第2話 始まりの前

「はやく、ほら、行くよっ」

「待って、お姉ちゃん」

「行ってきまーす!」

「ちょっ、ちょっと待ってっ」

「はーい。ほら、あかり、ちゃんとお姉ちゃんに付いて行くのよ。じゃ気を付けて。行ってらっしゃーい」

「行ってきますっ!」 

 毎朝のことなのに、学校へ出かける前になるといつもバタバタしちゃう。ちゃんと準備してるつもりなのに、必ず何か忘れていたりして、お母さんやお姉ちゃんにせかされて、あわてちゃうんだ。


 お姉ちゃんは、後ろから付いて行くわたしを時々振り返って確認しながら、ずんずん進んで行く。細い道を進んで二つ目の角を曲がると少し大きな通りに出る。歩道は、たくさんのランドセルであふれている。大小いろいろな集団を作りながら、みんな学校の方に向かって歩いていく。


「あおい!おはよっ!」 

「あ、おはよー」

「おはよー」

「おはよ。ねぇねぇねぇ、昨日のテレビ、見た?」

「アレでしょ!?見たー。見た見た。あれさー、」

「オッス!あおい。わりー、昨日借りた消しゴム持って帰ってたわ。ちゃんと持ってきたから!」

「あー、良かったぁ。無いと思ったんだぁ。なんだ、ケンタだったのか。犯人は。」

「わりー、わりー」

 

 いつの間にかお姉ちゃんの周りには友達が集まって、にぎやかになる。後ろを歩いているわたしは、その集団の後ろへと追いやられてしまう。

 いつもの風景。たくさんのランドセルに囲まれたお姉ちゃんが、時々後ろを振り返って、わたしが付いて来ているか確認する。わたしはお姉ちゃんに目で合図する。ちゃんと居るよ。ここに。お姉ちゃんは小さくうなづいて、わたしの合図をキャッチする。

 学校に着くまでの、いつものやり取りだった。



 学校が終わると、帰りの時間が同じになる水曜日だけ、くつ箱の所でお姉ちゃんを待っている。時々は、お姉ちゃんが先に待っていてくれることもある。この時だけは、お姉ちゃんは、一人だ。だから二人で並んで帰る。歩くのが遅いわたしに合わせて、おしゃべりしながら家まで向かう。


「今日は、どうだった?」

「また先生に注意された。あの先生キラーイ。わたしばっかり注意するんだよ!ほんのちょっと、したくが遅れただけなのにぃ!どう思う?イジメだよ。イジメ。あたしのことがキライなんだよ、あの先生。だから、あたしもキライ」

 思い出すだけで、ムカムカした気持ちになる。先生がキライだから、学校に行くのもイヤになる時がある。

「はははっ。あかり、何か支度するの遅いんだもん。先生はね、みんなと同じように出来ない子は、困った子と思ってるからね。あの先生だけじゃないから。早く支度出来るようにすればいいんだよ。」

「やってるよ。やってるけど、遅くなっちゃう時だって、あるじゃん」

「そだね。ま、あんまり気にしなくていいよ。今日、おやつ何かな?」

「あー私、あのクッキーがいいなぁ。この前買ったやつ。まだ食べてないよね」

「お母さんに食べられちゃってるかもよ。」

「えー、ダメー。早く帰ろう!」

 

 小走りに駆け出したわたしを見て、お姉ちゃんが笑う。


「あははっ。そんな時だけ動きが早いんだからっ」



 

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