第5話 理不尽な契約はさせねぇ!
「ふぁあ……」
翌日。なんとか宿屋代を稼ぐことができた魅夜は近くの宿屋で夜を明かすことが出来た。
「こんな生活ずっと続けんのかぁ」
「嫌ですか??」
「当たり前だろ。生活基盤も出来てないし俺の知らないことだらけだし」
「慣れればどってことないですよ♪」
「気楽に言うな」
魅夜は欠伸をしながら宿を出る。時間はすでに昼になろうとしていた。
「さぁて、これからどーすっかなぁ」
とさっそく途方に暮れていると、広場の方がやけに騒がしかった。
「何かあったんですかねぇ?」
とりあえず2人して行ってみることにした。
広場の周りには人だかりが出来ており、その後ろに助けた少女の父親もそこにいた。
「何かあったの?」
「これはこれは恩人様。実はですね、この地に勇者様が降臨されたとかで」
「おっ来たのか!!意外と早かったな!」
「勇者様がいらっしゃったのですね!!」
魅夜とミオは人並みを強引にかき分け、広場の中心へ進んで行った。
「この俺が来たからにはもう大丈夫だ!この世界を救ってやるよ」
勇者と呼ばれる人物は声を高々と上げ、まるで演説でもしているかのように話していた。
「あれは……」
「知り合いですか??」
「確かサッカー部の一条ケイスケ」
「知り合いなのですね!早く紹介してください!」
ミオは彼氏が欲しい大学生かのように袖を掴んで急かした。
「いや、知り合いってほどでもないんだけど。ていうかほとんど知らん」
「とにかく!同胞なのでしょう??」
「わーったわーった!ちょい待ってろ」
そう言うと魅夜はケイスケのもとへ歩み出す。ケイスケの周りには他にも数名の仲間がいた。パーティと呼ぶには少し大人数な気がしたが。
「ちょっとゴメン、話があるんだけどいいかな?」
「君は??」
「あー俺は同じ高校の七瀬って言うんだけど、俺もあのクソ女神に召喚されて」
「君も勇者なのか?」
「あーいやいや俺はただの間違いで……」
「そうか、じゃあ仲間に加えてやるよ。有難く思え」
「いや、そうじゃなくてだな」
「ん??なんだ、同郷のよしみで仲間に加えてやろうとしてるのに」
「話を聞いてくれ、実はお願いというか頼みがあるんだ」
魅夜が話を切り出そうとすると、奥から1人の女の子が現れた。
「魅夜!?」
「かりん!?なんでここに!!」
そう、現れたのは幼なじみの紫堂かりんだった。
「私はなんか一条先輩のサポートの1人としてこの世界??に一緒に召喚されたんだけど……」
話を聞くと勇者として召喚された一条ケイスケの他にかりんを含め8名がサポートとして召喚されたとのこと。
「へぇ、勇者って1人で冒険するんじゃないんだ。そりゃそうか」
「それよりなんで魅夜が、ここにいるの??魅夜もサポートで召喚されたの??」
「いや、俺はあのくそ女神が間違って召喚したんだと」
「もう!くそ女神なんて言ったら失礼でしょ!女神様なのよ!?」
「知らん。あんな雑で適当な女神なんぞくそで十分だ」
「どうしたの??話はついた??」
俺の後ろからひょこっと待ちきれなくなったミオが顔を出した。
「……その子は??」
一瞬かりんの眉がピクっとなった。
「その事で一条先輩に話があるんだ」
「俺に??」
「こいつの村が魔物に苦しめられてるらしくてさ、退治してやってくれないかな?」
「お願いします!その代わりと言ってはなんですが、その契約として、私の人生を捧げます!!」
「……は??」
魅夜はミオのその一言に少し違和感を覚えた。
「ちょっと待て、そういえば契約ってどんな内容なんだ??」
「説明しませんでしたっけ??私がしようとしてる契約の内容は、村を救ってもらう代わりに私の人生を全て捧げる、というものです。魔物討伐のあかつきには私を好きにしてもらって構いません!!」
「バカヤロウその意味分かってんのか!?」
「勿論です。奴隷にするなり慰みものにするなり好きにしてください!」
ミオは大声でそう言い切った。俺を含めかりんや一条先輩も声を失った。
「分かった良いよ。その魔物退治受けてあげよう」
一条先輩はニヤニヤしながらその話を受けようとした。
「待った待った!お前そう簡単に身を捧げるとか言うなよ!」
「簡単じゃありません!あの魔物を退治できるのは勇者様しかいません。そして、それに見合う代償を支払うのは当然の事です」
「だからってなぁ」
「先輩、契約なしで助けてあげませんか?」
かりんが一条先輩に話しかける。
「しかし、それだけ大変な魔物だということだろ?それ相応の事はして貰わないと、こっちだって暇じゃないんだ」
「分かっています、なので私とその内容で契約をしてください!」
「まぁ契約ったって大したことないだろ、酷いことされそうになったら逃げればいんだからな」
その魅夜の言葉にミオは顔を険しくする。
「この世界においてビジネス等の契約は神聖なものなのです。逃げることは許されません。もし逃げようなんてしたら強制力が働きます。その効力はもはや呪いに近いのです」
「……そんなのおかしいだろ。契約なんてやめとけ」
「それじゃあ受けることは出来ねーな、俺たちは今からやる事が山積みなんだ」
「ダメです!助けてもらわないと…村が…」
ミオは目に涙をいっぱい貯めた。その一雫が流れ落ちる。
魅夜は右手で後頭部をかきながら観念したように言った。
「よし、分かった!俺が退治してやる!」
「……え??」
「俺がその魔物退治してやる!契約はなしでだ!それなら文句ないだろ!!」
「しかし勇者でなければ退治できないんだろ?仕方ないから俺がやってやるよ」
と一条先輩も申し出てきた。が。
「契約ありでだろ?そんな、理不尽な契約はさせねぇ!そんなモンスターなんか俺がぶん殴ってやる!!」
と拳を高く突き上げた。
「……こんな所でも変わらないね」
とかりんがクスクス笑った。
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