日常の中の解放
1週間カフェで勉強をして家に帰り復習をして寝る、を繰り返してテストの日になった。結局お客様は来なかった。
テストの日は基本的に午前中に終わるので次の日のテストの教科書を持ってきてまた勉強をする。
カラン、と音を立てて店内に入るとお昼時だからかそこそこお客さんが座っていた。
「今日も勉強かい?」
そう、お客さんの1人に聞かれた。
『はい、今日から4日間テストなんです。』
火曜から金曜までのテスト。めんどくさいが勉強をするのがそこまで苦ではないのでまだマシだ。
サラサラとペンを動かしていると
「そうだ、これ」
と紫苑さんがサンドイッチを持ってきてくれた。
「あちらのお客様からのサービスだって。」
そう言って目を向けると先程のお客さんがパチ、とウインクしてくれた。
え、私めちゃくちゃ可愛がられてるじゃん。素直にそう思ってしまった。
『え、いいんですか?』
「頑張っている学生には、ね?」
紫苑さんと同じようなこと言っているな、この人。なんだろう、このカフェ顔面偏差値高いんだよね。高いのは顔面偏差値だけじゃないけどさ。オーナーがイケおじだからかな?お客さんたちもイケおじやマダムが多い。
『うぅ、ありがとうございます。勉強、頑張ります!』
「うん、がんばれ!」
そう言って有難くサンドイッチを食べてからまた勉強を開始する。テストが終われば夏休みまであと数えるだけ。夏休みは何をしようかな、と思いながら休憩をして勉強をして、を繰り返した。
次の日もテストが終わりカフェに行こうと思ったのだが教科書を忘れていたことに気づいた。今日の朝は雨が降ると思わず寝坊してしまったのでリュックの中を確認せずに家を出てきてしまったことが仇となった。
急いで家に帰りついでだからと着替えてバイト用のリュックの中にお財布やタオル、明日のテストの教科書とノートをいれて背負う。洗濯物を取り込んだり干したりしてから外へ出る。もう14時30分を過ぎていたので少し急いでカフェに行く。落ち着いた雰囲気で家にいるより勉強が捗るのだ。
カラン、と音を立てて入るとそこにはあのお客様がいた。
「いらっしゃい、今日はちょっと遅かったね?」
そう紫苑さんに言われる。
『教科書持ってくるの忘れてて。』
そう言うと少し笑われた。
今日もいつものところで勉強していると紫苑さんが私とお客様にそれぞれティーとコーヒー、サービスだよ、とチョコレートケーキを出してくれた。
「勉強してる時って甘い物食べたくならない?」
そう紫苑さんがお客様に言う。
「なります!俺燃費悪いから余計なっちゃって。」
『甘い物食べながら休憩するのってなんか楽しくないですか?』
「わかる!カフェで、って言うのがまたいいよね。」
『ですよね!』
と話が盛り上がってしまう。
「2人とも若いねぇ。」
そう言いながら微笑み、カチャカチャと洗い物をしている紫苑さん。
その後はお互いに会話をせず勉強に励んだ。
いつものように閉店まで勉強をしてお会計をさせて貰えず帰路に着く。その日はちょうどお客様も一緒に帰った。
「お姉さんもこっちなんだね。」
『お客様も。』
そう言ってクスクスと笑い合う。距離は2人とも傘をさしているのでそこまで近くも遠くもないが何だか心地いい。
同じ電車に乗り私の最寄りに降りる。
では、と言うとまたね、と返ってきた。
傘をさして家に向かう途中になんでお客様は私の事を〝お姉さん〟と呼ぶのだろう。タメ語だし多分お客様のほうが私より上なはず…、そう考えながら家に帰る。毎日毎日繰り返している帰宅したあとのルーティーン。やっとベッドの中で落ち着くとあと2日もテストがあるのか、とちょっと落ち込む。
次の日もその次の日もお客様はカフェに来なかった。
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