第3話 そーゆーのは雑魚っぽいって!
七瀬は昼間キーストンから助けた少女宅を再び訪れていた。
「ちょっと聞きたいんだけどさ」
「どうぞ、なんでも聞いてください。私たちに出来ることでしたらなんでも」
2人は椅子に座り、向かい合う形で話していた。助けた少女は七瀬の隣に立ちそでを掴んでいる。
「実は俺この世界の人間じゃなくてさ」
「あぁ!召喚者様でしたか!」
「それで金もコネもなくてさ」
「そういう事でしたか」
「やっぱりモンスター倒したりすれば稼げる?」
「お金の稼ぎ方にはいくつかありますね。店を経営したり物をつくったりする【生産系】、ギルドに所属しモンスター退治や人々の依頼をこなして報酬をもらう【戦闘系】。モンスターの素材を売ったりするのも1つの手です。まぁ中には荷馬車等を襲う盗賊なんかもいますが」
七瀬はひとしきり話を聞きながら、自分はどうするべきかを考えていた。
と言っても七瀬には古武術しかない。つまり、殴るだけ。
「はぁ…あ、そう言えば魔法ってどうすれば使えるの?」
「魔法ですか。一般的には魔法鑑定してもらって適性を見てもらいます。自分がどの属性の魔法が得意なのかって」
「属性……」
「その後は魔法書読んだり、戦闘の中で昇華させていったりですかね」
「そうなのかぁ……その、魔法鑑定ってどこでできるの?」
「はぁここかぁ……」
七瀬は魔法鑑定が出来るという【王都大書庫】の前に来ていた。そこは王都の中心にある【グルムナレム城】の横にあり、その大きさは10階建てマンション6個分くらいありそうで、ありとあらゆる分野の書物が数千万冊以上置いてあるという事だった。
「うし!」
七瀬は気合を入れ入っていった。
中には冒険者と思われる人々が何人も本を探したり鑑定してもらったりしていた。
「あの、鑑定して貰いたいんだけど」
「ほぅ、おんし初めてじゃの?」
どうやら書庫の真ん中にエリアを設けているこの老婆が鑑定してくれるようだ。
「ここで魔法適性見て貰えるって」
「ほうじゃ、おんしまだ冒険者としても初心者じゃな?なにも知らぬ顔しとる」
「俺召喚されたばっかりで」
「なるほどの。どれ、1つ見てやろう。特別に無料でな」
そう言うと老婆は右手を七瀬にかざし、精神を集中させた。
10秒ほどそのままでいると、老婆は手を下ろした。どうやら終わったようだ。
「おんし、無じゃな」
「無属性すか?」
「いや、【無】じゃ」
「???」
「おんしは、魔法は使えんようじゃ。と言うか才能の欠けらも無い」
「はぁ!?」
「どんなやつでも何かしら魔法は使えるもんじゃが……」
「そんなぁ……わかったありかとう…」
「これ、まだ終わっとらんぞ」
魅夜は老婆の呼び止めを聞かずスタスタと後にした。
異世界と言えば剣に魔法。そのどちらも使えないと言われればショックは大きい。
異世界に来て七瀬は少なからず期待していただけに、生きる希望を絶たれたかのようにうなだれた。
「魔法も使えないとは……俺が頼れるのはほんとに武術だけかぁ……もっと鍛錬しとくんだったなぁ」
と嘆いていると、突然見覚えのある格好をした兵士たちに取り囲まれた。
「貴様か、キーストン様に無礼を働いたやつは!」
「キーストン様の命により、貴様を捉える。抵抗しても無駄だぞ」
兵士たちは七瀬に槍を向けたままジリジリよってくる。
「へぇ、こんな庶民ごときに大袈裟なこった。よっぽど頭にきたみたいだな」
「つべこぺ言わず、さっさとこい!」
1人の兵士が七瀬の後頭部をなぐりつけようとしたが七瀬はあっさりそれをかわした。
「きさまー!大人しくしないと痛い目を見ることになるぞ!」
「あんたらそればっかだな。この世界の流行りか??」
「うるさいっ!これ以上抵抗するなら殺しても良いと仰せだ。お前もまだ死にたくないだろう?」
「……どうするつもりだ?」
「なぁに、キーストン様も寛大なお方だ。抵抗せずについてくれば許しを乞う時間くらい与えてくださる」
七瀬は少し考え、ある事を思いついた。
「…はぁ、いいだろう。抵抗はしない」
「それで良い。賢明な判断だな」
七瀬は兵士たちに両手を拘束され連行された。
――グルムナレム中央広場――
「皆の者よく聞けぃ!この者はこのキーストンに逆らい、裁かれる事となった!」
ざわざわ
広場には大勢の市民と当のキーストン、そして両手を鎖に繋がれた七瀬がいた。
「この者は事もあろうにこのキーストン殺害を企て、白昼堂々と襲撃し失敗した!」
市民たちは事のあらましを知らない者も多かった為、七瀬は罪人としてまさに裁かれようとしていた。
「ゆえに!反逆罪として死罪とする!」
ざわざわ
「ふーん。やっぱこういう展開になるわけね」
キーストンは七瀬の前にやって来た。
「命乞いなど認めんぞ。私に恥をかかせた報いだ。せいぜいあの世で詫びるがいい」
「そのセリフ、雑魚っぽいからやめとけ」
「ほざけ。その鎖には魔法封印の力がある。魔法などつかっても外すことはできん」
キーストンはそういうとニヤリと笑った。
「ふぅ、茶番はもう終わりにしようぜ」
「そうだな、いつまでもお前に時間はかけられん。さっさと死ね」
「だから、そーゆーのは雑魚っぽいって……言ってんだッろッ!!」
七瀬は両手に力を込めると鎖を引きちぎった。
「なんだと!?魔法封印がかかっていると言うのに!!何故だ!?」
「あんたには悪いけど、俺魔法なんか使えないんだよね」
「何ッ!?」
「だからこれは純粋な俺の力。正確には体内の気を充分に練り上げて手に集中させて力を増幅させたんだが」
キーストンは口をあんぐり開けて目が点になっていた。
「馬鹿なっ!?だとしても普通引きちぎれる代物じゃないんだぞ!」
「知らん。別にこの街の人間たちに果たしてやる義理はないんだが、どうもあんたが気に食わないんでね」
七瀬が握り拳を作ったその時。
「そこまでだ!」
後方から声が響いた。七瀬が振り向くと、そこには重厚な鎧を纏った男が馬に乗りたたずんでいた。
「アーガルンデ様!!」
キーストンはその男をアーガルンデと呼んだ。それはキーストン直属の上司の名前だった。
「アーガルンデ様、よいところに。この男、巡回中のわたしに突然襲いかかり反逆を企てた不届き者!今も脱走をしようとしていた所です。何卒厳正なる処罰をお願いします」
キーストンは【処罰】の部分を力を込めて言い放った。
「では厳正に処分を下そう。キーストンはこの国から追放!二度と戻ってくる事はゆるさん!」
しばらくの間があった。そしてキーストンは再び言葉を発した。
「アーガルンデ様何を!?処罰をするのはこの男です!なのに何故――」
「何故?おぬしが1番良く分かっておろう?」
「……私には何の事か――」
「ならば言おう。お前はこれまで住民に対し何をしてきた?私の目の届かぬ所で重税を課し、反感したものを罰してきたな?」
「そ…それは……」
キーストンは言葉を噤んで目を逸らした。
「私が何も知らぬと思ったか。全て調べさせ、女王にも報告してある」
「じょ、女王様に!?」
「厳罰に処せとの事だ」
キーストンはうなだれ、膝をついた。
アーガルンデは七瀬に向き直った。
「私の部下が失礼をした。どうか謝罪を受け入れて欲しい」
「俺に謝罪するよりも、するべき事があるじゃないのか?」
「…その通りだ。君は冒険者のようだね?せめてもの償いだ、もし何か困っていることがあったら頼ってくれるといい」
「その時はそうさせてもらう」
七瀬はうなだれているキーストンをチラッと見ると、そのまま後にした。
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