カフェ『TWO BOTTOM』でそこそこのコーヒーを。

宇部 松清

第一豆 キリマンジャロの焦燥

開店 まえがき

 やはり時代は『カフェ小説』だ。

 そう作者は思ったらしい。

 

 そんでイケメンのマスターと、学校一の美少女(もちろん巨乳だ)のJKアルバイト、それから可愛らしい看板猫でも出しておけば、読者様は食いついて来るだろう。コーヒーのことはよくわからないし、そもそもカフェなんてところにもそんなに行ったことが――せいぜいドトールやスタバだ――ないけれど、なぁに、とにかく『カフェ』と書いておけばその辺は、自分よりも想像力のたくましい読者様が勝手に脳内補完してくれるに違いない。よし、これで★四桁&書籍化はもらったな。ドラマ化も待ったなし。よっしゃ、作者権限を振りかざしてエキストラとして出演してやれ。


 そんな邪なことを考えて、うきうきと作者は書き始めたのだ。いつも通り、プロットなんてものも「書いてるうちに浮かぶさ」とほとんど作らずに。何せこれを書いているこの瞬間ですら、マスターの名前も決まっていないのである。


 けれども、とにかくカフェなのだ。

 カフェを舞台にした小説を、何が何でも、是が非でも、全身全霊で、五里霧中で、血気盛んに、一気呵成で書き上げなければと、そんな使命感に燃えていたのである。


 そして、燃え尽きたいま、ほとんど炭化した状態でこれを書いている。



 さて、何度も言うように『カフェ』である。


 そしてその『カフェ』がある場所はどこなのか。

 この作者の小説の舞台といえばもう十中八九東北か北海道になることで有名だが、その御多分に漏れず、秋田県は南由利ヶ浜みなみゆりがはま市である。もちろんこの『南由利ヶ浜市』というのは架空の市だ。せっかく秋田県とまで書いちゃってるんだから、いっそその辺も実在する場所にしろよ、と思われるかもしれないが、そうなると、この作者はいかんせん引き出しが0タイプの人間であるため、ついうっかり自分が住んでいるところにしてしまったりするのである。そうなるともう色々面倒なことになるに違いない。ファンが聖地巡礼する、という意味ではなく、頼んでもいない特上寿司がわんさと届く、といったような。だから、いわゆる身バレ防止、というやつだ。


 そんな秋田県南由利ヶ浜市のどこかにあるカフェ『TWOトゥー BOTTOMボトム』は、そこそこに美味しいコーヒーと特別イケメンでもないけれど気さくなマスターで有名である。早速イケメン設定が破綻したことにお気づきだろうか。この作者、少々天の邪鬼のきらいがある上に物忘れも酷いため、イケメンで釣ってやれ、という当初の目的を早くもどこかに置き忘れてきてしまったようだ。書いてしまったから、もうこれでいくしかない。


 しかし、ご安心なされ読者諸君。まだヒロインが残っている。辛い現実社会を忘れるため、ひと時の癒しを得るため、あるいは、もういっそ正直に書いてしまうとエロい目的のため、ヒロインってやつはやはり可愛くないといけないのだ。マスターの方で失敗してしまった以上、こっちの方は慎重にいかないとならない。マスターのせいで女性読者の獲得は望めないので、こうなればヒロインに頑張って男性読者を釣りあげてもらうしかないのだ。


 マスターがいまだ名無し状態(でも『マスター』って役職があるし、ギリギリまでこれで良いんじゃないかとも思い始めてる)であるにも関わらず、ヒロインの名はあっさり決まった。ヨリ子ちゃんである。決め台詞は「私が腕にヨリをかけて作りますね!」でバッチリだ。けれど彼女は配膳担当のアルバイトであるため、どんなに腕にヨリをかけたところでお冷を汲むのが関の山だったりするのだ。そして、皆のアイドル的存在でなくてはならないわけだから、多少ふっくらしている方が良いだろう、そうすれば必然と巨乳にもなるってなものである。笑うとほっぺたに小さなえくぼが出来て、色白で、ふくふくの大福のようにすべすべで、J純情K可憐なアラウンド30。完璧だ。


 しまった、ヒロインもちょっとミスったかもしれない。


 そう思ったが、もう後にはひけない。

 いや、厳密には全然ひけるというか、このパソコンってやつは大変優秀なので、Back Space キーを使えばアラウンド30の辺りなんかは割と簡単に消えてしまうのである。けれどもそうしないのは、作者がその上をいくアラウンド40であり、「アラサーなんか全然若い若い」と感覚がマヒしているからに他ならない。


 ちなみに、一般的に『アルバイト』といえば学生のイメージなので、ヨリ子ちゃんのようなアラサーの場合、『パート』という表現の方がふさわしいのではないかと思った方も多いだろう。もちろん作者としてもそっちの方がしっくりくる気がするのだが、どうやら法律上ではパートもアルバイトも同じらしいのだ。だから、何となく『アルバイト』の方がフレッシュ感があるから、という、結局それも学生のイメージがあるからじゃないのか、という突っ込み待ちのような理由でこのカフェでは『アルバイト』と呼ぶことにしている。


 さて、こうなると頼みの綱はもう看板猫しかいない。

 どの世界もそうだが、『子ども』と『動物』は数字が取れるのである。

 しかし、子どもを出すとなると、この作者の場合「ここはかつて小学校があって、空襲でたくさんの子ども達が――」などといった嫌なエピソードがあるタイプの地縛霊にしてしまう危険性があるので油断出来ない。地縛霊が出ちゃうとなると、あやかし系の物語になってしまうので、それはそれで美味しいと思いつつも、泣く泣く諦めた次第だ。

 そんなわけで、『動物』の方に頑張ってもらおうということになった。そして、カフェといったらそりゃあ猫でしょう、と、作者の脳内に住む誰かが言ったのだ。猫を飼ったこともないのに。まだ犬ならば経験があるのだが、大型犬であるため、カフェに大型犬がいるとなったらそれはもうドッグカフェとかそういうやつになっちゃって、飼い主さん達との交流を描いたハートフルなやつにしないといけない気がしたので却下である。ストーリーも何も決まっていないのに、ホラー展開とハートフル展開は違うと思ったのだ。現在のところは。


 かといって、血統書付きのやつは駄目だ。

 何年か前の雨の日に店の前に捨てられていた――というような、そこだけはちょっと人情味のある馴れ初めが欲しい。そうなると血統書付きでは駄目なのである。そんなわけで雑種のオスだ。けれど実はそれが三毛猫で――などというミラクルの要素もない。純然たる雑種。純なのに混ざってんのかよ、とここは笑うポイントである。

 

 名前はやはりスイーツ系が良いだろう。なんてったってカフェだし。個人的には和菓子系の名前がぐっと来るので、『みたらし』になった。なんってったってカフェだし、という理由でスイーツをセレクトしたわけだが、当然のようにこのカフェに『みたらし』系の和スイーツは存在しない。ないのにつけたのだ。いや、つけたのだ、という表現の方が良いだろう。何かこう、後に何かしらの伏線になるかもしれない。ならない可能性の方が高いけど。

 そしてこのみたらしの性格だが、やはり猫といえばツンデレだと思う。犬のように忠誠心がどうだとか、そんなものは一切ない。自分が撫でられたい時なら撫ででも良いけど、そうじゃない時は半径3メートル以内に近付くんじゃねぇよ、みたいなイメージなのである。そこが猫の可愛さじゃないかと勝手に思っているので、このみたらしも当然のようにツンデレである。こと創作の世界では、多少極端なくらいがちょうど良かったりするので、せっかくだから『スーパーツンデレ』ということにした。デレを体験した人は向こう一週間ツキまくりである。



 さて、そんなそんなにイケメンじゃないマスターと、ふっくらした可愛いアルバイトのヨリ子ちゃん、そして、看板猫のみたらしがいるカフェの話を始めようと思う。正直言って不安しかないわけだが、書くっきゃないのだ。


 だって時代は『カフェ小説』なのだから。

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