー!あそこの城の姫さんなのか!!」

 「分かったら早く頭をさげぬか!!」

 「何の騒ぎ??」


 馬車の中から女の子の声がした。手網を持った男は馬車から降り、扉の前に跪いた。


 「はっ申し訳ありません。旅のものが王女様に頭を下げないもので、叱咤しておりました」


 ガチャリ


 馬車の扉が開き、中から背中まで髪のある18ほどの女の子が姿を見せた。


 「王女様!この様な蛮族の輩に姿を見せる等いけませぬ!」

 「よい、お前は下がっていなさい」

 「しかし――ッ」

 「私がよいと言っているのです。下がりなさい」

 「…は、はい……」


 男はこちらを睨みながらその場から離れた。


 「無礼を許して欲しい。私は王族の1人であるが、このような時までも頭を下げさせるなどの習慣は廃止させるべきなのですが……。失礼、お名前はなんとおっしゃるのですか?」

 「あ、おれ魅夜。七瀬魅夜」

 「私はミオスタシアです!」

 「…テオはテオなの」

 「テオドラーナ、だろ」

 「申し遅れました、私はシルフィーナです。グラムナレム国の第3王女」


 王女は丁寧に挨拶をしてくれたが、馬車に乗った手網の男はいまだに睨みつけていた。無礼な輩が粗相をしないか見張っているのだろう。


 「その王女様がなんでこんな所に??」

 「隣国のジルファード国へ外交に行った帰りなのです」

 「それにしては警備が手薄じゃないか??王女様の護衛に手網引き合わせて…5人??」

 「ジルファード国が友好の証に贈り物をくれるそうで、20名は後から荷物を運んでくるの」

 「ふぅん」


 ガサガサッ


 微かに茂みの方から音がしたのを魅夜は見逃さなかった。

 その手の勘が鋭い魅夜は馬車と遭遇してから気を張り巡らせていた。これも修行の賜物だ。


 (1、2、3……10人はいるな…)


 「姫さん、とりあえず馬車に避難してた方がいい」

 「え?」

 

 シュバッ!!シュバッ!!


 四方から山賊のような格好をした輩が飛び出し馬車を取り囲んだ。


 「何者だ!?我らをグラムナレム国の王族と知っての狼藉か!?」

 「おっさん!!もうそれは良いって!!」


 そんな会話もつかの間、賊は有無を言わさず襲いかかってきた。


 「ミオ!テオを頼む!」


 言いながら1人のみぞおちに蹴りを食らわす。

 「はい!」

 

 ミオはテオを守るため、馬車を背にしてハンマーを構える。


 シルフィーナは馬車の中に匿われ、グラムナレム兵はそれを守るように馬車を護衛する。


 「なんだお前は!雇われた傭兵か!?」


 賊の1人が魅夜に話しかける。


 「そんなんじゃないけど見過ごせないだろ?」

 「悪いことは言わん、死にたくなかったら王女を渡せ」


 賊は剣を構え今にも襲い掛かりそうな体勢をとる。


 「何のために??」

 「お前は知る必要は無いッ!」


 再び襲いかかってきた賊をひらりとかわし、再び蹴りを放った。その蹴りは賊の背中にヒット。その賊は遠く50メートルほど吹っ飛んだ。

 そのまま次々に襲い来る賊を1人、また1人とのしていく。


 「クソッ引き上げだッ!!」


 そう言うと山賊達は動けない仲間を抱えて立ち去っていった。


 「ありがとうございました。勇敢なのですね」

 「降りかかった火の粉を払っただけだ」

 「貴様!またそんな口を!!」

 「いいのです。あなたは下がっていなさい」

 「……ッ。はい……」


 手網の男は恨めしそうな目をして戻って行った。


 「それにしてもこのような場所にも賊が出るなんて、しかも王族の馬車を襲ってくるなんて」

 「案外計画的な犯行かもしれないな」

 「……??それはどういう??」

 「これは俺の勘でしかないけど、さっきのやつら賊と言うよりはかなり訓練された兵士のような動きをしてた」

 「そうなのですか??」

 「この辺の地理や情勢なんかはしらないけど、状況から察するにまず間違いなく、ジルファード兵」

 「そんな、まさか!?」

 

 手網の男が驚きを見せた。


 「ジルファード国とは友好関係にありますよ?」


 シルフィーナが反論をする。それも当然のことで、グラムナレム国とジルファード国は最近同盟を結んでおり、今日も今度開催される武術大会での打ち合わせを兼ねて、合同主催者として交流を深めてきたところだという。


 「仮に……仮にシルフィーナが死ぬ事で得をするとしたら誰だ??」

 「難しい話ですかぁ??」


 ミオはさっぱり理解出来ないようで宙を眺めた。


 「他に考えられるのはグラムナレムの王族、例えばシルフィーナの兄弟姉妹だと継承権の争いとか?」

 「しかし私の継承権は第3位ですよ?」

 「そうだろうな。それこそ隣国はどうだ?」

 「シルフィーナ様がお亡くなりになられれば、グラムナレム国は大会どころではないだろう。大会の主催や優勝国になったら世界一の栄誉だ」

 「ジルファード国は1人で主催したいんじゃないのか??」

 「ジルファード国もとても裕福な国です。グラムナレム国なしでも主催は可能でしょう。それと、グラムナレム国は優勝候補の筆頭、過去の大会でも上位争いを常に独占していると言っても過言ではない」

 「ではそれが狙いで??」


 今の状況ではただの推測に過ぎないし、賊に関しても確かな確証はないため、動きようもなかった。


 「とにかく、助けていただいてありがとうございました。王都へ戻ったら是非城を尋ねてください、お礼をさせていただきたいです」

 「いや、いいよ別に。行きがかり上そうなっただけだし」

 「それでも助けていただいたのは事実。せめておもてなしをさせてください」

 

 魅夜達3人は顔を見合わせ、


 「それじゃお言葉に甘えて」


 と、ニッとして笑った。


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