第5話 爆乳美少女の胸ボタンが飛びました
「オ、オレのケルベロスが、うそ、だ……がく」
一億ボルトの電流のダメージか、現実逃避か、トニーはその場に倒れ、気を失った。
主人同様、ケルベロスも、倒れたまま動かない。
「ケルベロス、だいじょうぶか?」
「安心して。使い魔は、主人が生きていればよほどのことが無い限り死なないから」
俺の疑問に、リリスが答えてくれる。
「へぇ、じゃあ俺もよっぽどのことがなけりゃ死なないのか?」
「基本はそうだけど、危ないことはしちゃダメだよ」
小さな弟を心配するお姉さんのように、リリスは不安げな顔でたしなめてくる。
その表情に、キュンと頬が硬くなった。かわいい。
そこへ、周囲のどよめきが耳に着いた。
「おい、マジかよ。リリスの使い魔……トニーのケルベロスを倒しちまったぞ……」
「アンフェール家って、俺らと同じ平王族だろ?」
「いや、それ以前に、本物の聖剣ってことだよな? 勇者が使い魔ってありなのか?」
「在り得ないわよ。ほんと在り得ないわよあいつら!」
「勇者が使い魔とかリリスすっごーい!」
「ああ、本当だぜ。まさか御三家を倒すなんて、これはもしかすると、ひょっとするかもだぜ♪」
相変わらず、状況は良くわからないけど、みんな、俺に驚いているらしい。
こういう注目のされ方は初めてなので、ちょっと気分が良かった。
「黒城刀夜、だったね」
新たな声に呼ばれて振り返ると、目の覚めるような美少女が立っていた。
黒スーツ姿の彼女は、腰まで伸びた綺麗な赤毛と、白いシャツをハチ切らんばかりの爆乳が刺激的な一方で、小さなシルクハットを、頭の斜め上にちょこんと乗せたセンスが可愛くもあった。
眼鏡の奥で、紫色の大きな瞳を知的好奇心に光らせながら、彼女は俺の顔を覗き込んできた。
「人間の使い魔、聖剣のアビリティ、ふむふむ、君、おもしろいね」
眼鏡の位置を直しながら、美人さんは笑みを深くした。
グラビアでもお目にかかれないような爆乳眼鏡美少女に、俺は息を呑んだ。
リリスといい、彼女といい、魔族って美人が多いのかな?
「よしよし、君も突然召喚されて驚いているだろう。教室までの道すがら、ちょっとボクに説明させてくれるかな?」
「あの、貴方は?」
「これはこれは申し送れたね。ボクはクロエ・バフォメット、この魔王学院の担任で、リリス君の担任さ」
サーカスの団長が観客に話しかけるように愉快な口調で、クロエさんは首をななめに傾けてお辞儀をした。
「たん! にん!?」
美人の爆乳女教師なんて、AVみたいな設定に俺は生唾を飲み込んだ。
ていうか、てっきり生徒かと。
刹那、彼女の胸元からボタンが二つ飛んだ。
シャツの前が開いて、白いおっぱいの谷間と、黒いブラジャーのフロントホックが垣間見えた。
条件反射的に瞼は限界まで開いて固まり、俺は、飛んだ二つボタンが両眼を直撃しても微動だにしなかった。
「おや? おやや?」
クロエ先生は、むき出しになった谷間と、両目を血走らせる俺の顔を見比べた。
それから、目と口をニヤけさせながら、恥ずかしそうに頬を染めて一言。
「ふふ、勇者ってえっちなんだね。そのボタンは記念にあげるよ、男の子」
「俺の担任になってください」
気が付けば、俺はその場に膝を折り、かしずいていた。
「えっちなのはダメっ」
恥ずかしそうに、リリスは手で俺の眼を隠してきた。
でも、リリスに触れられるだけで、俺にはご褒美だった。
◆
魔王候補が通う学校と言うから、どれほど禍々しい、もしくは歴史と伝統を感じさせる古色蒼然とした場所かと思ったら、学校は最先端設備が完備されて、近代的かつ解放感溢れる場所だった。
ちなみに、聖剣は突然現れた鞘に納めて、今は背負っている。
そして、教室へ戻る道すがら、外側の壁がガラス張りの廊下を歩きながら、クロエ先生から聞いた話をまとめると、こういうことらしい。
史上初、魔界を統一した初代魔王を真祖様と呼ぶ。
この真祖様の血を受け継ぐ王族だけが入学を認められるのが、ここ魔王学院で、未来の魔王候補を育成する機関だ。
ちなみに、魔界は中学高校が四年ずつなので、17歳で高校一年生らしい。
一年生のリリスが俺と同い年なのは、そういうわけだ。
あと、一学校分も王族がいるのかと思ったが、強さを是とする魔界は多夫多妻制で、強い人は多くの伴侶を持ち子供を成すので、真祖の子孫は一万人を超えるらしい。
そして、入学者は、入学式の後に、使い魔召喚の儀式を執り行う。
使い魔とは、主人の手となり足となり働く従者だ。
儀式で召喚された存在は、アビリティと呼ばれる特殊な能力を獲得するだけでなく、主人から魔術的バックアップを受けることで、強力な戦力になる。
ただし、召喚されるのは、魔族と同じく魔力を持つ魔獣が普通で、極まれに、魔力ではなく霊力を持つ妖精や精霊が召喚されることもある。
けど、人間が召喚されるのは、前代未聞らしい。まして、聖剣の担い手である勇者なんて、もっと在り得ない。
校舎内の廊下を歩きながら、クロエ先生は眼鏡の真ん中を、指で持ち上げた。
「我々魔族が魔力を、君ら人間が霊力を持つように、聖剣は天力、という性質の力を持っている。この天力は魔力を分解、浄化する力があり、聖剣はその力をさらに増幅させるんだ。つまり、我々の天敵だ。魔獣ケルベロスを易々と斬り裂いたのも、その力の賜物だよ」
「へぇ、お前すごいんだな」
『そうです。ワタシは凄いのです。これからは毎晩寝る前にワタシを拝んでくれてもかまいませんよ?』
無感動な声で、尊大なことを言いやがる聖剣を無視して、俺は話を続けた。
「バックアップってなんですか?」
「一種の強化、エンチャント魔術かな。ただし、通常のエンチャント魔術が相手に触れる必要があるのに対して、使い魔には距離があってもそれが可能だ」
「つまり、俺がリングの上、リリスがセコンド席にいても、リリスは俺の身体能力を上げたり、炎や雷の力を与えたりできるってことか?」
隣を歩くリリスに尋ねると、彼女はこくんと頷いてくれた。
「うん。他にも、怪我をしたら回復してあげることもできるよ」
「逆に、主人が受ける怪我を代わりすることもできる。心無い主人は、振りかかる災害の全てを使い魔に押し付けたりもする」
「わたしはそんなことしないよっ」
クロエ先生の説明に、やや食い気味に割り込むリリス。
本当に、喋れば喋る程、いい子だなと思う。
食うこと遊ぶこと買うこととファッションやセックス、男から搾取することしか考えていない人間の女とはモノが違うね。(個人の感想です。人間の性質を保証するものではありません)
「ところで刀夜君。君、法術は使えるかな?」
クロエ先生の言う法術とは、人間が魂から生まれる生命エネルギー、霊力を使って起こす、超自然現象だ。
魔族が魔力を使って魔術を使うように、人間も似たことができる。
魔術と法術など、超自然現象を総称して、魔法と呼ぶ。
「いや、俺は使えないですね。魔族はみんなけっこうな魔力を持っていて、ある程度練習すれば誰でも魔術を使えるんですよね?」
「その通りだ」
「でも、人間は霊力の量に個人差が大きいし、法術を身に着けるのって凄く大変なんですよ」
一部の才能ある人は、それこそ子供の頃からヒーロー扱いだ。
中学を卒業したら軍学校や聖騎士学校、宗教学園に入学して、国の未来を担う、エリートの役職に就く。
「みたいだね。しかも、ボクらの魔力は、君らの霊力に対して有利な性質がある。魔術で受けた傷は治りが遅かったり、肉体にマイナスの効果を与えるデバフ魔法の効果をモロに受けたり。だから古来より、君らはボクらを恐れてきたし、ボクらも君らを脅かさないよう、人界には手を出さないようにしている」
「へ?」
意外過ぎる言葉に、俺はマヌケな声を出してしまった。
「あの、でも魔族の人身売買業者って人間を誘拐したり、ていうか、人間を滅ぼして大陸征服とか企んでいるんじゃないんですか?」
少なくとも、歴史の授業では、そう教わっている。
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【別作にて、あとがきが長く辛い、という指摘を受けましたので、やや短く】
エピソードに♥をつけてくれた
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ありがとうございました。
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