第7話 大乱闘スマッシュゴーレム
俺の小声を耳ざとく広い、クロエ先生はウィンクをした。
――すげぇ地獄耳だな。
「そもそも魔王とは魔界最強の証。首席で卒業できていない時点で最強じゃないのは明白。なら、トーナメントに出場する権利がなくて当然さ。た、だ、し、卒業後にぐいっと成長した人やアクシデントで主席を逃した人のための救済措置はあるよ。首席卒業者じゃなくても、現魔王様の推薦を受けたり、特定の闘技大会で優勝することで、魔王杯の参加資格は得られる。とは言っても、どれも狭き門だ」
「なるほど」
「わかってもらえて何よりだよ。さてさて、そんな魔王学院でクラス代表になるメリットだけど、単純に主席を狙いやすくなるのさ」
キラリン、とクロエ先生は、ななめ45度のキメ顔で、眼を光らせた。
「学園の主席とは学年序列一位のこと。学年序列とは強さの序列のこと。序列を上げるには、各種試験やイベント、学園上層部からの仕事をこなすことで力を示せばいい。そして、クラス代表になれば、仕事を優先的に受けられる。つまり、強さをアピールする機会が増えるということだ。どうだい、クラス代表になりたくなってきただろ?」
クロエ先生が誘うような笑みを見せると、リリスは眉を引き締めて、青い瞳を凛々しくした。
他の生徒も、みんな真剣な顔になる。
このあたりの気持ちは、俺には推し量るべくもない。けど、凄く重要なことなんだろう。
「じゃあ試験の方法を説明するね。今年の選抜試験はズバリ、大乱闘種スマッシュゴーレムだ!」
クロエ先生がスマホに触れると、黒板代わりの大型液晶モニターが起動した。
画面では、わかりやすい3Dモデリング人形が、円形リングの上で暴れて、小さな3Dマネキンたちを場外に弾き飛ばしていく。
「ルールは単純。ボクの使い魔であるゴーレム君が巨大化して暴れるリング場に、最後まで立っていた人がクラス代表だ。それと、リングの上に居た時間で初期序列を決めるから、諦めずに一秒でも長く奮闘してくれたまえよ」
「そのゴーレム、倒しちまってもいいのか?」
無駄にドスを効かせた声にうしろを振り返ると、トニーが教室の出入り口近くに立っていた。
救護班に回復魔術をかけてもらっていたはずだけど、どうやら目を覚ましたらしい。
あれだけの醜態を晒しておきながら、両腕を組んで壁にもたれかかり、カッコをつけている。
「できるものなら、だね。でも、ボクのゴーレム君のアビリティは魔法反射だ。まず無理だろうね」
「ちっ、つまんねぇな。なら、他の奴をオレ自らが場外に落とすのはありか?」
先生に対してもタメ口を貫くトニーに、クロエ先生はニヤリと笑った。
「構わないよ。クラスメイトに落とされるような生徒は、どのみちクラス代表には相応しくない。でもトニー君、誰かを攻撃するということは、反撃を喰らうリスクもある、ということだぜ?」
ちょっとワイルドな口調で言い返されると、トニーは凶暴な笑みを浮かべた。
「言質は取ったぜ先生。つうわけで、覚悟しろよな、リリス」
トニーの暴力的な眼光に、リリスは委縮して、何も言えない様子だった。
すると、クロエ先生のスマホが電子音を鳴らした。
画面を確認してから、クロエ先生は言った。
「それと、当然試験は使い魔とのコンビプレイだ。うちのクラスはトニー君のケルベロスを治療する関係で、順番は最後に決まったよ。試験は二時間後。それまでに、自分の使い魔の特性を生かした戦術を考えてくれたまえ」
「今日召喚したばっかですよ?」
どうせ小声でも拾われるので、俺は思い切って普通に質問した。
「ノンノン、魔王は最強の証であると同時に魔界全土を治める支配者だ。初対面の使い魔程度、手足のように使いこなせなくちゃね。じゃあ、ボクは試験官として先にグラウンドに行っているよ」
笑顔を置き土産に、クロエ先生は軽やかに退室した。
トニーの脅しが効いているんだろう。
クロエ先生がいなくなると、教室はしんと静まり返った。
元気なのは、トニーだけだった。
「テメェら、聞いたな? 生徒同士でバトってもいいんだと」
教室中の生徒をなめまわすような声で言い含めてから、トニーは俺の席の前に立った。
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