第6話 お早いご到着で!!

 「と言ってはみたものの……」


 あれから一条先輩一行とは別れた。

 かりんは一条先輩とのパーティである為、魅夜についてくることはなかった。


 一条先輩のパーティは全部で9人。勇者である【一条ケイスケ】、魅夜より1年先輩でサッカー部エース。

 それから紫堂かりん。魅夜の幼なじみでここでの職業は双剣士。

 さらに魔術師、アサシン、ヒーラー等多彩なパーティ。


 「俺も仲間が欲しいなぁ……」

 「私がいるじゃないですか!!」


 ミオは顔を「>□<」にしながらぽかぽかと叩いてきた。


 「なんであんな事いったんですか!!せっかく勇者様に助けて頂くチャンスを!!」

 「あんな契約内容にするなんて知らなかったんだよ。それにあいつは女たらしで学校でも有名だったからな」

 「私覚悟を決めてたんです!それくらい村は切迫してるし勇者様だったら良いかなって……」


 ミオは思い詰めた顔をして顔を伏せた。


 「……で、その魔物ってどんなんなんだ?」

 「えーっとですね、顔が9つもあるドラゴンです」

 「ヤマタノオロチかよっ!神話級じゃねーか!!」

 「ドラゴンはですね、基本的に顔は1つなんですけど、稀に顔が複数ある場合があるんです。そして顔が多いほど強いんですよ」


 ミオは両手を腰に当て、ドヤ顔でいった。


 「それが9つも顔あんのかよ……九頭龍ってやつか………退治、やめよっかな」

 「何言ってるんですか!!勇者様はもう倒してくれないんですよ!!私は身体まで許したのに!責任取ってくださいっ!!」


 ミオが大声で言ったせいで、周りからヒソヒソと言う声が聞こえてきた。


 「わーったって!やるだけやるから、誤解を生むような発言はやめろっ」

 「分かればいいんです分かれば」

 「でもさぁ仮に一条先輩が受けたとして、まだまだレベルっつーか力量足りてないんじゃないのか??ドラゴンっつったら最強クラスの魔物だろ?」

 「そうですねぇ、本気になったら街の1つや2つ灰になるかもですねぇ」

 「…………。俺の人生短かったなぁ……」


 と魅夜は遠い目をした。


 「まだ負けると決まったわけじゃないですよ!!」

 「いやいや、どう考えても無理ゲーだろ。初期レベルで魔王と遭遇したようなもんだ」

 「魔王はもっと強いらしいですよ??ドラゴンくらい倒せなきゃやってらんないっすよ!!」


 と、訳の分からない口調で言い放った。

 一条先輩が勇者として召喚されたのであれば、多分目的は魔王討伐なのだろう。だとするとかなり強くなる事は分かる。そんな勇者ならドラゴンくらい軽い物なのだろうが。


 「とりあえずやってやらぁ!!」

 「その意気です!!」


 こうして魅夜はドラゴン討伐に向かうことになった。




 「ここが私の村です!」


 とミオが案内してくれた村は廃墟とまではいかないものの、家屋は所々崩れ、村人の一部は野宿を余儀なくされている状態であった。

 王都からはるばる5日かけてやって来たこの村は、もう村とも呼べるのかどうか分からないくらい荒廃していた。


 「ところでなんで、その九頭龍はこの村を襲ってくるんだ??見たところ何も無い村だと思うんだが」

 「失礼なっ!これでも由緒正しき精霊様を祀り祟った村ですから!!」

 「…祟ったらダメだろ」

 「とにかく!ここは精霊様のパワーがみなぎる場所。きっとそのドラゴンもそのパワーを得ようとしているのかもしれません」


 そんな話をしている所、1人の老人が近づいてきた。


 「ミオ」

 「あっ長様!!」

 「そのお方が伝説の勇者様かね?」

 「いえ、勇者様じゃないのですが…」

 「…ふむ、内にかなりの力を秘めておるようじゃが……」

 

 長様と呼ばれたその老人は魅夜の顔を見ながらそう言った。


 「わかるのですか!?実は危ないところを助けて頂いたのです!!」

 「そうじゃったか。して、魔物を退治してくれる勇者様は見つからなかったのか??」

 「その話なんですけど……」


 とミオは口ごもってしまった。


 「九頭龍のドラゴンだって聞いた。ミオにあんな契約させようとするなんて、どーゆーつもりなんだ!?」

 「……??ミオ、契約ってなんの話じゃ?」

 「………てへ♪」

 



 「……なるほどの、そんな契約内容で勇者様に頼むつもりじゃったのか」

 「勝手なことしてごめんなさい」

 「いいんじゃ、村を思ってのことじゃからな。じゃが、今後はそのような事はするでないぞ。村も大事じゃがミオの身だって大事なのじゃから」

 「分かりました」

 「それに勇者様ならば困ったわしらをきっと助けてくれる」

 「…あーその事なんだけど……」


 魅夜は一条先輩との一部始終を話した。


 「なんと……そうじゃったのか……」 

 「悪い、勢いとはいえ勇者になったやつの人格を知ってる身としちゃあ、ね」

 「良いんですじゃ、ミオの人生もとても大事ですから」

 「代わりといっちゃなんだけど、俺ができる限りの事はさせてもらうよ」

 「よいのですか??」


 長様の目が微かに輝いた。


 「乗りかかった船だ、どうにかするしかない!」

 「わぁ!頼もしい♪♪」


 ミオの目も輝いた。





 「さぁさぁ食べてください♪♪」


 その夜、村の中心にある広場ではドラゴンを討伐しに来た勇者をもてなすとして沢山の料理が並べられた。


 「俺勇者じゃないんだけど??」

 「そんな事いいんですよ、村の人達から見たらドラゴン討伐をしてくれるだけでそれはもう勇者なんです」

 「そんなもんか。この広場真っ直ぐ行くとなんかあるのか??なんかあっちだけ雰囲気が違うような??」

 「良く分かりましたね!あっちは精霊様を、祀った遺跡があるのです」


 ミオは遺跡の方を見ながらそう言った。


 「で?そのドラゴンはいつやってくるんだ??」

 「分かりません。定期的に来てる訳じゃないので」

 「まぁそんなん分かったら苦労しないか」


 その時、村全体に地響きがした。


 「勇者様!!」


 村の若者らしき人物が駆け寄ってきた。


 「現れたか…」


 長様も状況を察し、魅夜の顔を見た。


 「お早いご到着で!!」


 魅夜は急ぎ体勢を整え、ドラゴンの元へ駆け出した。ミオもそれに続く。


 「ミオは村で待ってろ!」

 「いいえ!私も戦います!サポートくらいならできます!!」

 「…危なくなったらすぐ逃げろよ!」

 「アイサー♪♪」


 そう言うとどっから出したのか巨大なハンマーを手にしたミオは走りながらジャンプした。




 村の東にそのドラゴンは姿を表した。その向こうには山がそびえ立っているので、きっとそこから来たのだろう。

 その姿は想像通りのヤマタノオロチのような風貌だったが、身体自体はそこまで大きくなかった。とはいっても二階建てくらいの大きさはあり、背中には翼もはえていた。


 「最初のボスがドラゴンかよ、まさか詰みじゃねーだろーなっ」


 魅夜を目の前にしたそのドラゴンは、2人をめがけ大きな咆哮をした。鼓膜が破れそうなほどの咆哮をしたかと思うと、ドラゴンは一気に襲いかかってくる。


 「動きはそんな早くねーな」

 「これだけ巨体ですからね、なんとかなりそうですか??」

 「分からないけどやってみるっ!」


 襲いかかるドラゴンの首やシッポを右や左に躱し弱点になりそうな場所を探す。


 「鱗は硬そうだな。一撃入るかどうか……」


 ドラゴンの右側に位置した魅夜はジャンプで近づき、試しの全力パンチを打ち込んだ。

 が、案の定ドラゴンの鱗は硬く、ダメージを与えたようには見えなかった。


 「やっぱ無理かー……。ミオ!ドラゴン討伐のセオリーは!?」

 「んーとですね、ドラゴン1匹に対して100人ほどの騎士団隊が10は必要ですかね。そんで兵器を使って拘束した所をバシュンバシュンッてやっつけます!」

 「…………」


 と、全く参考にならなかった。


 「弱点なんかないってことか……」


 その時ドラゴンの顔の1つが大きく口を開けた。大きく息を吸い込んでいるようで、魅夜は嫌な予感がした。


 「ミオ!これってもしかして!?」

 「多分炎吐きますね」

 「威力は!?」

 「鉄は一瞬で溶かしますかね」

 「のおおおおぉぉ!!」


 魅夜とミオは全力で避ける体勢に入る。

 その時、ミオが何かを思いついたようだった。


 「避けれないんだったら、塞いじゃいましょう♪」


 そう言うとまたドラゴンに向かって走り始めた。顔の下まで来ると、そのままの勢いでジャンプし今にも吐きそうな顔の目の前まで来る。


 「てえぇい!!」


 ズドォーンッ!!


 ドラゴンが炎を吐く瞬間ドラゴンの頭をハンマーが叩きつけ、行き場のなくなった炎がドラゴンの身体の中を焼いているようだった。


 「ナイッスーッ!!」

 「えへへー♪♪後でもっと褒めて下さい♪♪」


 ドラゴンは堪らず叫び声をあげる。その時、ドラゴンの首部分に何かが刺さっているのが見えた。


 「なんだあれ??」


 魅夜が近づいてよく目をこらしてみると、剣が刺さっているのが分かった。その剣は紫色の禍々しいオーラをおび、少しずつめり込んでいっているようたった。


 「ミオ!ドラゴンの首!」

 「えっ!?」


 ミオもドラゴンの猛攻を避けながらその剣を見る。


 「何ですかね??すごく邪悪な力を感じますけど」

 「少しずつ入り込んでいる!ドラゴンが暴れているのはそのせいかもしれない!」

 「抜く時痛そうですね……」


 ミオは少し痛そうな顔をした。


 「やってみるか!!ふんっ!」


 魅夜はその剣目掛けて飛び上がり、その柄を握った。


 「大人しくしてろよー、ふんっ!」


 手や足に力を込め、引っこ抜こうとする


 「グオオオオオオッ!!」


 よほど痛いのか、ドラゴンは全部の首から雄叫びをあげさらに暴れだした。


 「大人しくしろって!!すぐ終わる!!」


 徐々に刀身が抜けてきた。そして剣先まで近づいた時、一気に引っこ抜けた。


 「よっしゃああッ!!」


 魅夜は落下しながらガッツポーズをとった。ミオも魅夜に走りよりながら小ジャンプを繰り返し喜ぶ。


 魅夜が着地し、剣を眺める。その禍々しオーラはいまだに続いていた。


 「装備する意思がなければ持つことは出来るんだな」

 「これで大人しくなりますかね??」

 「そうだ!ドラゴンは!?」


 魅夜がドラゴンの方を向くとそこにドラゴンの影はとこにもなかった。


 「………あれ??」

 「何処に行ったんですかね??」

 「さぁ??村の方に行ったなんて事ないですよね??」

 「うーん、それなら俺達も気づくだろうし、足音なんかもしないしな」


 ドラゴンが先程いた所は少し煙が立っていたが、徐々にはれてきた。

 魅夜はそこに人影を見つける。


 「だれだ!?村の人間か??」


 そう声をかけると同時に煙は完全にはれ、人影は姿を表した。そこに立っていたのは12歳くらいの髪の長い女の子。頭の両サイドにはポニーテールに結っていた。


 「……村の人間じゃない。あなた達…誰?」

 「のわーっ!!ちょっおまッ裸!!」


 魅夜は慌てて目を塞いだ。


 「どこの子ですかね??村にはこんな子居なかったような…??」

 「とにかく服を着させろ!!」


 とりあえずミオの羽織っていた洋服を上から被せた。


 

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