第2話 この世界はこんなんばっかかよッ!
あれからどれだけ時間がたっただろう。七瀬はまだ森の中をさまよっていた。
「いったいいつになったら森から出られんだ??」
――この森を南の方に歩いていけばすぐに出られるはずですよ?――
とリアは言っていた。が、どれほど歩けども出口にたどり着く気配はない。
「あいつの事を信用した俺がバカだったのかぁ?こんのくそおおおぉ!!」
七瀬は足元に転がっていた小石を思いっきりけとばした。飛んで行った小石は草むらの向こうに飛んで行き、こつんッと何かに当たった音がした。
ガサガサッ
「ん?」
七瀬が音のした方を振り向くと、
「シャアッ!!」
「え?」
草むらの向こうから現れたのは、巨大なヘビのモンスターだった。頭には大きなこぶもできている。
「あっ…と、ご、ごめんね?」
「キシャアアアアッ!!」
「のぉおおおおおおおおッ!?」
七瀬はまたモンスターから襲われ逃げまわることになってしまった。
「のわーお約束じゃねーかーッ!くっそーこうなったらッ効くかどうかなんかわかんないけどッ」
七瀬は巨大ヘビに向き直り、気を練り出す。
「はぁー……ッはぁッ!!七瀬流拾伍式ッ豪砕脚ぅッ!!」
七瀬は高く飛び上がるとぐるぐると縦回転しながら巨大ヘビの頭を目掛けてそのカカトを蹴り落とした。
蹴りをマトモに受けた巨大ヘビは頭蓋がへこみその場に倒れた。
「はぁ…食われるかと思った……」
「兄ちゃんつえーなー!」
後ろから誰かに話しかけられた。そこにいたのは巨漢の男。
「あのポイズンスネークを一撃必殺たぁかなりの熟練者だな」
「あいつそんな名前なんですか?」
(ポイズンって…毒持ってやがったのか)
「なんだ知らなかったのか?それに変なかっこしてるな?どこから来た?」
「日本から来ました」
「ニホン…?聞いた事ねぇな。あんたそんなかっこで武器も持たずにこの森に何しに来た?」
男は近ずいてきて言った。近くで見るとますますでかい。七瀬の2倍はあるだろうか。
「ちょっと迷いまして」
「そんなこったろーと思ったぜ。俺はガルドってんだ。鍛冶師をしている」
「じゃあ武器とか作ってるんですか!?」
「まぁそーだな。それに防具なんかも作ってる」
「おっさん、ひょっとしてドワーフか?」
「あぁそうだ。なんだ珍しいか?」
「…あぁまぁ…な…」
七瀬は改めて異世界に来たのだと実感した。
「俺はそいつの素材を取りに来たんだ、兄ちゃんが倒してくれたおかけで楽に手に入ったよ」
「そいつはどうも」
「お礼といっちゃなんだが、武器とか防具とかお前さんには必要だろ?うちにこないか?」
「良いのか!?」
「偶然とはいえ俺は大助かりだったからな」
「助かるー!!」
七瀬はガルドの好意に甘えることにした。
街は出会った所から約2キロほどの場所にあった。そこは【王都グラムナレム】と呼ばれ、その昔、【深淵の厄災】からこの世界を守ったと言われている【剣の聖女】が建国したという伝説があった。
「ふぅん剣の聖女ねぇ」
「さぁ、ついたぞ。どんな物が良い?この剣なんかどうだ?」
ガルドは1つの剣を奥から持ってきた。
「鉄鉱石と魔鉱石で作った特注品だ。」
「おっ良さそうだ。どれどれ?」
七瀬が剣を受け取ろうと手を差し伸べた時、バチバチッと電流が流れ弾かれた。
「え……?何コレ??」
「なんだ?今のなんだ?」
「いや、俺に聞かれても」
「んじゃこっちの槍なんかどうだ?弓なんかもあるぞ」
ガルドが次々と持ってきた物を七瀬は手にしようとしてみたが、ことごとく弾かれて受け取ることすら出来なかった。
「兄ちゃんひょっとして召喚されたかなんかか?召喚された者は強い能力を持つ替りに装備なんかが制限されるって聞いた事あるな」
「て事は他にも召喚された人がいるってことか?」
「たまにいるってウワサだ。それこそ剣の聖女も召喚されたんじゃないかって」
「そうなのか。あとはどんな武器が残ってる?」
「いやぁそれがな……」
「???」
「もう全部のカテゴリ試したんだよ」
「はぁ!?」
「こんな事は聞いた事ないが、どうやら何一つ装備出来るものはないみたいだな」
「そんな事あるぅ!?」
「まぁ兄ちゃん腕っぷし強いし問題ないんじゃないか??はっはっはっは」
笑い事じゃねーよと七瀬は思ったが、出来ないものは仕方ないと諦めるよりなかった。
「それじゃ防具なんかどうだ?どんなのがいい?」
「あっそれじゃおっさん!ちょっと頼みがあるんだけど」
七瀬はガルドの店を出て、街の中を見てまわることにした。大通りはとても活気づいていて、買い物客はひっきりなしだった。
「すげーなー!これが異世界かぁ」
街並みを歩き回る人達は人間だけでなく、獣姿の獣人や、荷馬車を引くのは鳥のような生き物だったりした。
何もかもが七瀬のいた世界と違っており、ホントに生きていけるのかどうか少し心配になった。
七瀬が大通りを歩いていると、突如周りの人達が両脇に避け道を開いた。
「王国騎士団第5部隊所属、アーガルンデ隊長直属の部下、キーストン様のお通りだ!道をあけよ!」
騎士の格好をした人物たちが荷馬車を引いている鳥のような生き物に乗り、道を闊歩していた。
「わぁ!わぁ!騎士団様だぁ!!あっ!?」
その時、騎士団の行列を見に来ていた1人の少女が足を踏み外し行列の前に飛び出してしまった。
「こいつ!我らを王国騎士団と知っての所業か!!」
「キーストン様の前にそのような無粋なかっこうで出てくるとは何事か!!切り落としてくれる!!」
そう言って横から出てきた男が剣を抜き振り上げる。
「死して償え!」
ヒュンッ
その様子を見ていた人達はみな目をおおった。少しして人々が目を開けると。
「貴様!何のマネだ!!」
七瀬は少女の前に飛び出して、騎士の振り下ろした剣を2本の指で受け止めていた。
「こんな女の子にそれはないんじゃないかい?騎士団さんよぉ」
「こいつ…我らを誰だと――」
「知らねぇよあんたらなんて」
そこへ1人の男が現れた。どうやらこいつがキーストンと呼ばれる人物らしかった。
「貴様いい度胸だな。このキーストンに、楯突く気か?」
「あんたが責任者かい?いたいけな少女にいきなり切りかかるたぁどんなしつけしてんだ?」
「ふん、この私に生意気な口をきくとどうなるか教えてやらんといかんようだな」
キーストンは腰に携えていた剣を抜き、七瀬に突きつけた。
「地獄で悔やむがいいッ!!」
キーストンは剣を振り上げると、そのまま切りかかってきた。七瀬は剣を持っているキーストンの右手首を自身の右拳で払い背中に回り込んだ。
その刹那、七瀬は右回し蹴りをキーストンの背中に食らわす。
キーストンはそのまま数メートル吹っ飛び、気絶してしまった。
「き…貴様ぁッ!」
「かかってくるってんなら相手になるぜ?但し、無事に帰れると思うなよ」
七瀬はキーストンの部下達を睨みつけた。部下達はその迫力に恐れをなしてそそくさと逃げていった。
「あぁ…ありがとうございます」
少女の父親らしき人物がかけよってきて、涙を流しながらお礼を言ってくれた。
――10分後――
「ささっどうぞ」
七瀬は助けた少女の父親がどうしてもと言うので、家に招かれごちそうになっていた。
「こんな物しかありませんが」
とテーブルの上に差し出されたごちそうは、何かの肉や飲んだことの無いジュースだった。
「キーストン様は騎士団の権威をひけらかせて、貢物として色々なものを市民から奪いさっています。なので大したものはお出し出来ませんが……」
「直属の上司がいるみたいだけど?その人に抗議したら?」
「とんでもない!アーガルンデ様にあうなど、下民が出来ることではありません!それにキーストン様が目を光らせていますし」
「ふぅん。じゃ諦めるのか?」
「それは……」
「ま、相手が騎士団様じゃな。返り討ちにあうのが関の山か」
「そうなのです。あの、そこで相談なんのですが…」
「断る」
「まだ何も」
「どうせ俺に懲らしめてくれだの頼むつもりだろ?」
七瀬はジュースを手に取り、一気に飲み干した。
「ダメでしょうか?」
「俺はこの世界に来たばかりでね。極力面倒をおこしたくないんだ。さっきはつい手が出てしまったけど」
「そこをなんとか!貴方様の腕を見込んでのことです!」
「断る」
「そうですか……」
男はショックを受けうなだれてしまった。
七瀬は立ち上がると、
「料理ありがとう。美味しかったよ」
と言って家を出た。
七瀬は再びガルドのもとを訪れた。
「おっさん!出来てる?」
「おぉ、あんたか。もう出来てるぜ見たことないんで少しばかり苦労したが」
七瀬はガルドが持ってきたものを手に取り広げた。
七瀬がガルドに頼んだものとは所謂武闘着で、七瀬が鍛錬の際に着ていたもののデザインをガルドに作ってくれとお願いしたのだ。
「これお前の国の服か?動きやすそうだな」
「まぁな」
「ついでにほら、使うかどうかは分からんがこれも持ってきな」
「これは??」
「どこにも鎧がないと心もとないだろ?ポイズンスネークと、鉄鉱石で作ってある」
ガルドが追加でくれたのは、左肩から指先までのガントレットだった。
「すげぇ!おっさんありがと!」
「良いってことよ!どーせ余りもんだ。ポイズンスネークの素材使ってっから、毒耐性も付いてるぞ」
「ますますすげぇ!異世界って感じだな!」
七瀬は貰った装備に着替えるとガルドの元をあとにした。
大通りの交差点を右に曲がっていくと、道具屋や防具屋、それに武器屋なども立ち並んでいた。どうやらガルドが作ったものはここに卸しているようだ。
もう少し先へ進むと、荷馬車等を引いたり直接乗ることも出来る、あの鳥のような生き物を販売やレンタルしている店もあった。
「おらっさっさとこっちにこい!」
七瀬が街を見物していると、ドスのきいた声が聞こえてきた。そっちに顔を向けると、何やら大男が1人の女の腕を掴んで引っ張っていた。
「やめてくださいッ!私はアナタと契約なんてしません!」
「うっせ!お前は俺と契約すんだよ!悪いようにはしねぇよ」
クックックッ、といやらしい笑みを浮かべた男はさらに力を込め引っ張った。
(この国ってそーとー治安悪いんだな。まぁそもそも治安維持してる騎士団があんなんだからな)
と七瀬が思っていると、男の手を振りほどいた女がこちらに走って来た。
「あっまちやがれ!」
大男も女を追いかけこちらに迫ってくる。女の子は七瀬の後ろに素早く隠れた。
「おいお前、そいつを渡しな。痛い目みたくなかったらな!」
七瀬は女の子を見ると再び男に目線を戻した。
「どうしよっかなー」
「うっせー!さっさと、よこしやがれ!」
「そんなセリフ吐くのは、雑魚の決まり文句だぞ?」
「どうやら痛い目にあいたいらしいな?」
大男は指をぽきぽきならしながら近づいてきた。
「私はあんたなんかと契約なんかしない!勇者様と契約する為にここまで来たんだから!」
女の子は七瀬の肩から顔を出すと、男に向かって舌をべーっと出した。
「契約って何――」
「くッ!もう許さねぇ。大人しくしてりゃいい気になりやがって!ぶっ殺してやる!」
大男は背中に背負っていた斧を手にし襲いかかってきた。
「チィッ!この世界はこんなんばっかかよッ!」
(避けるとこの子が危ないか)
七瀬は避けることの選択肢を封じられ、攻撃を受けきるしかなかった。七瀬ははまた急速に気を練り上げる。
「はぁ…はぁッ!!」
七瀬に振り下ろされた斧を両手で真剣白刃取り。さらに斧を押し返すと同時に前蹴りを放った。
「しゃらああぁッ!!」
大男はたまらず後方に吹っ飛ぶ。そしてそこにあった店に突っ込んでいった。
「ふぅ…んとにもぅ」
七瀬は女の子の方に向き直った。女の子はぽかーんとした顔で七瀬を見ていた。
「大丈夫??あんまり1人でうろうろしない方がいいよ。じゃあね」
「待って!」
七瀬は面倒事に関わりたくないと女の子が呼び止めるのも聞かずにそそかさと立ち去った。
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