この世の中は人が人を助けるという大事な事を忘れ、心を閉鎖してしまっている
@tanaka-ss
第0話
人を信じることは難しい・・・。
私の名は田中。
特に何の変哲も無い人畜無害な男だ。
今回は私が体験した少し不可解で面白おかしい話をしようと思う。
何の変哲も無い町「ななし町」。
今日も何事も無くいつもの日常が流れていく。
・・・っと思っていたのだが、町の中心にある商店街が妙に騒がしい。
どうやら商店街の中にある宝石店「プリンセス」に強盗が入り立てこもったらしい。
しかもたまたまその近くを歩いていた小学生の優斗君を人質にとられてしまっている。
既にプリンセスの周りには警察や野次馬達が取り囲んでいた。
TVやドラマだったらここで特殊武装をした部隊が派遣されるものだが、
その様子は全く無い。
恐らく人口の少ない田舎でナメられているからだろう。
近所の交番勤務の徳田さんがプリンセスの中にいる者に大声で呼びかけている。
「かれこれ二時間になります!いい加減諦めて出てきなさい!!」
立てこもって30分ぐらいは犯人も対応していたが、
それから40分程経った頃から返事をしなくなった。
犯人の要望はpm14:00ちょうどになったら、
現金1500万円を持ってそこに立っていろとのことだったのだが。
田中さんは14:00前には、既に声をかけている。
今時計の針は14:05分を指している。
一体どういうことだろう。
それから30分が経過し緊張感がさらに増してくる。
息子の危険の知らせを受けて、
優斗君のお母さんの「町子」さんが心配そうに建物の中を見つめている。
「優斗・・・、何でこんな事になったの・・・。」
きっと町子さんはまともな精神状態ではないだろう。
町子さんの旦那さんは優斗君が小学生になる前の三年前の冬に他界。
今は町子さん一人だけでスーパーと工場のパートを掛け持ちしながら育てているのだ。
そんな町子さんを他所に、先程から見るからに怪しい挙動不審な男が周りをウロウロしている。
あまりにも行動がおかしいので、近くにいた推定60代中盤の女性に尋ねてみた。
どうやらその女性は「近藤」さんという方で、
最近定年退職して隠居しようと貯金を崩し、
ななし町に一軒家を購入して隣町から引っ越してきたらしいのだ。
近藤さんの話によれば、その怪しい男は隣町では有名らしく、
名を「影山」といい、いつも夜な夜な町の中をぶらついているという。
影山は眼鏡を光らせ、ぶつぶつと呟きながら時折ニヤけたりしている。
どう見ても怪しい。
ここで徳田さんに相談してもいいが証拠が無い。
ここはもう少し考えてからにしよう。
それからさらに三十分経過した。
徳田さんは定期的に声をかけ続けるが未だに犯人の返事はない。
しつこいようだが、これがTVやドラマなら今ごろ特殊部隊が突入の準備を追え、
行動に移している頃だろう。
しかしここまで何も返事が無いのは本当におかしい。
まさかとは思うが、優斗君は既に・・・・。
考えれば考えるほど不安になるので、とにかく聞き込みを続けた。
帰省でななし町に帰ってきている増田さん夫婦。
犬の散歩をしていた細川さん。
近くのスーパーの前で談笑していた奥田さんと佐藤さん。
多くの人に尋ねたが、結局確かな情報は得られなかった。
それでも諦めず続けていると、ここでようやくそれらしいものを得る。
近くの公園で遊んでいたにいた5歳ぐらいの子供達だ。
その子らが言うには、怪しいと思っていた影山が、
昨日もここをウロついていたらしいのだ。
間違いない。
影山は犯人とつながっている!
きっと夜な夜な隣町からやって来てこの辺の事を調べていたのだろう。
そして、町子さんが働きに出てる間に優斗君が、
一人で商店街で買い物している事も調査済みということだったのか。
私は頭の中で上手く話がまとまったので徳田さんにその旨を伝えようと思った瞬間、
ここにいる誰もが予想しなかったことが起こった!
なんと今になって犯人がプリンセスから出てきて土下座して謝罪してきたのだ。
話によれば、犯人は約束の14時まで退屈だったので昼寝してしまっていたのだという。
そしてその間に優斗君は裏手から逃げ出してしまったのだ。
その後、返事が無かったのは不安になり出て来れなかったとの事だったのだ。
なんて間抜けな話だ。
私の時間を返してほしいぐらいだ。
数分後、優斗君は普通に自宅にいるのを発見された。
彼からすれば、ほんのお遊び程度だったのか、普通に帰宅してTVを見ていたらしい。
怪しんでいた夜な夜なウロウロしているという影山さんは、
最近流行しているスマホのアプリ「バクっとモンスター」というゲームに夢中になっているらしく、
偶然このななし町がレアモンスターのスポットだったのだそう。
今回の事件の発端は犯人の住んでるアパートの家賃が払えなかったからだとの話だ。
ここ最近で流行りだした、新型ウイルスの影響で失業してしまい、
お金に困ってしまっていたのだ。
なんとも拍子抜けな終わり方だが、今回の事でよくわかったのは、
世の中本当に根っこから悪い人間などいないということだ。
疑うことも大事だが、人を信じることを忘れてはならないのだ。
この事件をきっかけにして、
私は人を信じる事を忘れずに生きていこうと思う。
この世の中は人が人を助けるという大事な事を忘れ、心を閉鎖してしまっている @tanaka-ss
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