第8話 魔王族御三家


 教室中の生徒をなめまわすような声で言い含めてから、トニーは俺の席の前に立った。


「おい下民、お前、武芸の心得は?」

「……ねぇよ。俺、普通高校の学生だし」

「ははっ! やっぱ素人かよ! ならテメェ、どうやってゴーレム相手に立ち回る気だよ勇者様。さっきはラッキーパンチでたまたま聖剣の刃が当たったようだが、ゴーレムの巨体には効かないぜ。戦いに勝つのは、より多くの引き出しを持つ奴だ。聖剣を振るだけの素人が勝てる世界じゃねぇ」


 言われてみると、3Dモデリングを見る限り、ゴーレムの身長は10メートルはありそうだった。


 聖剣でガードしても、そのまま場外までぶっ飛ばされそうだ。


 ていうか、即死だろう。


「その点、オレは俊敏を誇るケルベロスの背中に乗って、華麗に攻撃を避けながら、多彩な魔術でゴーレムを翻弄して、雑魚の平王族共を蹴散らせるぜ。リリスみたいな低能とかなぁ」


 トニーの言葉で、リリスは金色のまつ毛に縁どられた青い瞳を伏せた。


 偉そうな態度以上に、彼女を貶めることに、俺は腹が立った。


「お前、さっきから聞いていれば雑魚だの平だの低能だのなんでいちいち他人を下げんだよ。どこの何様だ?」

「御三家様だよ!」


 親指で自分の胸を突いて、トニーは上あごの歯が丸見えになるほど口角を上げた。


「だから御三家とか知らねぇし」


「はんっ、無知蒙昧なテメェに教えてやるよ。御三家は歴代魔王を輩出してきた名門中の名門だ! 真祖の血を特に色濃く受け継ぎ、生まれながら絶大な魔力を持つ魔族のエリート。同じ王族でも、テメェのどうしようもない主人のリリスとは生まれついての格が違うんだよ!」


「相変わらずの七光りだな」

「何を言われても、持たない奴のヒガミにしか聞こえねぇよ。悔しかったら死んで生まれ変われよ。もっとも、テメェやリリスが死んでもゴキブリに生まれ変わるのが関の山だろうけどなぁ! 平でもせっかく王族に生まれたんだ。せいぜい底辺としての役目を全うしながら生きろよ!」


 さっき、俺に負けたのがよほどムカついているんだろう。復讐とばかりに、これでもかと暴言を吐いてくる。


「おいリリス。お前、試合開始と同時に場外に飛び出せよ。そんで、史上最短記録を作れ。そしたらさっきの無礼は許してやるよ」

「お前何言って――」

「使い魔は黙ってろ! オレは今、リリスと喋ってんだ!」


 俺の言葉を遮るように怒鳴ってから、トニーは冷たい声で、いたぶるようにしてリリスへ語った。


「アンフェール家なんて、今まで一度も魔王杯に参加したこともない低能中の低能。平王族の中でもさらに底辺の落ちこぼれだろ? なら、この学園には魔王になるためじゃなくて、有力候補に取り入るために入学したんだろ?」

「っ、そんなこと、わたしだって……」

「こいつで勝てると思うか?」


 健気に抵抗しながらも、声がしりすぼまりになっていくリリスに、トニーは尋ねた。


「こいつは聖剣に選ばれた勇者。魔族に有効な力を持っている。でも、こいつ自身はただの素人だ。そんな奴が使い魔で、この先四年間、この学院でやっていけると思うのか?」


 リリスの青い瞳が一瞬、俺を一瞥してから、申し訳なさそうにうつむいた。


「それは……」

「なら、やることはわかるだろ? これはチャンスなんだ。馬鹿な使い魔が暴走して御三家に働いた無礼を、お前の献身しだいでチャラにしてやろうって言うんだ。試験開始と同時に場外アウト。決定なっ」


 噛んで含めるように言いつけてから、トニーはぐるりと視線を巡らせた。 


「言っておくけど、お前らも同じだかんな。まさかとは思うけど、リリスに夢見ちゃってんじゃないだろうな? 勇者を召喚したリリスなら、初の打倒御三家を成し遂げてくれるかもしれないって」


 みんなの視線が、気まずそうに落ちた。


 その現状に、トニーの口元が邪悪に歪んだ。


「とんだ危険思想だな。オレが魔王なら不敬罪で死刑にしているぜ。じゃあこうしよう。選抜試験で、リリスに攻撃した奴は許してやる。そしてもしも、リリスを場外に落とすことができた奴は、無条件で俺の家来にしてやるよ。御三家の一角ベルゼブブ家の側近だ。当然、俺が魔王になった暁には、側近中の側近、四天王候補にしてやるよ。悪い話じゃないだろ? じゃあ、俺はケルベロスの治療に行くから、試験までに考えとけよ。まっ、考えるまでもないけどな」


 教室のドアに向かいながら、トニーは肩越しに言った。


「ははは、クラス全員が敵だ。これで選択肢はなくなったなリリス」

 



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 2500PV 150フォロー 92★ 121♥達成です。

 皆さん、ありがとうございました。


 感謝ページですが、一部から、本文が読みにくい、ナドの意見をいただいたため、省くことと致しました。

 私は【読者へ感謝主義】の作家なので、感謝ページもその一環でした。

 しかし、それで本文が読みにくく、作品を楽しみにくくなっては本末転倒です。

 けれど皆様への感謝は変わりません。

 読んでくれた人、フォローしてくれた人、★や♥をつけてくれた人、コメントをくれた人、皆さん、ありがとうございました。

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