第11話 エクちゃん(聖剣)のチュートリアル

 選抜試験が始まるまでの待ち時間中、俺はリリスと一緒に、校舎裏の草むらに来ていた。


『では刀夜様、これからエクちゃんのチュートリアルを始めます』


 相変わらず、無感動な声音でふざけたことを言う聖剣に、俺はツッコんだ。


「それはいいけど、ちゃん言うのやめろよな……」

『何をおっしゃるのですか刀夜様。ワタシを見て下さい』


 手に握るエクスカリバーの剣身を、じっと見つめて見た。


『ほら、エクちゃんと呼びたくなって来たでしょう?』

「それは可愛いって意味でか?」

『他になにがあると?』

「ついてけねぇ……」


 俺はげんなりと肩を落とした。


「それでエクちゃん、どうしたら刀夜は強くなれるの?」

『流石リリス様、素直な人は好きですよ』

「わかったから、エク、チュートリアルを始めてくれ」


『まぁいいでしょう。ではまず、敵ゴーレムは推定身長10メートル、推定体重は200トンです。このゴーレムのパンチを受けた場合、刀夜様は一撃でイチゴジャムになってしまいます』


「表現が具体的だなおい」

『魔族の体には防衛魔力と言って、魔力を消費することで体を守る機能があります。先ほど、ゴキブリに一億ボルトの電撃をお見舞いしても死ななかったのは、そのためです』


 言われてみると、普通なら即死だろう。


「でも、わたしの眷属になったから、今は刀夜にも防衛魔力が働くはずだよ」

『残念ですが、刀夜様の霊力量が残念すぎるので、残念な結果になるでしょう』

「いまさりげなく馬鹿にしなかったか?」

『おや、自覚があるのですね。賢い刀夜様にはあとでおっぱいを見せてあげます』

「お前剣だろ!」

『はい、だからリリス様が見せてくれます』

「なんですと!?」

「見せません!」


 脊髄反射でリリスへ振り向くと、キツめに怒られてしまった。怒った顔が可愛いとか俺のご主人様無敵かよ。


 おまけに、巨乳がプルプルと揺れている。


 俺を召喚したのがリリスで良かったと、心底思った。


『そこで、刀夜様に習得して頂きたいのは天術です』

「魔術でも法術でもなくか?」

『はい。まず、聖剣とは何か、という話ですが、手っ取り早く説明すると、バッテリーで変換器でチェーンソーです』

「なんでお前チェーンソーとか知っているんだよ?」


『エクちゃんはこの世の全ての知識が収蔵されている異次元空間、アカシックレコードから世間一般的な常識を得ることができるのです。なので思春期男子がみんなデバイスのお宝フォルダにエロ画像を100ギガバイト分もため込んでいることも知っています』


「んな奴いるわけねぇだろ!? リリスは距離を取るな! 寂しくなっちゃうだろ!」


 リリスは赤く染めて頬に手を当てながら、もじもじと俺の顔色を窺っていた。


『脱線から本線に戻りますね。人間が霊力を、魔族が魔力を持つように、聖剣であるワタシは天力という種類のエネルギーを持っています。この天力を用いて起こす超自然現象を天術と呼びます。効果は魔法と同じですが、魔力に対して強い力を発揮するので、この学院では優位を取れます』


「でも俺、魔法の勉強なんてしたことないぞ?」


『ご安心を。そこは私が補助するので、刀夜様は使おうと意識を持つだけで大丈夫です。筋肉を動かすのと同じです。方向キー+Bボタンの簡単操作で大乱闘バトルです。私のマイキャラはルイ●ジです。強いですよ』


「どこでやったんだよ!?」

『なのでワタシは天力のバッテリー。刀夜様の霊力量が残念でも問題ないのです』

「お前あれなの? 俺を馬鹿にしないと喋れないの?」

『お詫びにあとでリリス様がエッチな下着を身に着けてくれるからいいではないですか』

「なんですと!?」

「着ません!」

「ちぇっ」


 俺が残念がると、リリスは頬をふくらませながら、拳をぐりぐりとわきばらに押し当ててくる。


 なんて可愛い攻撃だろう。癒される。


「それで、チェーンソーで変換機ってのは?」


『はい。チェーンソーは回転させなくても刃が鋭く、斬りつければダメージを与えられます。ですが、刃を回転させれば、さらに大きなダメージを与えられます。同じように、ワタシはそのまま使っても強いですが、天力を励起させ、剣身にまとうことでさらに威力が上がります。また、刀夜様の霊力を天力に変換することでもできるので、将来的に刀夜様の霊力が残念でなくなれば、ワタシはさらに飛躍することができます』


「ここまで辿り着くのに随分かかったな」

『まったく、誰のせいですか?』


「お前だよ……でもわかった。要約すると、お前は凄い剣だけど天力を使うことで威力が上がって、俺の霊力を注ぎ込めばさらに強くなる。そんでお前を握っていれば、俺は天術を自由に使えて、お前の天力が底を尽きても、俺自身の霊力を天力に変換することで天術を使えるってことだな」


『ご明察です』

「将来、俺の霊力が増えてからの話だけど、お前の天力と俺の霊力を交代で使えば、長時間戦えるんじゃないか?」


 ゲームなんかだと、MPは宿屋に一泊しないと回復しない。でも、現実の霊力や魔力は体力と同じで、数分から数十分も休めばだいたい回復する。


『賢いですよ。流石はバトル漫画やアニメの氾濫した現代っ子。歴代勇者様たちもそうやって戦っていました』


「それで、その天術ってのはどんなのがあるんだ?」


『はい、まずは基本的なものから。刀夜様に今日覚えて貰いたいのは四つ。【パンツァー】と【スクード】と【クイック】、それに【セイクリッドバースト】です』


 エクはビジネスライクにそう言った。

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