ダサメンの俺が勇者で魔王の眷属? 聖剣を使って彼女を魔王ロードに導きます!

鏡銀鉢

第1話 ダサメンの俺が召喚されました!


「君の名前、おしえてもらえるかな?」


 タレ目の可愛い、金髪碧眼の巨乳美少女に顔を覗き込まれながらこんなことを言われたら、俺はどうすればいいんだろう。


 年齢=彼女いない歴の俺にとっては、【非】日常としか言えないこの状況を理解できず、息を呑んだ。


 落ち着け、黒城刀夜(こくじょうとうや)16歳。


 こういう時はまず落ち着いてググるんだ。


 金髪碧眼 巨乳美少女 落とし方 でググれば、エロ動画と最適解を提示してくれるはずだ。


 そう思ってポケットからスマホを取り出すも、アンテナは立っていなかった。

 どこの僻地だよ!? 今どき田舎のじいちゃん家でもアンテナ立つわ! 先週送ってくれたHカップメロンありがとう!


 思わず周囲を見渡すと、そこは野球場のようなアリーナだった。


 その芝生の上に、俺は座り込んでいた。


 天井はなく、青い空と白い雲をバックに、雄大な翼を羽ばたかせながら、【馬】の群れが走っていく……。


「……ん?」


 視線を下ろして、もう一度周りに目配せをした。


 広い芝生の上には、彼女と同じ、どこかの学校の制服みたいな恰好をした男子や女子が100人以上いた。


 金髪に茶髪、黒髪に赤毛はいいとして、緑髪や紫髪、オレンジ髪や水色髪なんて生徒もいる。


 そして、どの生徒の前にも、何かしらの動物がいた。


 ただ、それはツノの生えた馬だとか、翼の生えたライオンだとか、二足歩行するトカゲや魚、三つ首三頭犬とか、いわゆる、モンスターと呼ばれる存在だった。


 テレビやネットの動画以外で、始めて見た。


 いやぁな予感に頬が引きつっていく。


 まさかね、といやぁな予感で重たくなる頭を支えながら、最初の金髪碧眼美少女へと向き直った。


「あのう……ここって国際スクール?」

「ううん、違うよ」


 髪の右側をしばったワンサイドアップヘアを揺らしながら、彼女は首を横に振った。


「じゃあ、留学生を多く受け入れている学校とか?」

「それも、違うよ」

「じゃあ、まさかここって……魔界?」

「うん、そうだよ」


 少女は、お人形さんのように愛らしく、そして残酷に頷いた。


「ノォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

人生最大の絶叫を上げながら、俺は倒れこんだ。




 このアガルタ大陸には、大きく分けて二種類の人種が住んでいる。


 つまり、大陸の東側である人界に暮らす俺ら【人間】と、大陸の西側である魔界に暮らす【魔族】だ。


 魔界には、【魔獣】と呼ばれる魔力を持った動植物、通称モンスターが多く生息している。


 そのせいか、そこに暮らすヒト種である魔族も、高い魔力と魔法の素養を持っている。


 そして、魔界では人身売買業者が跳梁跋扈し、たびたび人間を誘拐しては奴隷にしているともっぱらの噂だ。


 つまり、俺も今日から誘拐被害者、というわけだ。


 今まで誘拐被害者を助けられたことがほんとどない、政府の矮小過ぎる外交能力を考えれば、家に帰れる可能性は、米粒よりも小さかった。



   ◆



 俺は女の子が大好きだ。


 より厳密に言えば、可愛くて優しい女の子が大好きだ。


 もっと正確に言えば、可愛くて優しくてお尻とおっぱいが大きくて恥じらいながらも俺のためにえっちな服を着てくれて料理とか作ってくれて毎朝優しく起こしてくれる女の子が大大大好きだ!


 そういう女の子のためなら、ロシアンルーレットを六連発できるし、秘蔵のお宝画像動画フォルダを削除してもいい。


 それぐらい、俺は女の子が好きだ。


 だが、生まれてこの方、俺が女の子に愛されたことは、一度もない。


 小学校のフォークダンスを校庭の隅で独りで踊り、クリスマスは友達の家に行くと家族に嘘を言って公園のベンチで過ごし、バレンタインは自分で買ったチョコを食べた。

 考えるまでもなく、彼女以前に友達もいなかった。



 何故俺がこんなヤクザな目に遭っているのか?

 俺が何をしたというのか?

 非は俺にあるのか?

 神は俺の人生を弄んでワイン片手に美女を侍らせながら高笑っているのか?


 違う。


 全ては憎きハイヒエラルキー軍団が悪いのだ。


 美形、金持ち、スポーツマン、バンドマン、この四大リア充たちは、常に学校社会という名の封建制度の支配層に君臨し、俺のようなリア貧たちから青春を搾取していく。


 リア貧から抜け出すには簡単だ、奴らにこびへつらえばいい。


 女子は皆、美形と金持ちとスポーツマンとバンドマンが大好きだ。


 だから、奴らの太鼓持ちとして付き従えば、最低限のおこぼれにはあずかれる。


 しかし、誇り高い俺はそれを良しとはしなかった。


 邪知暴虐の悪漢共に魂を売り、栄光を手にしてなんの価値がある?


 リア充に尻を振った挙句に捨てられた女子に、妥協と諦めの精神で相手をしてもらい何の意味がある?


 男女のアレコレは、そんな濁り切った汚泥のようなものではないはずだ。


 俺は、俺の黄金の魂の輝きを見抜き、最初から俺一筋で愛してくれる女の子と付き合いたい。


 そういう女の子ためなら、体でも命でも張れるし、デスゲームでもどんと来いだ。


 だが、リア充たちに屈しない、高潔な俺の行動を、誰もが冷ややかな目で蔑み、彼女どころか友達もできなかった。


 あぁ、目を閉じるだけで蘇る、惨めな思い出とリア充への恨み辛みのブラックメモリー。


 俺の心は、墨汁の大海に落ちたが如く、真っ黒だった。


 高校入学前は、嬉し恥ずかしなバラ色のモテ期を期待したこともあった。


 だが、気が付けば、俺はボッチのまま、高校二年の始業式を迎えていた……。


 新入生の女子は、早くもリア充たちにメロメロだった。


 始業式が終わり、家に帰った俺は、自室のベッドで独り倒れこみ決意した。


「もう恋人なんていらない! 俺が幸せになれないなら、リア充共を引きずりおろしてやる! 奴らに復讐だ!」


 そう叫んだ瞬間、俺はベッドの上から、突如どこかへと落ちて行った。



   ◆



 以上、回想終了。


 これは罰なのか? 他人の足を引っ張ろうとした罰で、俺は魔界に誘拐されたのか? だとしたら神様、ちょっと罰が重すぎませんか? 俺まだ何もしていないんですよ? ちょっとお茶目なイタズラをしようと考えただけなんですよ? それとも夏の始まりは夏だから泥棒の始まりは泥棒の理論なの?


 と、俺が自問自答していると、下卑た笑い声に耳を汚された。


「おいみんな、僕の使い魔のアビリティによると、あいつ人間だぞ。ウケる」

「マジかよ。おいおいリリス、お前の召喚した使い魔、それ人間かよぉ?」

「へぇ、人間て使い魔になれるんだな。史上初じゃね?」

「まぁ、一応魔力はあるし、俺らヒト種も、魔獣の一種ではあるのかな?」

「いや、人間が持っているのは魔力じゃなくて霊力だろ?」

「でも魔力じゃなくて霊力を持つ精霊や妖精が使い魔になった例もあるよ?」

「だからって人間はねぇだろ人間は」


 ——なんだ、あいつら?


 首を傾げてから、金髪碧眼の少女に視線を戻すと、彼女はうつむき、軽くくちびるを噛んでいた。かわいい。


 どうやら、リリスとは、彼女のことらしい。


 それにしても、使い魔とか召喚ってどういうことだ? わけがわからない。


 リリスに尋ねようとするも、先に、別の男子が話しかけてきた。


「はんっ。傍流の傍流とはいえ、それでも魔王の血を引く王族かよ?」


 芝生を踏み荒らすように歩いて来たのは、長身の上に凶悪そうな赤毛の顔を乗せた、ガタイのいい、迫力のある男子だった。


 一発で番長、は古いな。今なら、政治家のドラ息子を連想させる。お近づきになりたくないタイプだ。


 親に買ってもらった高級車の助手席に爆乳美女を侍らせ、夜を街を走り周り、夜はガラの悪い仲間たちとよろしくないものを一発キメている、という妄想が膨らんだ。


「伝統ある使い魔召喚の儀式で人間なんかを召喚するとか、王族の恥晒しだな。それともお前、本当は浮気で生まれた愛人の子なんじゃないか?」


 途端、引き金を引いたように、彼女は顔を上げた。


「ッ、わたしの親を悪く言わないで!」


 やわらかいタレ目を吊り上げて、リリスは敢然と言い切った。


 そこに、さっきまでの弱さはなかった。


 凛と、戦乙女のような勇ましささえ感じる美貌をまとうリリスに、俺は首ったけだった。


 親想いの、優しい子らしい。


 可愛くて優しいなんて、最高じゃないか。


 けれど、赤毛の男子はどこ吹く風だ。鼻で笑い一蹴する。


「じゃあお前、ここがどこで、そいつがなんなのか、言ってみろよ」


 挑発的な問いかけに、リリスはひるまず答えた。


「ここは魔王学院で、この子は人間だよ」


 ——さっきも言っていたけど、俺が人間てよくわかったな。


 人間と魔族の見分け方は、あまりない。


 紫髪とかピンク目とか、魔族だけの髪や目の色もあるけど、人魔共通の色も多い。


 魔族に多い顔立ちはあるけど、同じ顔立ちは人間にもいる。


 両者を見分けるには、魔法を使うしかない。


 ——さっき、アビリティとか言っていたけど、それか?


 俺が疑問に思う間に、赤毛の男は話を進めた。


「その通り! ここは真祖たる初代魔王様の血を継ぐ王族、そして王族に連なる一部の上級貴族のみが入学を許される伝統と格式ある学院だ! 生徒は全ての魔族の模範であり理想だ!」


 自慢げに舌を回していた赤毛だが、一転、唐突に声のトーンを落とした。


「なのに、魂の具現とも言われる使い魔召喚で、魔力も持たない人間とか、お前のアンフェール家の格が問われるぜ?」


 人を馬鹿にした態度に、俺はイラっときた。


 人間を馬鹿にすることもだけど、態度がクラスのリア充を思い出す。



 

 ——オレのSNS、フォロワー8000人もいるんだよねぇ。わかる? 8000人がオレを支持してるの。黒城とかどうせ家族しかフォローしてないんだろ? ダッサ、よく生きてられるな。マジウケる。




 思い出したら、なんだか鈍器が欲しくなってきた。こう、両手の力でフルスイングできるやつ。ひゅっひゅっ!


「それに引き換え見て見ろよ。御三家であるオレ、トニー・ベルゼブブ様の使い魔を。地獄の番犬の異名を取るケルベロスだぜ」


 トニーがドヤ顔で指を鳴らすと、牛のように巨大な三つ首三頭犬が、敏捷性を連想させる柔らかい足取りで、音もなく歩いて来た。


 犬、とは言いつつ、その迫力は狼どころかクマ以上だった。


 重厚感漂う漆黒の毛並みに、地のように赤く凶暴そうな瞳、鋭い牙がズラリと生えそろった、ライオンのように大きな口からは、野太い唸り声の三重奏だ。


 これぞ地獄の番犬とあだ名されるに相応しい威圧感に、俺は座ったまま、腰を抜かした。足から力が抜けるのがわかる。


「ふふん、ドラゴンにも引けを取らない超一級の魔獣を使い魔にしてこその王族。これが本物、未来の魔王たるものに相応しい従者だ。と言っても、魔王なんて、御三家でもないお前には関係ない話だったかな?」


 饒舌に語ってから、トニーは痛快そうに笑った。


 さっきから知らない専門用語ばかり並べ立てられて、さっぱり話が見えてこない。


 それでも、トニーが最低最悪のゲス野郎で、俺とリリスを馬鹿にしていることだけは、嫌と言う程わかった。


 こいつの家の鍵穴に瞬間接着剤を流し込んでやりたい。それも毎日。


「わたしのことはいい。でも、わたしの使い魔をバカにしないで!」


 ——え? 俺かばわれている? マジで?


 女子から優しくされたことのない俺は、それだけでちょっと泣きそうだった。涙腺にジンとくる。


「じゃあさっさとアビリティ解放しろよ。もしかしたら、そんな人間でも、凄いアビリティ持っているかもしれないぜ。ちなみに、オレのケルベロスは高速再生だ。何度切られても蘇る、まさに地獄の番犬の二つ名に相応しい超アビリティだ!」


 トニーの宣伝に、周囲の生徒たちは息を呑んで、感嘆の声を漏らした。


「さ、流石は御三家の一角、ベルゼブブ家のご子息だ……」

「使い魔がケルベロスで、アビリティが高速再生って、チートじゃないか……」

「わかってはいたけど、使い魔のレベルが主に比例するって本当なのね……」

「学年序列も、どうせ御三家で上位を独占するんだろうな……」


 羨望、嫉妬、諦め、様々な眼差しを心地よさそうに浴びながら、トニーは勝利を確信したように口角を上げた。嫌な顔だ。


「いいよ。わたしだって、王族の一員なんだから」


 語気を強めて言い返したかと思えば、一転、リリスは申し訳なさそうに眉尻を八の字に垂らすと、俺を向かい合うようにしゃがみこんだ。


「その、初対面の人にこんなこと、嫌だったら、ごめんね」


 言って、リリスは前のめりになって、両手を芝生に着けた。


 彼女の愛らしい顔と、桜色の唇が迫った。


「へ?」

「んっ」


 ぷにっとやわらかいみずみずしい感触が、左の頬に触れた。


 それが、キスだと理解した途端、俺は目を剥いた。


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