第2話 巨乳美少女がご主人様とか最高過ぎる!



 言って、リリスは前のめりになって、両手を芝生に着けた。


 彼女の愛らしい顔と、桜色の唇が迫った。


「へ?」

「んっ」


 ぷにっとやわらかいみずみずしい感触が、左の頬に触れた。


 それが、キスだと理解した途端、俺は目を剥いた。


 高鳴る鼓動。


 頬を中心に伝わる無限の多幸感と優越感。


 今なら、世界征服くらい軽くやれてしまいそうなほどの全能感が、全身を支配していた。


 リリスがくちびるを離すと、頬を紅潮させた、可愛さ百倍の彼女と目が合った。まるで、恋人同士のように。


「ふぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう!」


 絶叫しながら立ち上がる。


 なんか、なんかもう、力が漲り過ぎて何かが噴き出しそうだった。


 一方で、リリスは戸惑いの声を漏らした。


「え? え? あの、大丈夫? 何か目覚めた?」

「ありがとうリリス。もう漲り過ぎて鼻血が出そうだよ。でも、あれなんだな、魔族の子って積極的なんだな。ところで俺のどこがよかったんだ? 一目ぼれ?」


 リリスは、目をぱちくりとまばたきさせてから、ボンと音がしそうな勢いで顔を真っ赤に染め上げた。


「ち、ちが……あのね、今のは使い魔契約の儀式で、魔族は召喚した使い魔にキスをすることで、使い魔にアビリティっていう特殊能力に目覚めさせるの」

「え? じゃあ、今のは俺のことが好きとかそういうんじゃ……」

「いや、わたしたち会ったばかりだし、いきなりキスとかそういうのは早いと思うし、それとも人界ではそれが普通なの? ……あれ?」


 俺は、全ての全能感を失い、生きた屍のように芝生に転がっていた。


「はっ、どうせそんなこったろうと思ったよ……いいんだいいんだ。どうせ俺が女子から好かれるわけないんだ……。こんな金髪碧眼のタレ目で可愛い絶世の巨乳美少女が俺のことを好きとかそんなラッキーあるわけないんだ……」

「うぉ、おっきくなんてないもん! 普通だもん!」


 リリスは顔を限界突破まで赤くしながら、両手で豊かなおっぱいを抱き隠した。

 けれど、両腕を使ってもなお隠し切れないくらいおっぱいは大きくて、腕の間から溢れていた。


 その光景に元気を取り戻して、俺の心臓はウッキウキのワックワクだった。


「ちょっと、目がえっちだよ」

「そ、そんなことはないさ、えへへ」

「もう、心配して損したよ。それで、えーっと、君の名前は?」


 胸を抱き隠したまま、すねたようにくちびるを尖らせてから(かわいい)、気を取り直したように名前を聞いて来た。


「ん、おう、俺は黒城刀夜。高校二年生で今年17歳だ。お前は?」

「わたしはリリス・アンフェール。王族学院高等部の一年生。君と同い年だよ。よろしくね」


 俺が素直に自己紹介をすると、リリスは機嫌を直してくれる。胸を抱き隠していた腕を伸ばして、握手を求めてくれた。


 小学生時代、フォークダンスを独りで踊った俺は、感動で涙腺が熱くなった。


 彼女はいい人だ。

 魔族だけどいい人だ。


 たとえ魔族の半分が人身売買業者だったとしても、この子だけはいい子に違いない嫁にしたい。


 心の中で熱いラブコールを送りながら、彼女の手を握った。


「状況は全然わからないけど、こちらこそよろしくな」


 信じられないくらいやわらかくて温かい感触に、俺は天にも昇る心地だった。


 手の平でこんなに気持ちいいなら、お尻やおっぱいはもうどんだけなんだろうと、弁護の余地がないほど卑猥で野蛮な妄想が膨らんだ。


 だが、ギリギリのところで理性の手綱を握りしめる。俺はおっぱい国民だけど、カラダ目当ての野卑な野蛮人とは違う。


 俺は巨乳が好きなのではなく、巨乳の女の子が好きなのだ。

 巨乳は入り口で、肝心なのは本人なのだ。

 だから、一度好きになったら一生大事にするしその子のために命もかけられる。


 とか、誰にともなく説明をしていると、愛しのリリスたんが眉根を寄せて、困った顔になる。


「えぇっと、ねぇ刀夜……頭の中に、何か浮かんだりしない? どんなアビリティが解放されたとか」

「刀夜って、いきなり名前呼びかよ……」


 なんていうか、ちょっと照れる。


「え? だって刀夜は刀夜でしょ?」


 ――魔界って、名前呼びが普通なのか?


 だとしても、なんだか嬉し恥ずかしい。まるで、恋人みたいじゃないか。


「それで刀夜、何か変わったことはない?」

「え? さぁ? 俺は特に何も変わらないけど」


 手足を見おろしたり、その場で飛び跳ねたり、色々してみるけど、いつもの俺だった。


「ていうか、アビリティってどうやって使うの?」

「魔法と違ってアビリティは身体能力の一種だから、感覚的にわかるはずなんだけど、おかしいな」


 リリスは、なんとかしようと、眉間にしわを寄せて、一生懸命考え込んでくれる。


 その姿だけで俺はご飯三杯はいけてしまうのだけれど、トニーの下卑た声がそれを邪魔してくる。


「おいおいこれは傑作だな! まさか、アビリティがないのか! 流石は劣等生、道化の才能はピカイチだな!」


 トニーの声に合わせて、何人もの生徒が笑い声をあげて、手を叩いた。


「ねぇ、今の撮影して投稿したらウケないかな?」

「あーあ、儀式のときはスマホ没収とか厳し過ぎだよねぇ」


 なんて声まで聞こえてくる。


 魔界にもスマホとか動画投稿とかあるんだな。そりゃあるか。文明レベルは変わらないし。


 一方、リリスは自分自身が馬鹿にされたときは弱いのか、最初の戦乙女然とした凛々しさもなく、弱々しく反論していた。


「そんなことないもん。刀夜だって、きっと凄いアビリティがあるもん」

「じゃあ早く見せて見ろよ。リリス、人間の使い魔にアビリティ無しとかお前終わっているだろ! 今すぐ教務課に行って退学届け出して来いよな! ほら、ほらほらほら」


 長身マッチョのトニーが、一歩、また一歩とリリスに歩み寄った。使い魔のケルベロスも、主に追従するように、獰猛な唸り声を上げながら歩みを進めた。


 その圧倒的な威圧感に、リリスはうしろに下がって、青ざめてしまう。


 あまりにも露骨ないじめの現場に、俺はまた苛立ちが募った。


「ほら、さっさと退学しろよ出来損ないがぁ!」

「やめろ!」


 たまらず、俺は彼女の前に割り込んで、トニーの前に立ちはだかった。


「なんだお前? 人間の分際で、この御三家たるトニー・ベルゼブブ様の前に立ちやがって、目障りなんだよド低能が!」

「御三家とか知らねぇよボケ! ただな、一個だけわかることがある、テメェが最低最悪のクズってことだ」

「アッ!?」


 トニーは眉間に深い縦ジワを刻んで、ドスを効かせた声でメンチを切ってきた。


 いつもの俺ならひるむだろうけど、生憎と、今は虫の居所が悪い。


「さっきから聞いてりゃ王族だの御三家だの使い魔がケルベロスだの、お前自身の力は一個もねぇじゃねぇか! それとも無能だから親の威光にすがるしかないのか?」

「テメェッ!」


 殺意すら込めて睨み下ろしてくるトニーに、叩きつけるように言ってやる。


「いいこと教えてやるよ。今テメェがやっていることはな、お前の嫌いな! 人間の! それも平民学校の! しかもお子様の小学生の教室で良く見る光景なんだよ!」

「なん、だと!?」


 ちょっと言い過ぎな気もしたけど、一度出た言葉は止まらず、俺は最後まで一気に吐き出した。


「こっちでもそういうのあるんじゃないのか? 家が金持ち、パパが何を買ってくれた、有名人の知り合いがいる。自分は何もできない何者でもない、親におんぶにだっこのバブちゃんのくせに親の権威を自分の力だと勘違いしてんじゃねぇよ!」


 額に青筋を浮かべて、トニーは歯をむき出しにして拳を振り上げた。


「そんなに死にたきゃ死刑にしてやんよ!」

「だめぇっ!」


 リリスが俺を守るように、トニーの前に体を滑り込ませた。


 耳をつんざくような警報音が鳴り渡ったのは、その時だ。




 オペレーターと思しき、活舌の良い女性の声が響いた。

『緊急警報! 緊急警報! 未確認飛行物体接近中! 繰り返します、未確認飛行物体接近中! 速度はマッハ7、8、9、まだ上がります!』



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第一話 投稿24時間で早速

103PV

21★

15♥

57フォロー

です。


ラブコメの日刊ランキングでも第10位です!


みなさん、ご支援ありがとうございます。



エピソードに♥をつけてくれた

d0w0bさん noctis0823さん saka0123さん Ichijiku9さん sithさん

zyuugoさん がえもんさん ドーリスさん gyalleonさん n5hl_14n5さん

かげほうしさん namiheiwww1さん kazu1202さん yo4akiさん ryulion21さん


本作に★をつけてくれた

dt230r-lanzaさん sousannさん saka0123さん Ichijiku9さん kainagi1005さん

noshyoさん n5hl_14n5さん かげほうしさん


私をフォローしてくれた

junichi923さん noctis0823さん sasuraibito2010さん 炭酸水さん 

fenlirthさん ひしゃまるさん


本作をフォローしてくれた

poke1234さん d0w0bさん

yuukisukiさん hanbyoninさん redhairさん haze666さん ikeさん

dt230r-lanzaさん noctis0823さん coloreabyさん sousannさん shistさん

青い花さん saka0123さん tmanatoさん SORA37422さん 080さん

az2746ikmさん kotakinakoさん r13juさん 

nanigesandayo1234さん ETC3737さん

keyboさん msmr_1102さん kainagi1005さん Taku5963さん 195323さん

sithさん kuroame1992さん taka-taka-takaさん o-kiさん arearoさん

kanon01さん がえもんさん yoshiryuさん Gum2Amさん Ichijiku9さん

syoninkyubananaさん noshyoさん t_123_mさん naponapoさん kanma12さん

lumlum09さん surokinさん kunkun2さん lee722さん ドーリスさん

zapaさん n5hl_14n5さん Tomi4320さん comomonmonさん 水澤龍希さん

nagasyoさん kazu1202さん yo4akiさん chibichibiさん ryulion21さん


ありがとうございました。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る