日常の中の解放 その3

『おはようございます』

そう言って店内に入るとおはよう、と返ってきた。

着替えて店に立つとお客さんはいない。

『オーナー、私雨女ですかね?』

「うーん、というか今年の梅雨がねぇ…。」

そう話しているとまたまたお客様がきた。

カウンターへ案内すると読書を始めた。

『お客様、今日はお勉強しないんですか?』

思わずそう尋ねると

「あぁ、あれ、テスト近かったからやってただけなんだよね。」

そう苦笑して言う。私と同じじゃん。

「ふふ、若いねぇ。」

そう言うオーナー。

「あ、でも俺そろそろ受験勉強しないとなぁ。」

『大学ですか?』

「うん、志望校はあるんだけど指定校推薦、貰えるか微妙なんだよね。」

そう言うお客様。

『でも、志望校あるの凄いです。私はまだ何も決めてないですもん。』

「俺もさ、普段はやんちゃしてるからあんまり先生方からの印象よくないと思うんだよね。だから勉強と課題で内申点とるの。」

そう笑いながら言うお客様。

「根拠はないけどきっと大丈夫だよ。」

そう微笑みながら言うオーナー。

「ほんとですか?指定校、貰えるといいなぁ…。」

そう言ってコーヒーを飲むお客様。というか、やっぱり私より1つ上だったんだね、と思った。

『って、あ!』

「ん?どうしたの?」

私は驚いた。

『お客様の読んでいるその本!それ、めちゃくちゃ良くないですか?』

「え、お姉さんもこの人知ってるの?」

『はい!ファンで、昨日早速買いに行っちゃいました!』

そう、お客様が読んでいた本こそ私が昨日なくなく読むのを辞めたあの本だったのだ。まぁ、今日来る時にも読んでたけど。

「うわぁ、嬉しいな!この作家さんの話できる人ってあんまりいないから。」

『わかります!そんなにその本読んでいる人居ないですよね。周りには。』

ニコニコしながら話しているとオーナーが

「え、2人とも趣味いいねぇ。僕もその作家さん好きなんだ。」

と言ってきた。やっぱり!この本いいですよね、と3人で長い間語ってしまった。仕事という仕事をあまりしていなくて後ろめたく思う。

「はは、いいよ。雨の日はあまりお客様も来ないし好きな作家が被るなんて凄いじゃないか!」

そうオーナーに言われたのでよしとしよう。休憩中も作家さんの話をしていたり楽しかった。

「でもさ、それだけ熱心に語れるってすごいことだと思うよ?」

そうオーナーがお客様に向かって言う。

「いや、これは好きな物だし語れる人が今まで居なかったからたまたまですよ。」

そう謙遜するお客様。そうかな、とオーナーが言う。

「そういえば若者たちは土日は暇なの?」

そう話題を変えてくるオーナー。

『暇も何もほとんどバイト入ってる私にそれ言います?』

そう笑いながら答える。

「俺は暇といえば暇ですね。」

「そっかそっか。」

ニコニコしながらそういうオーナー。なんなんだ。

『なんでですか?』

そう聞くとオーナーが笑いながら

「いやね、君たちが揃うのって土日が多いな、って思ってさ。」

と言われた。そうかな、と重いながら顔を見合わせる私とお客様。

「まぁ、頑張ってね。いろいろと。」

意味深げに言うオーナー。時々分からないことを言うオーナー。難しいです。

そう思っているとオーナーがコーヒー淹れる練習しよっか、と言われたので頑張った。

『難しいです…。』

やっぱりオーナーは教え方が上手いが理解はできても実践できない。むぅ、と言いながらも自分が淹れたコーヒーを飲む。

すると

「お姉さんてコーヒー入れられるの?」

『…はい、まだまだオーナーよりは全然なんですけどね。』

「え、淹れてみて!飲んでみたい!」

そう言われてとても驚いた。オーナーを見ると笑顔でいいよ、と言ってくれた。

まずアルコールランプを用意しておき、フラスコの底に水が着いていたら拭き取っておく。あたらしいフィルターの糊をお湯で綺麗に落としてからセットする。フラスコにお湯を配分より少し多めに注ぎランプで一気に温める。ロートを斜めにセットしてオーナーが挽いたコーヒーの粉をいれる。温度が上がったらロートを真っ直ぐにしてフラスコを密閉する。お湯がロートまで昇ったら1~3回ほど軽く攪拌しタイマーをセットする。ランプを弱くしてタイマーがなるまで待つ。時間になったらまた3~8回ほど攪拌をする。撹拌したら火を消してコーヒーを落とす。とりあえずこれで完成だ。フラスコからカップに移してお客様にお出しする。

「美味し〜。」

ほわ、っと笑うお客様。

『なんか、違うんですよね。オーナーと。』

「ふふ、そりゃ違うよ。まだまだ練習してぎこちなさをどうにかしようね。」

そう笑いながら言うオーナー。

「でも、ほら。お客様は喜んでくださったよ?」

『うぅ、ありがとうございます…。』

ちょっと恥ずかしいけど素直に嬉しい。

その後は片付けをしてオーナーが淹れてくれたコーヒーを飲んだ。美味しいなぁ…。1年以上バイトしてるけど未だに難しい。

今日も閉店まで仕事をしてお疲れ様です、と帰る。

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