第12話 クラス代表選抜試験開始!

 生徒が全員リングに上がると、クロエ先生が声を上げた。


「では、これより、クラス代表選抜試験を行う! 試験、開始だ!」


 試合開始のブザーが鳴ると、ゴーレムの眼が光った。


 3Dモデリングからエクが推定した通り、身長は約10メートル、体重は200トンもありそうな岩の巨人が、いきなり全力疾走をかましてきた。


「リリス!」

「うん!」


 打ち合わせ通り、リリスに肉体強化魔術をかけてもらいながら、俺は背中のエクを引き抜いて、【パンツァー】を使用した。


 エクから溢れる天力が、俺の全身を隅々まで覆い、鎧のように守ってくれる。


 同時に、左腕でリリスを抱き寄せながら、頭上目掛けて【クイック】を使った。


 足元から天力が噴射されて、俺はブースターを身に着けたように、頭上へ加速した。


『■■■■■■■■■■■■■■■■』


 岩同士がぶつかりこすれ合う轟音で吠えながら、ゴーレムはボディスライディングをかましてきた。


 俺とリリスの真下を通り過ぎて、ついさっきまで俺らの立っていた場所を胸板で削りおろした。


「うっお、大迫力!」


 空気越しにビリビリと伝わる振動と風圧に肌をなでられながら、驚嘆の声が漏れた。


 俺があそこにいたらと想像するだけで、寿命が縮まるような想いだった。


 上空100メートル地点で、俺は天力の盾【スクード】を足元に展開した。


 俺とリリスは、空中の足場に立ったまま、眼下の惨状を見下ろした。


 ゴーレムは、巨体に似つかわしくない俊敏さでリング上を走り周り、転がり、ステップを踏んで華麗に暴れ回った。


 まるで、ブレイクダンスを踊る巨人だ。


 そして、巨人のステージに迷い込んだ小人たちは、悲鳴を上げながら逃げ回った。


 中には、錯乱して炎球や雷球を放ったり、使い魔に水流を吐かせる生徒もいた。


 けど、そうした魔法攻撃はすべて、岩石の表皮に触れた途端、ゴムボールのように跳ね返ってしまう。


 自分で自分の魔法攻撃から逃げ回る姿は哀れだった。


 トニーに、リリスを攻撃するよう言われていた面々だけど、みんな、自分の身を守るのに精いっぱいだった。


 とてもじゃないけど、リリスを蹴落とす余裕なんてない。


 そんな中、みんなも俺らの真似をして、空へ逃げる。


 風の魔法か、直接浮遊する魔法か、とにかく、それぞれ空へ逃げてくる。


 対するゴーレムは、両手を空に向けると、手首を落とした。


 手首の切断面には砲口のような穴が口を開けていた。


 やろうとしていることを察して、俺は、足場であるスクードを直径4メートルぐらいまで広げながら、リリスと一緒にしゃがみこんだ。


 炸裂音が拡散して、特大の花火が打ち上がった。


 ゴーレムの砲口からは散弾銃の無数の燃える礫が放たれ、空の生徒たちに容赦なく襲い掛かった。


 みんな、それぞれの魔法で攻撃を防ぎながら悲鳴を上げた。


 中には、防ぎきれず、墜落する生徒までいた。


 俺とリリスは、スクードがゴーレムの砲撃を完全に遮断してくれていた。


 限りなく透明に近い障壁越しにみる紅蓮の炎と飛び散る岩石は大迫力だった。


「天術って凄いな。俺、マジで戦えてんじゃん!」


 俺は、つい数時間まで、本当にただの高校生だった。


 なのに、今ではテレビでしか見たことのない法術兵や、法術スポーツマンも真っ青の魔法を行使している現実に、興奮が抑えられなかった。


「本当に凄いよ刀夜。かっこいい!」


 リリスにかっこいい、なんて言ってもらえると、ますます嬉しくなってしまう。


 俺の人生において、女子から、それもこんなイイ子に褒められる瞬間が訪れるだなんて、思ってもみなかった。


 なのに、その最高の気分を台無しにする、苦々しい声が割り込んできた。


「テメェ、命令破りやがったな! 試合開始と同時にリングアウトっつっただろうがボケ!」


 ケルベロスにまたがるトニーが、眉間にしわを寄せて傲慢に叫んだ。


 ケルベロスは四本の足から炎を立ち昇らせ、地上と変わらない足運びで空を駆けていた。


「くたばれよド低能! ケルベロス! ヘルフレイムだ!」


 トニーは、俺らと同じ高度まで上がってくると、ケルベロスに命令を下した。


 三つの頭が、獰猛な口を開き、咆哮をあげるようにして、灼熱の炎を吐き出した。


 黒色が混じり、粘り気を感じさせるドロドロとした、三本の炎が、殺到してくる。


 俺は、まだスクードは一枚しか張れない。


 咄嗟にリリスを抱き隠し、トニーに背中を見せながら、パンツァーでリリスも覆った。


「キャッ!」


 リリスが悲鳴を上げる。

 視界が真っ赤に染まる。

 パンツァー越しに、わずかな熱を感じるも、それだけだ。


 熱風が収まると、自分の体を確認するが、まったくの無傷だった。


「おぉ、パンツァーすげぇ!」


 リリスも、目を丸くして驚いている。


「嘘だろ!? ケルベロスのブレスが効かない!?」


 トニーのコワモテが、驚愕に染まった。


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 本作【ダサメンの俺が勇者で魔王の眷属 聖剣を使って彼女を魔王ロードに導きます!】を読んでくれたありがとうございます。

 本作につけられた評価、★の数が100を突破しました。

 106★です。皆様、ありがとうございました。

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