第13話 試験決着!
そして、リリスが悲鳴を上げた。
「刀夜!」
大きくしゃがみこんだゴーレムが、ダイナミックに跳躍してきた。
その迫力に目を奪われる間に、ゴーレムは空中で高く足を上げ、腰をひねり回した。
「空中回転蹴りぃ!?」
『巨体の世界観を無視していますね』
俺は、足元のスクードを解除して、真下にクイックを入れた。
リングに着地した俺らに、エクが提案した。
『あそこまで機敏だと逃げ回るのは得策ではありません。私で直接戦い、足止めすることをオススメします』
「あんなデカブツと戦えってかよ!」
いくら聖剣と天術が強くても、心理的な圧迫感、恐怖感は拭えない。
身長10メートルの巨人と肉弾戦をしろと言われて、はいそうですか、とは言えない。
『これでカッコイイところを見せればリリス様がご褒美にパンツを見せてくれるかもしれませんよ』
「なんですと!?」
「見せません!」
『大丈夫です。エクちゃんが古今東西ありとあらゆる虚言甘言権謀術数を張り巡らせ理論武装で解き伏せねじ伏せ違法スレスレどころかベンタブラック級のドス黒い方法を使ってでもリリス様のおパンツをゲッツしてみせます』
「よっしゃいくぜぇ!」
「行かないでぇえええええええ!」
俺の身を案じて『行かないで』と引き留めてくれるリリス。なんていい子なんだろう。この子のためにもゴーレムを食い止めてやる。グフフフフ。
「さぁ来いゴーレム! 勇者刀夜様が相手だ!」
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
岩石ボディの関節をこすれ合わせる音で吠えながら、ゴーレムは標的を俺に定めた。
巨岩の拳を振り上げると、虫けらを潰すように振り下ろしてきた。
「スクード!」
頭上に半透明の障壁を張りガード。その隙に、ゴーレムの足元に潜り込み、足首を斬りつけてやる。
地面をスコップで抉るように、岩の表皮を削り取った。
「よし! 聖剣は魔法じゃないから弾かれない!」
『ですが、効果が薄いですね』
「体の大きさが違うからな。剣身が根元まで刺さっても画びょうを踏んだ程度だろうな。どうする?」
『ここは、セイクリッド・バーストでぶっ飛ばしてしまいましょう』
「あれか、どはぁ!?」
ゴーレムのローキックが、リングの表面ごと俺を薙ぎ払おうとした。
スクードで防ぎながら、背後にクイックして回避した。
上空で、トニーがせせら笑ってくる。
「ははは、いいざまだな。逃げろ逃げろ」
「ちくしょう! 高みの見物かよ!」
『刀夜様』
歯を食いしばる俺をなだめるように、エクが冷静に解説し始めた。
『ケルベロスに使用したセイクリッド・ブレイドは斬撃系の技。威力が高い反面、巨体には効果が薄い弱点があります。しかし、面制圧系の技であるセイクリッド・バーストは破壊力の代わりに、対象をぶっ飛ばし地面に叩きつける効果があります。あの巨体をリングまでホームランしてください』
「よし、やってやる!」
俺は練習通り、エクを頭上に掲げた。
ゴーレムは俺に向き直ると、腰を落として右手をリングにつけた。まるで、ラグビー選手のスタートポーズだ。
『では刀夜様、強い思いを込めて私を振るってください。想いの強さで引き出せる天力量も変わります』
「おう! 俺はリリスを守る。そして、リリスを魔王にするんだ!」
――そして、そのおまけとしてリリスとエロいことができてしまってもそれは不可抗力だよね!
ゴーレムが加速して、突貫してくる。
俺はエクを振り下ろして叫んだ。
「セイクリッド・バーストォオオオオオオオオオ!」
エクの剣身から、金色の激流が迸った。
質量すらともなう光の束は、俺のリリスへの熱い想いと下心を乗せてゴーレムの胸板に激突。
ゴーレムの勢いは完全に殺された。
セイクリッド・バーストの怒涛の勢いに抗い、ゴーレムはその場で押とどまる。
その背後で、ケルベロスにまたがったトニーが空中から罵声を飛ばしてくる。
「んだよ情けねぇぞゴーレム。さっさとそんな低能潰しちまえよ!」
まるでゴーレムの主気取りだ。
けれど、その邪悪な応援のせいか、ゴーレムは光の本流に抗えず、まるで突風に巻き込まれた藁人形のように持ち上がり、吹き飛んだ。
背後のトニーが慌てる。
「なっ!? ケルベロス! 逃げヒックッ」
——そういやエクの呪いで毎日しゃっくり出るんだっけ?
逃げヒック、というわけのわからない指示にケルベロスの三つ首が当惑する間に、ゴーレムの巨体はトニーと衝突。
トニーごと、ゴーレムはリングの外に放り出された。
ずずーん、という轟音を鳴らしながら、ゴーレムはトニーを下敷きにしてグラウンドに沈んだ。
そして、厚い胸板にひびが入った。
「え?」
ゴーレムは砕け、ガラガラと音を立てながら、むしろ、砂の城のようにザラザラと音を立てながらその身を崩した。
エクがドン引きした声を上げた。
『まさかリリス様のおパンツ効果でこれほどの威力を出すとは』
「ちょっ、そういうこと言うなよ。それより先生すいません。先生のゴーレムが!」
使い魔を殺してしまったかと、俺は焦りまくった。
けど、クロエ先生は涼しい顔だ。
「安心したまえよ。あれは外装だ、本体は無事だよ」
クロエ先生がウィンクを飛ばすと、瓦礫の中から、赤ちゃんサイズの小さなゴーレムが飛び出して、無事を伝えた。
「しかし、まさかゴーレムを倒してしまうとは、驚いたよ」
「そ、そうだ先生、ゴーレムがいなくなったら、どうなるんですか?」
リリスの問いに、クロエ先生は口角を上げた。
「どうなるも何も、規定がないからね。そのまま試験が続くだけだよ。制限時間が終わるまでね」
俺とリリス、そして、クラスメイトたちは顔を見合わせた。
『それって、つまり……』
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