異世界来たのに剣も魔法も使えない

みや

第1章 異世界召喚 グラムナレム国編

第1話 異世界なんて言われてもなぁ

 神社の側にある河川敷に、男たちが数人集まっていた。集まっていたと言うよりは多人数が1人に絡んでいた、と言った方が正しい。


 「たった1人に5人がかりなんて、ちょっとやり過ぎじゃねーの?」

 「うっせー!おめーだろ?俺の仲間をやってくれたのは」

 「あぁん?なんの事だよ」

 「昨日駅で1人ボコボコにしただろ!あれは俺のダチなんだ!」


 1番大柄な男が腕をボキボキ言わせながら小柄の男に近づいていった。


 「あぁ!女の子に絡んでた、あのうんこ野郎の事か!」

 「んだとコラァ!!」

 「女の子が困ってたもんでね、丁重にお引き取り願おうかと思ったけどつっかかってきたもんでちょっと眠ってもらっただけだよ」

 「ごたくはいい!ケジメつけてもらうぜ!」


 言うが早いか、大柄な男は小柄の男になぐりかかった。

 が、小柄な男は左にひらりと躱し、大柄な男のみぞおちに拳が入り込んだ。


 「ぐっ……ぐお……ッ」


 そのまま大柄な男は地面に倒れ落ちた。


 「やべぇ!逃げるぞ!」

 「えっ?おーいこいつ忘れてるぞー!」


 大柄な男の仲間たちはそそくさと逃げ帰ってしまった。



 小柄の男、【七瀬魅夜】は家に古くから伝わる古武術の使い手。その起源は中国の八極拳とも少林拳とも言われるがはっきりとしておらず、どこかで別れた分家が独自の進化を遂げたのではと言われていた。

 その古武術は【七瀬流古武術】として存在しているものの、世間からあまり知られることはなかった。


 一悶着が終わり、七瀬は家路へと向かった。


 「まーた面倒事やってたでしょ!」


 突如七瀬は後ろから声をかけられた。振り向くとそこには幼馴染である【紫堂かりん】が、そこにいた。


 「なんだかりんか」

 「なんだはないでしょ?可愛い幼馴染みが心配してあげてるのに」

 「大きなお世話。そこら辺の奴らに、俺が負けるわけないだろ?」

 「そうじゃなくて。あんたこれ以上問題起こしてたら退学よ?退学!」

 「やっべ忘れてた!!」

 「これだから」


 かりんはため息をつきながら七瀬の隣に歩み出た。


 「あんまりお母さん心配させないでよ?昨日だって『 かりんちゃん!あの子のこと面倒みてあげて!』って泣きつかれちゃったんだから」

 「はいはいそりゃすいませんでしたねー」

 「もうホントに分かってる??」


 かりんの家とは隣同士で母親達も仲が良く、家族ぐるみの付き合いだった。物心ついた頃からかりんはずっと七瀬についてまわっていたので、母親達も「将来は結婚してもらおう」なんて言い出す始末。

 当の本人はそんな気などサラサラないのに。


 家についた七瀬が重苦しい扉を開けると、


 「このバカ息子がー!!修行の時間に遅れるなんてなんたることかー!」


 と、開幕一発目に飛び蹴りが飛んできた。その蹴りは見事に七瀬の顔に命中した。


 「このクソオヤジ!!何しやがるッ!」

 「修行が足りぬ!これくらい躱せなくてどうする!?」

 「うっせー!何処に帰ってきたばかりの息子に飛び蹴り食らわす親がいんだよ!」

 「ふっふーん、ここにいるではないか!」

 こうして七瀬家ではご近所の迷惑も考えず、毎日こんな事が繰り返されていた。


 ――お隣の紫堂家では――


 「相変わらずすごい音ねお隣さんは」


 七瀬家の親子喧嘩でガラスが割れる音やら何やらがしょっちゅう聞こえてくる紫堂家はもう既に慣れたもので、もうどんな事にも驚かなかった。



 ――翌日――


 「みなさんおはよー!今日から教育実習生が来てくれます!みんな先生を困らせないように」


 担任がそう言うと、一人の女性が教室に入ってきた。


 「相沢沙耶です。みなさんよろしく」


 その女性はゆっくりと頭を下げて挨拶をした。


 「おい、かなりの美人じゃないか?おっぱいもでけーしよ!」


 七瀬の隣に座る友人がコソコソと話しかけてきた。


 「ちょっとそこ!何話してるの?」


 相沢沙耶と自己紹介したその女性は私語をしている生徒を見つけると即座に注意をした。


 「何の話をしていたのかしら?」


 七瀬の前まで歩み出てくると、七瀬とその友人を交互に見渡しながら言った。


 「こっこいつか凄い美人が来た!おっぱいもすごいでけーって!」

 「あってめー人になすりつけるんじゃねー!」

 「あーはいはいもうやめなさいッ」

 「違うんすよ!こい……つ……が…――」


 突然七瀬は目眩に襲われた。なんとか堪えようと意識を強くたもとうとした。


 「七瀬くん大丈夫!?七瀬…ん!な……く――」


 相沢沙耶の言葉が断片的に聞こえてきたが、激しい頭痛も襲ってきたせいで全く聞こえなくなった。




 「……ん………うん……もう食えねぇ……」


 ぺろっぺろぺろっ


 「くふっやめろってかりん、誰か見てるかもしれないだろぉ…」


 ぺろぺろっ


 「やめろってぇ我慢出来なくなるだろー……ん…ふぁ……ん……?」


 七瀬が目を覚ますと、目の前には狼とも豹とも見える化け物がそこにいた。


 「…………は…?」

 「…グル?」

 「…な、なああああにいいいいぃぃい!?」

 「ガルルルルルッ!!」


 七瀬はどことも分からぬ場所を必死に走っていた。先程の化け物が数を増し追いかけてくる。


 「おいおいおいなんなんだよおおおっ!学校は!?みんなはッ!?」


 七瀬は森の中を走り回り、学校や友達たちを探したがもちろん見つかるはずもなく、さらに化け物たちも諦めることはなかった。


 「しつこいって、のッ!!」


 七瀬は左足を軸に化け物に向き直り、先頭で突っ込んできた1頭に右で蹴りを頭に浴びせた。

 突然の不意打ちを食らった化け物は頭にまともな蹴りをくらい、5mほど先にある木に叩きつけられた。


 「やりぃ!こいつらやれるッ!」


 七瀬は次々と襲いかかってくる化け物の群れを1頭、また1頭となぎ倒していった。

 反撃された化け物たちは仲間がやられていくさまに動揺し、ついには逃げていった。


 「はぁはぁ。いったいなんなんだアレは……」


 七瀬は体力を消耗し、その場にへなへなとへたりこんだ。


 ――ごっめーん召喚場所ミスっちゃったー!!大丈夫ぅ??――


 どこからともなく声が聞こえてきた。七瀬はあたりを見回してみたが、誰もいない。


 ――あっちょっと待っててね!今そっちに行くから!!――


 すると七瀬の目の前が明るく光だし、その光が収まると1人の女の子が現れた。


 「初めまして!あたしは女神のリアプリム・マーム・シルクシュラと言います!リアと呼んでください☆」

 「………………………」

 「あっれ?どうしたんですか??あたしがあんまり可愛いから言葉もないですか??」


 リアと名乗るその女の子は、艶やかな衣装に身を包み、首をかしげながら言った。


 「……あんた、相沢沙耶じゃないのか??」


 リアは七瀬が学校で会った教育実習生の相沢沙耶とそっくりだった。顔だけしゃなく胸の大きさまでも。


 「そうです、あたしは相沢沙耶です。正確には、女神であるあたしが相沢沙耶として潜入していた姿です」

 「いったいなんでそんな事を??」

 「どこ見てしゃべってるんですか!?」

 「胸」

 「胸はしゃべってないでしょ!!」

 「そんな事よりこれはどういう事なんだよ!?学校は!?みんなは!?」

 「………………」

 「なんかしゃべれ!」

 「……怒らない??」

 「怒るような事なのか!?」

 「……実は…、先程ご紹介した通りあたしは女神なんだけどぉ」

 「はぁ?」

 「この世界、アースガルドランドっていうんだけど、この世界がちょーっとぴーんちでぇ」

 「…………」

 「アナタの世界の人を召喚して救って貰おうと思ってぇ」

 「……まさか俺を召喚した訳??」

 「…………………」

 「何故そこで黙る」

 「実はぁ…………」




 「はあああぁぁぁ!?」


 森の中に七瀬の叫び声が響き渡った。


 「別のヤツと間違っただぁ!?」

 「うりゅー怒んないでぇ」

 「勇者になる人物を連れてくるはずが、間違って俺を召喚してしまっただとぉ!?」

 「………はいぃ。しかも降ろす場所も失敗したみたいでぇ」

 「……………どぉすんだよ……」

 「ごめんなさいぃ!」


リアは激しく何回も頭を下げた。


 「……事情は分かったよ、じゃあとっとと俺の世界に帰してくれ」

 「…………………」


 リアはすかさず七瀬から目を逸らした。その顔はとんでもなく汗をかいている。


 「おい」

 「ひゃいッ」

 「まさか帰れねぇなんて……言わねえよな??」

 「あははーマサカー」

 「じゃあすぐに帰してくれ」

 「……………れません」

 「え?」

 「目的が達成するまで帰れません!!」

 「はぁ!?てめふざけんなよッ!」

 「はぅー怒鳴らないでぇ」


 すかさずリアは耳を塞いだ。


 「俺は勇者じゃないんだろ!?だったら目的達成なんて出来ないじゃんか!!」

 「その心配は無用です!あたしがまたちゃんと勇者を召喚してきますから!」

 「余計心配だっつの!!」

 「任せてください!こう見えてあたし女神ですから!」


 とリアは右手を拳にして自らの胸を叩いた。


 「てめぇ頭にいく栄養分胸にとられてんじゃないか!?」


 七瀬はさすがにイライラを抑える事が出来ず、リアの豊満なおっぱいをこれでもかと揉みしだいた。


 「ひゃんっ!?やっ…やめてぇ……はんッ!?あんッ♡」


 リアは身悶えしてその場にへなへなと倒れぴくぴくしていた。




 「…とにかく、リアが勇者を召喚してそいつに達成させるから、オレはとりあえず生き抜いてればいんだな?」

 「……はいぃ…はぁはぁ…んッ…勇者…だけでなく……その仲間たちも……召喚…する予定なので…ふぅッ……そのパーティに入っていれば……問題はないはずです……」


 リアはまだ身体をぴくぴくさせながら言った。

 

 「たくぅ……んじゃさっさとよんでこいよ?」

 「分かりましたよぅ!あ、それとあたしはこの世界の人間の願いを聞き入れてるだけなので、あなた達の助けをしたりこの世界に直接の干渉はできません。神法の決まりなので」

 「………使えねぇ」

 「何か言いました!?」

 「何も。わーったよ、さっさと行ってこーい!」

 「それでは!頑張って下さーい!」


 りは能天気にそう言うと、また激しい光と共に消えていった。


 「はぁ……いきなり異世界なんて言われてもなぁ。あっおいっ!こんな所に置いていくなー!!!」


 七瀬の異世界生活は波乱の幕開けたった。


 

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